調和と相乗の四重奏
カロンにカッコつけさせようとしたらこうなってました
夜。
宿の一室。
ランプの灯りが、柔らかく部屋を照らしていた。
外の喧騒も遠く、
今はただ、静かな時間だけが流れている。
スタオンヌが、ふと思い出したように口を開く。
「そう言えばカロン様」
カロンはベッドに寝転びながら、軽く視線だけ向ける。
「ん?」
スタオンヌは少しだけ首を傾げる。
「以前使っていた……ノーザン・クレイン様の呪文……」
言葉を選びながら続ける。
「何故、普段は使わないんですか?」
部屋の空気が、ほんの少しだけ変わる。
勇者ノーザの奥義――タケミカヅチ。
カロンも確かに扱える。
だが旅を始めて戦闘で使った事は今の所無かった
カロンは、天井を見上げたまま呟く
「まあ……」
辛い思い出を呼び起こすように
「魔法って昔、色々あって好きじゃないんだよな……」
エマが、苦笑いを浮かべる。
「あ〜……確かに」
納得したように頷く。
レオンも、少しだけ顔をしかめる。
「あれは……な……」
幼馴染二人の間だけで通じる空気。
リバティーナが不思議そうに二人を見る。
「……?」
カロンは、軽く笑う。
何でもない事のように言う。
「昔な…隣の学校の奴に使って病院送りにしてやってさ」
「え!?」
リバティーナは思わず声が出る。
「一般人に使ったんですか!?勇者の奥義を!?」
カロンは肩をすくめる。
「まあな」
悪びれもない。
カロンは少しだけ懐かしそうに笑う。
「そんな事ばっかやって、ヴィヴィ婆さんによく怒られたモンだな……」
一瞬だが全員が沈黙した
力は、使い方を誤ればただの暴力になる。
それを知った時、
人は初めて“力を持つ意味”を考える。
リバティーナは少しだけ不安そうに聞く。
「……それで、使わないんですか?」
カロンはゆっくりと起き上がる。
そして、軽く手をひらひらさせる。
「まあ……それもあるけどな」
軽く背もたれにもたれながら、視線を天井へ向け、少しだけ笑う。
「俺は使うなら、もっと自由度の高い魔法が使いたかったんだよ」
沙耶が首を傾げる。
「自由度とは?」
カロンは少し考えてから、言葉を選ぶ。
「メグ姉みたいに時間とか、概念とか、この世の法則そのものをいじるようなやつとか」
「あとアクアみたいに“トライデント!”って叫んだら、イメージした技がそのまま出る感じの力」
レオンが呆れたように言う。
「だいぶ雑だなそれ」
カロンは肩をすくめる。
「でもああいう方が“自分で使ってる感”あるだろ?タケミカヅチは、俺が欲しかった力じゃない」
少しだけ眉をひそめる。
スタオンヌは静かに頷く。
「……確かに、あの魔法は“型”として完成されていますからね」
リバティーナは、少しだけ顔を引きつらせながら心の中で呟く。
(カロンさんがそんなの持ったら……)
一瞬、想像する。
時間を弄るカロン。
概念を書き換えるカロン。
イメージしただけで現実を変えるカロン。
(魔王より危険ですよ……)
だがそんな事はお構いなし
カロンは、どこか楽しそうに笑っていた。
「ま、今のところ使う必要性も感じないけどな」
力を求める理由は、人それぞれ。
だが“自分に合うかどうか”はまた別だ。
その時。
ドンッ――!!
