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24/42

勇者の時代

意外な展開、にしたつもりではあります

街へ戻る道。

夕焼けはとうに落ち、

空は鈍い色に沈んでいた。

 

その中を――

四つの影が、重く歩いている。

誰も喋らない。

正確には、“喋りたくない空気”がそこにあった。

 

ジークは先頭を歩こうとしていた。

だが、その足取りはどこか不安定で、

いつもの“堂々とした姿”は影を潜めている。

 

後ろから、乾いた声が落ちた。

 

「……もう無理」

ルーナだった。

 

足を止める

その声には、はっきりとした拒絶があった

 

ジークが振り返る

「なに……?」

 

ルーナは、もう隠さない

「なにが勇者だよ」

 

冷たい言葉、空気がさらに冷える。

エルナも続く。

「ジーク」

静かに、だが確実に刺すように

「今回で分かっただろ?」

一歩、距離を詰める。

「お前は向いてない」

 

ミラは、ため息混じりに肩をすくめる。

「やっぱり冒険者になるなんて無謀でしたわ」

少しだけ笑う。

 


「なっ……!?」

 

言葉を失う、初めてだった

 

仲間に――

正面から否定されるのは

 

それは、敗北よりも重い

“信じていた側”からの否定は、人の足場を一瞬で崩す

 

ジークは何か言い返そうとする

「ま、待て……!」

 

だが、言葉が出てこない

正論だったからだ。

 

ルーナは、視線を逸らさない。

「昨日も今日も全部、あんたのせいで崩れてる……

連携も何もないそのくせ、責任も取らない」

 

一つ一つ。

積み重なっていたものが、剥がれていく

 

 

ジークの拳が震える

「……違う……!」

だが、その声は弱い

 

 

自信は根拠がなければただの虚勢になる

そしてそれは崩れる時は一瞬だった。

 

街の灯りが見えてきた。

 

だがそこに向かう足取りは――

どこまでも重かった。


村の入口。

夕暮れはすでに過ぎ、

灯りが一つ、また一つと灯り始めていた。

 

だが――その温かな光は、ジーク達を歓迎してはいなかった

 

足を踏み入れた瞬間、空気が明らかに違う

 

ざわ……ざわ……

 

小さな声。

視線。

 

「……あの時騒いでた奴だ」

 

誰かが、はっきりとそう言った。

 

ジークの足が止まりかける。

 

「昨日の……ほら、あの」

「勇者とか言ってた……」

「結局何もしてなかったやつだろ……?」

 

ひそひそ声。

だが、聞こえるように言っている。

 

後ろ指

 

 

ルーナ達は――何も言わない。

ただほんの少しだけ、距離を取って歩いていた

その距離が全てを物語っている。

 

 

ジークは、何も言い返せない

いつもなら怒鳴り返していたはずなのに

 

今はできない

 

その少し遠くを重低音と共に一台のバイクが通り過ぎる。

 

ブォンッ――

 

続いて。

 

ガーディアン90。

ククリRPV。

 

見慣れた車両、カロン達だった

 

すでに帰還し。

討伐も報告済み。

 

村人達の視線が、明確に変わる。

「勇者様だ……!」

「やっぱりあの人達が……」

「さっきの奴とは違うな……」

 

同じ“外から来た者”なのに、扱いはまるで違う。

 

ジークは、その光景を見ても――何も言えない。

 

同じ舞台に立っているつもりでも、

見えている景色はまるで違う。

 

 

そもそも、“冒険者”という存在自体が過去のものだった。

魔物が存在し、未開の地を切り拓いていた時代

今から三十年以上前。

 

その中心にいたのが――ワイアット・クレイン。

 

カロンの父であり、クレイン王国初代国王。

 

 

時代は変わった、制度も役割も変わった

近年、魔物の増加により一部で復活の動きはある

 

だがそれでも尚、“冒険者”とは過去の栄光に近い職だった。

 

では今のジークは、何なのか?