鈍い衝撃音が、街の空気を裂いた。
次の瞬間。
カロン達はほぼ同時に動いていた。
扉を蹴り開け、外へ飛び出す。
目に飛び込んできたのは――
逃げ惑う人々。
悲鳴。
倒れた屋台。
そして。
その先に立つ、“異形”。
人の形をしているようで、していない。
歪に膨れ上がった肉体。
黒ずんだ皮膚。
理性の欠片も感じられない眼。
村人が叫ぶ。
「魔族だ!!逃げろ!!」
カロンはその巨体を見据える。
一歩も動かない。
「……見た感じ…“過激派”ってやつか?」
軽く首を鳴らす。
スタオンヌも冷静に分析する。
「恐らく……そうですね」
村人が必死に叫ぶ。
「旅の方……!貴方方も早く逃げないと……!!」
エマがその声を聞きながら、軽く笑う。
「ロンくん、せっかくだし…」
ちらっとカロンを見る。
「“アレ”やったら?弾も勿体ないし」
リリーナも目を輝かせる。
「いいね!見てみたい♡」
完全に観戦モード。
カロンは、少しだけ面倒そうに頭を掻く。
「……はぁ」
ため息。
「しゃ〜ないなぁ……」
ゆっくりと歩き出す。
そして――カロンは手を組む
両手の小指を絡めるように
異形の印
――降三世印。
空気が、変わる。
リバティーナが思わず息を呑む。
「……っ」
カロンは、静かに呟く。
「――タケミカヅチ」
次の瞬間――空が裂け、轟雷が走った
雷が一直線に落ちる
避ける暇も。
抵抗する時間も。
一切、与えない。
魔族の巨体を――
一瞬で、焼き払った。
爆ぜる音と焦げる匂い、その後に残るのは、
黒く焼けた地面だけ
人々に静寂が戻る
村人が、震える声で呟く。
「……あれを……」
信じられないものを見る目。
「一瞬で……!?」
カロンは、何事もなかったように手を下ろす。
「だから嫌いなんだよな」
ぼそっと呟く。
「雷落とすだけ」
圧倒的な力は、時に戦いを“作業”に変える。
それでもその背中は、
やはり、“勇者の血”を引く者だった。
翌朝。
澄んだ空気の中、村は静かに息を吹き返していた。
壊れた建物は少ない。
怪我人も、最小限で済んでいる。
それは――昨夜の一撃が、あまりにも“速すぎた”からだった。
カロン達が通りを歩くと、
自然と人の視線が集まる。
「勇者様!ありがとうございました!」
「助かりました……!」
あちこちから、感謝の声。
だが。
カロンは苦笑し手をひらひらさせる。
「やめろよ、俺は勇者アンチだぜ?」
軽口。
だが、誰もそれを気にしない。
むしろ、余計に“それっぽい”とすら思われている。
本人がどう思っていようと。
周りがそう呼べば――
それはもう、“勇者”なのかもしれない。
そこへ一人の老人が歩み寄ってくる
村長だった
「勇者様……」
深く頭を下げる
「実は……昨日の魔物は、奴らの番犬のようなもの……近くに巣くう連中が、頻繁にこの村を襲うのです……」
声が少し震えていた
レオンが肩を回しながら言う。
「まあ、せっかくだし倒してこようぜ?」
軽いノリ。
だが、やる気はある。
カロンも頷く。
「そうだな、ついでに行くか」
あくまで“ついで”。
その時だった。
「──フフフ……その必要は無い!」
空気を切り裂くような声。
全員の視線が、一点に集まる。
そこに立っていたのは――
風を受けてマントを翻し、
無駄にキメたポーズ。
「貴様のようなゴロツキが勇者など……勘違いも甚だしい!」
腕を組み、顎を上げる。
場の空気が、一瞬でおかしくなる。
そんなの気にも止めず男は高らかに宣言する
「その仕事――」
一歩、前へ。
「この真の勇者、ジーク・バルサローザに任せてもらおう!!」
村人達は沈黙、目の前の男はどう見てもスベっていると誰もが思った
ルーナ、エルナ、ミラが――
同時に頭を下げた。
「「「本当にすみません!!」」」
完璧な連携だった。
村人達の反応。
「え……誰?」
「急に現れてなんなの……?」
「いや勇者様に頼んでんだけど……?」
完全に空気を読まれていない。
レオンが顔を覆う。
「うわぁ……」
エマは楽しそうに笑う。
「来たね」
リリーナも興味津々。
「面白くなってきたわね♡」
カロンは、ゆっくりとジークを見る。
そして――
一言。
「……誰だっけお前?」
空気を読まない男は、
いつだって“流れ”を壊す。
だがそれが“面白くなる瞬間”でもある。
そして。
また一つ、面倒が始まる。
ジークは胸を張り、無駄に堂々と言い放つ。
「忘れるな!!ジーク・バルサローザだ!!」
ビシッと指を突きつける。
自称勇者、ジーク・バルサローザ。
現在――カロン達に借金1800万ダスト。
頼もしさはゼロ。
ジークは構わず続ける。
「今回はな……良い話を持って来たんだ」
妙に勿体ぶった言い方だった。
その口調には、どこか自分が“選ぶ側”であるという前提が滲んでいる。
レオンが小声で呟く。
「嫌な予感しかしねぇ……」
ため息混じりの声だった。
この手の話が“まともに終わった試しがない”と知っている声だ。
ジークは腕を大きく広げる。
「貴様らは所詮、流れ者!」
その言葉には遠慮がなかった。
事情も経緯も知らないまま、勝手なレッテルを貼る。
「そこでだ!!」
ビシッ!と指を突きつける。
「この俺が!!勇者の名の下に!!」
一歩、踏み込む。
無駄に力強い足取り。
だが、その“重さ”はどこか空回っていた。
「貴様らを雇ってやろう!!」
沈黙、誰もすぐには言葉を返さなかった。
風が一つ、場を抜ける。
レオンは視線だけを横に流す。
(やっぱりな……)
エマは口元を押さえ、笑いを堪えている。
カロンは――
ただ、黙っていた。
「本当はな!」
ニヤリと笑う。
その笑みには、相手を値踏みするような下卑た色が混じっていた。
「その車と――」
カロン達の車両を指差す。
「そこのお嬢さん方だけで十分なのだがな」
視線が、舐めるように三人をなぞる。
「貴様らのような連中は本来、雇う価値も無い」
平然と言い切る。
「だが!この俺は寛大だ!!」
胸を張る。
誰も求めていない“器の大きさ”を誇示するように。
「特別に!!貴様らもまとめて部下にしてやろう!!」
言い切った。
完全に言い切った。
その場にいる全員が、同じ事を思った。
(コイツ、何言ってるんだ……)
「……は?」
声は小さいが、明確に温度が下がっている。
「うわぁ…」
眉をひそめる。
笑う気配すらない。
「……斬るでござるか?」
一瞬で、空気が凍る。
さっきまでのざわめきが、嘘のように消えた。
村人達もざわつく。
「え、何言ってんのあの人……」
「いや、あれ勇者って言っていいのか……?」
「失礼とかそういう問題じゃねぇぞ……」
「むしろ捕まえた方がいいんじゃないか……?」
ざわめきは、戸惑いから警戒へと変わっていく
カロンは、しばらくジークを見つめていたが――
その視線には、怒りも呆れもなかった。
理解しようとする気すら無い、無関心な目だった。
やがて、ゆっくりとルーナの方へ顔を向ける。
「あのさ」
悪意は無い、素で聞いてみた
「アイツってなんか心の病気とかなの?」
背後ではまだ、ジークが何かを叫んでいる。
だがその声は、もはや“意味のある言葉”として誰にも届いていなかった。
ルーナは一瞬だけ目を閉じて。
深くため息をつきそして
「いえ……素でアレなんです……」
顔を上げる
ほんのわずかな間
その沈黙が、すべてを物語っていた。
「本当にすみません」
エルナとミラも、何も言わずに同時に頭を下げる。
「「本当にすみません……」」
実際最も厄介なのは――
“悪意ではなく、素でやっている人間”である。
背後では、なおもジークの声が響いている。
「ふざけるな!!失礼だろ!この俺を誰だと思って――!!」
怒りと、焦りと、そしてわずかな恐怖が混じった声。
だが。