それは誰にも、分からなかった。

 

ただ一つ、確かなのは

“結果を出していない者”には――

居場所がないという事だけだった。


村の喧騒から少し離れた路地

灯りはあるが人通りは少ない。

 

足を止めたのは――ルーナだった。

その目にはもう遠慮は無い

 

「て言うかさ……お前、なんで勇者名乗ってんだよ」

 

真正面からの言葉にはジークの表情が歪む。

「なんだと!?」

すぐに反発する

「俺は世界を救う救世主になる為に――」

 

だがその言葉をエルナが遮る

「やってないだろ」

短く鋭い

「国や街に着く度に、変な演説してるだけじゃないか」

 

ジークが言葉に詰まる。

だがすぐに声を張り上げる。

 

「冒険者としての仕事はしてるだろ!!」

 

どこか必死だった。

 

「その中で魔族と戦い、名を売っている!!」

 

拳を握る。

 

「誰のお陰で食えてると思ってるんだ!!」

 

 

空気が、さらに冷える。

ミラが、ゆっくりと口を開く。

「……好待遇とか言って」

 

ため息混じりに本音が漏れる

「ついてきたのが失敗でしたわ」

 

視線を逸らさない。

 

「今の時代に、ジーク様のやってる事なんて……

勇者ではなく――ただの旅芸人ですわ」」

 

ほんの少し鼻で笑う


 

「なんだと……貴様ら……!!」

 

怒り…だがその怒りは、どこか空回りしている。

 

ルーナは、もう見ていられないというように顔を背ける。

 

「……今日はもういい…話になんねぇ……」」

吐き捨てるように


エルナも静かに続く

「今夜は別行動にしよう」

 

ミラは一歩下がる。

「私達は宿に帰りますので……ジーク様は別で探して下さいませ」」

 

淡々としたその言葉は、ほぼ“決別”だった。

三人が背を向け離れていく

 

ジークの中で、何かが崩れる。

 

「ま、待て……!!」

 

思わず手を伸ばす、この期に及んで命令文…

当然誰も、振り返らない

 

仲間は、無条件でついてくる存在じゃない

それを履き違えた時、

“一人になる瞬間”は、思ったよりも早く訪れる

こうしてジークは、その場に取り残された

 

初めて“孤独”という現実と向き合う事になった。


夜が静かに降りていた

村の広場

昼間の喧騒が嘘のように、人影はまばらで、

灯りだけがぽつぽつと点いている。

 

その片隅、古びたベンチにジークは座り込んでいた

背を丸め肘を膝に乗せ、ただ地面を見つめている

 

さっきまでの怒りも、勢いも、もう無い。

 

代わりにあるのは言葉にならない重たい何か

 

 

「……なんでだ……」

 

小さく、呟く。

 

「俺は……」

拳を握る

 

「俺は……世界の主人公になるはずだったんだ……」

 

誰に聞かせるでもない

ただ、自分に言い聞かせるように

 

理想は時に人を支える

だが現実との距離が離れすぎた時

それは、ただの“呪い”になる。

 

ジークは、歯を食いしばる。

 

「勇者なんだ……俺は……」

 

その言葉は、もう空虚だった。

 

その時、少し離れた通りから声が聞こえてくる。

笑い声と軽い足音だった

 

ジークは、顔を上げる。

 

少し離れた道にいたのはカロン達だった。

 

街灯の下、自然体で歩いている。

 

「だから言っただろ、あの店は当たりだって」

 

リリーナが腕を絡める。

「もう♡カロンくんの“勘”ほんとズルいんだけど♡」

 

沙耶が一歩近づく。

「殿♡次は甘味処でござる!先程の店の近くに良さげな場所があったでござるよ!」

 

スタオンヌが微笑む。

「カロン様となら、どこでも楽しいです♡」

 

三人とも、自然に寄り添っている。

無理も違和感もない

ただ“そこにいるのが当たり前”みたいな距離。

 

カロンは、少しだけ笑う。

「はいはい、順番な」

 