誰一人として、振り返る者はいなかった。
その声は、もう“会話”として扱われていなかった。
だが――
誰一人として、振り返らなかった。
カロンは、すでにバイクへ跨っている。
エンジンキーを回す。
低く、重い振動が空気を震わせる。
レオンも無言でガーディアン90のドアを開ける。
リバティーナを先に乗せ、自分も運転席へ。
エマはククリRPVの運転席に滑り込みながら、軽く手を振る。
「はいはい」
まるで近所の知り合いにでも別れを告げるような軽さだった。
リリーナはため息混じりに言う。
「相手するだけ無駄よ」
沙耶も頷く。
「関わると面倒が増えるでござる」
スタオンヌは静かに微笑む。
「時間が勿体ないですね」
その一言で、すべてがまとまる。
カロンは最後に一度だけ、ジークの方へ視線を向けた。
だが何も言わない
アクセルを捻り
バイクが前へ出る。
それを合図にガーディアン90、ククリRPV
三台が、ほぼ同時に動き出した。
土埃が舞いエンジン音が重なり、街の空気を切り裂く。
ジークは、その場に取り残される。
「おい!!待て!!」
必死に叫ぶ。
だがその声は遠ざかるエンジン音に飲み込まれていった。
ガーディアン90の車内。
エンジンの振動と、安定した走行音。
リバティーナが、少し呆れたように呟く。
「……何がしたいのか分かりませんね……」
レオンはハンドルを握りながら、苦笑する。
「てか……」
ちらっとミラーを見る
遠く、小さくなっていくジークの姿。
「あいつが出るとさ……相対的にカロンが常識人に見えるの、不思議だよな」
リバティーナも、思わず小さく笑う。
「……確かに」
一方、その後方。
「おい!!待てって言ってんだろ!!」
ジークは全力で走っていた。
だが――
追いつけるはずもない。
距離は、開く一方。
自分が“置いていかれている”立場だが
その事にジークは、まだ気づいていなかった。
洞窟の入口
昼だというのにそこだけは別の世界のように暗い
岩肌は黒ずみ、奥からは湿った空気とかすかな異臭が流れてくる
風が止まり音が消える
「……いるな」
レオンが低く呟く。
カロンは軽く首を鳴らしながら、洞窟の奥を覗く。
「よし!」
いつもの調子で言い放つ。
「さっさと終わらせようぜ!」
その軽さとは裏腹に。
空気は確実に“戦闘前”のそれへと変わっていた。
レオンが肩越しに聞く。
「今日はどうするんだ?」
カロンは一瞬だけ考えて――
後ろを振り返る。
「スタオンヌ」
名前を呼ばれた瞬間。
スタオンヌは、すっと一歩前に出る。
「はい♡」
穏やかな笑みのまま
だが、その目は完全に“戦術モード”。
「今回は……こちらのブロム水素を――」
静かに、しかし確実に“危険な単語”が出かけた、その時。
「待てーーー!!」
場違いな絶叫。
全員が一斉に振り向く。
「うわ来た」
心底嫌そうだった。
ジークが、息を切らしながら現れる。
砂埃を上げ、無駄にカッコつけた着地。
「言っただろう!!」
呼吸を整える間もなく叫ぶ。
「この洞窟攻略は!!我らに任せてもらおう!!」
誰も頼んでいないのにジークは続ける
「さっきの村人共の態度……!」
苛立ちを隠さない
「所詮は下々の輩か!!」
完全に言ってはいけない事を言う。
村人達がいたら確実に石が飛んでくる発言。
「ならば!!結果で納得させてやる!!」
カロン達は沈黙
ジークは構わず続ける。
今度はスタオンヌ達の方へ、無駄にキメ顔で向き直る。
「敵拠点の攻略など!!まずは勇者たる僕が出るべきであろう!!」
誰も異論はない。
“出る”だけなら。
そして――
「そして!!」
ぐるっと視線を巡らせる。
リリーナ。
エマ。
スタオンヌ。
沙耶。
「そちらの美女達も!!僕のパーティの素晴らしさを!!とくとご覧あれ!!」
腕を広げる、再び沈黙
カロンは、ゆっくりとスタオンヌの方を見る。
「……いい?」