軽くあしらいながらも拒まない。

その光景をジークはただ見ていた。

 

「……なんであいつらは……」

喉が乾く。

「なんで……俺じゃない……」

 

その言葉は怒りでも、嫉妬でもなく

ただの理解できない“現実”への、問いだった。


カロン達の姿が、遠ざかっていく

ジークは、物陰に身を潜めたまま――

ただ、やり過ごす事しか出来なかった。

 

足音が消える、はずだった

「リバティーも、今日はお疲れ様」

 

別の声が静かに響く

ジークは反射的に顔を上げる

 

そこにいたのはレオンとリバティーナだった。

 

先程の賑やかな空気とは違う

静かで、落ち着いた空気

 

リバティーナが、柔らかく微笑む。

「レオンさんも……大変でしたね」

 

レオンは少しだけ苦笑する。

「まあ、カロンがやってくれたからな」

肩の力を抜く。

「大した事は無いよ」

 

二人は自然と距離を詰め、肩と肩が軽く触れる

それを、どちらも気にしない

むしろそれが当たり前のように歩いていく

 

言葉は少ない。

だがその間にあるものは明らかだった。

 

強さに惹かれる者もいれば。

静かに寄り添う時間を選ぶ者もいる。

どちらも“正しい”が決して同じではない。

 

ジークはそれを見ていた

さっきのカロン達とは違う

 

だがこちらもまた、“満たされている”。

 

 

「………」

 

言葉が出ない、自分は何を求めていたのか。

勇者を名乗り

仲間を集め

ルーナ達を引き連れてその先に何を見ていたのか。

 

「……俺は……」

 

初めてその問いが、自分に向けられる。

 

「何を……したかったんだ……」

 

胸の中にあった“確信”が音もなく、崩れていく。

 

自信とは、時に“考えない事”で保たれる。

だが一度でも立ち止まれば、

そこには――何も無い事に気づく。

 

ジークは俯く、拳を握る力ももう無かった。

初めて“自分が分からなくなる”という感覚を知った

それは今までギリギリで支えてきた自我が崩れかけていると言う事だった


夜を越えた街は少しだけ冷たかった

朝の光は差しているのに、

ジークの中には何も残っていない。

 

宿には入れなかった

謝る事も、頼る事も

何一つ、出来なかった

 

ただベンチで夜を明かし、

冷えた身体のまま、街を彷徨っていた。

 

 

「……」

 

足取りは重い

視線は、地面に落ちたまま

プライドは、人を強くもする

だがそれに縛られたままでは一歩も進めない

 

 

その時だった。

「おーい!ジーク!」

 

聞き慣れた声

ジークの肩がビクリと揺れる

ゆっくりと顔を上げる

 

そこにいたのはルーナ達、三人。

 

そしてその隣には――

カロン達がいた。

 

一瞬、足が止まる

 

逃げるか、向き合うか

選ぶ余地もなく――ジークは、歩き出していた

 

距離が縮まる

そして

 

ルーナ達が先に、頭を下げた。

「お願いします」

 

ルーナの声は、はっきりしていた。

「借金の事も有り……」

 

エルナが続く。

「もう、私達だけじゃ無理だ」

 

ミラも、静かに言う。

「この男も含めて……面倒見て頂けません?」

 

 

ジークの中で何かが、ゆっくりと理解に変わる

 

 

自分の仲間がかつて、自分が“雇ってやろう”

と見下した相手に頭を下げている

 

そしてその“ついで”のように――

自分にも、最後の道を差し出している。

 

(……は……?)

思考が止まる。

 

(俺が……?)

 

“下に付く?”

 

(ふざけるな……)

 

本来ならそう思うはずだった、だが声が出ない。

昨夜の光景、カロンの背中、ルーナ達の言葉

村人の視線

全てが、頭の中で重なる

拳が、震える

 

(俺は……)

“何をやってきた?”

初めて逃げずにその問いが浮かぶ。

 

 

長い沈黙、全員が待っている。

 

 

カロンは何も言わない

ただ、見ている

選ばせている

 

ジークは、歯を食いしばる。

「……ざ……」

声が震える。

「ざ……雑用でいいので……」

顔を上げられない。

「雇って……下さい……」

 

その一言は――

これまでの自分を、全て否定する言葉だった。

 

人が変わる瞬間は、派手じゃない。

ただ――

“認めるかどうか”

それだけで決まる。

そして今、ジークは初めて――

自分の立ち位置を認めた


ルーナ達は息を呑む

エルナも、ミラも――

何も言わず、ただカロンの反応を待つ。

 

カロンはしばらくジークを見ていた。

その表情は読めない。

 

からかうでもなく、見下すでもなく

ただ静かに

 

そして、ふっと息を吐く。

「まあ……」

頭を少しだけ掻く。

「ガチで困ってるみたいだし」

軽く肩をすくめる

「君らも苦労してんのは分かった……」

 

ルーナ達の目がわずかに揺れる

その言葉はただの同情じゃなかった。

 

ちゃんと見ている、ここまでの全部を


カロンは、ゆっくり頷く。

「分かったよ」

 

短い、だが――それで十分だった。

 

「……!」

 

「助かる……」

 

「ありがとうございますわ……!」

 

三人が、深く頭を下げる。

 

 

ジークは――顔を上げない

表情は見えない

だが握られた拳が、わずかに震えていた。

 

悔しさ

屈辱

 

そしてほんの少しの安堵。

 

 

それらが混ざった、どうしようもない感情。

これは“続く為の選択”でもある。

 

 

こうしてジークはプライドと引き換えに

 

“生き延びる場所”を手に入れた

朝の光が、少しだけ強くなっていた

新たな“同行者”を迎えた一行は、

再び歩き出そうとしていた

 

カロンが、軽く手を上げる。

「じゃあこれ」

 

エマも隣で微笑む。

「皆さんどうぞ」

 

差し出されたのは――

四つの鞄。

 

ルーナがそれを受け取る。

「これは……?」

 

カロンはあっさりと言う。

「個人の活動費だ」

 

一瞬の間。

 

「旅の資金から、一人1億ずつ配ってるんだ」

 

あまりにも軽い、たがそんな額では無い

 

「管理は自分でやれよ?」

 

エマが補足する。

「ジークさんは、借入額を差し引いて8200万です」

 

 

空気が、止まる。

「……は?……1億……だと……?」

ルーナも言葉を失う、当然と言えば当然だ

 

「自由に使っていいんですの!?」

ミラが思わず声を上げる、

 

カロンは肩をすくめる。

「自分の物はそこから出せ、発注はエマに言えばいい」

 

リリーナが横で笑う。

「ケチケチする方が面倒でしょ♡」

 

 

三人は顔を見合わせる

信じられない

 

だがこれが、“このパーティの当たり前”。

 

 

「……ありがとうございます……!」

 

ルーナが深く頭を下げる。

エルナも、ミラも続く。

 

その姿は、さっきまでとは明らかに違っていた。

“救われた側”の顔。

 

 

だが一人だけ。

違う表情を浮かべている男がいた。

 

 

ジークは鞄を受け取りながら――

 

その中身を見て。

 

 

「………」

 

一瞬、目を見開く

 

そして

 

ゆっくりと、口元が歪む

 

 

(これなら……!!)

 

 

さっきまでの屈辱も、悔しさも。

 

一瞬で塗り潰すような――

 

 

不敵な笑み。

 

 

人は変わる事もある。

だが――

変わらない部分も、確かに存在する。

 

カロンは、その横顔をちらっと見る。

 

何も言わない。

 

 

ただほんの少しだけ、笑った。

 

 

「……行くぞ」

 

 

新たな仲間。

 

そして――

 

新たな“面倒”を連れて。

 

一行は、再び歩き出した。

平行世界のそっくりさんは散々だったけど、本世界であるこっちはどうなるか…

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