スタオンヌは、にっこり微笑む。
「いいですよ♡」
レオンがため息をつく。
「止めねぇのかよ……」
カロンは肩をすくめる。
「だってさ…どうせすぐ終わるだろ?」
自信と実力が伴わない時。
その結末は――大体決まっている。
そして“いつもの流れ”が、始まろうとしていた。
洞窟の中は、外とは別世界だった。
光はすぐに飲み込まれ、
足元は湿り、空気は重くなる。
ぽたり、ぽたりと水の落ちる音だけが、
やけに大きく響いていた。
その先頭を――
ジークが進んでいる。
「フフ……見ているか?」
やけに声が大きい。
「これが“勇者の歩み”だ……!」
無駄に堂々としている。
だが。
その背中には――
何の緊張感もなかった。
後ろを歩くカロン達は、一定の距離を保っている。
レオンは小声で呟く。
「……よくあんな前出れるよな」
エマがくすっと笑う。
「怖さを知らないって、ある意味才能だよね♡」
沙耶は少し警戒しながら周囲を見る。
「拙者はああはなりたくないでござる……」
スタオンヌは微笑みながらも、冷静に観察している。
「……危険察知能力が欠如しているのかもしれませんね♡」
そして。
その中で――
リバティーナが、ぽつりと呟いた。
「……まあ」
少しだけ視線を前へ向ける。
「弾除けくらいには、なりますよね」
一瞬、カロン達の空気が止まる。
だかレオンがすぐに頷き、軽く笑った
「……そうだな」
あっさり肯定。
カロンは、少し驚いたようにリバティーナを見て
ふっと笑う
「……リバティーナも、言うようになったな」
リバティーナは、少しだけ頬を赤くする。
「だ、だって……」
視線を逸らす。
「現実として……そうですし……」
言いながらも、ほんの少しだけ複雑そうだった。
リバティーナの中でそれが良いか悪いかは別として
その言葉が出るくらいには。
この数日の出来事は、強烈だった。
そして――
その原因は、間違いなく前を歩く男だった。
「……フフッ」
ジークは何も気づかず、先頭で笑っている。
「震えているか?魔族ども……!」
完全に一人で盛り上がっていた。
洞窟の最奥。
空気が、明らかに変わっていた。
重く、淀み、
生き物としての本能が“ここは危険だ”と告げてくる。
その中心に――
それはいた。
異形の魔族。
岩のような皮膚。
不気味に光る目。
ゆっくりと口を開く。
「来たか……愚かな人類よ」
低く、響く声。
空間そのものが震えるような威圧感。
普通なら――
一歩、足が止まる。
だが。
「ふっ……」
一人だけ。
違う意味で止まらない男がいた。
ジークが前に出る。
マントを翻し、無駄にポーズを決める。
「聞け、魔族ども!!」
声が無駄にデカい。
ルーナ達がまたかと呆れたように呟く
「……始まった」
「長いやつだねこれ」
ジークは剣を掲げる。
「俺はただ剣を振るうだけの勇者ではない!!」
無駄にカメラ目線みたいな角度。
「愛と勇気を胸に抱き!!」
一歩踏み出す。
「民に希望を与える象徴だ!!」
魔族、まだ何もしてない。
「夜の闇を切り裂く光となり!!」
「長いですね♡」
「絶望を焼き払う炎となり!!」
「まだ続くでござるか……」
ジーク、完全に入り込んでいる。
「そして――」
決めに入ろうとした、その瞬間。
魔族が腕を振るう。
ドカッッッ!!!
直撃、ジークが吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられ、地面に転がる。
「……」
一瞬の静寂。
ジークがピクピクと動く。
「ば……馬鹿な……喋ってる……途中に……」
震える手を伸ばす。
「俺の……格言が……」
完全にどうでもいい事を気にしていた。
レオンは額を押さえる。
「もう帰りてぇ……」
カロンは、ため息をつく。
「ほらな」
予想通りだ
見せ場を作る者と見せ場を潰す者
若干だが一同、魔族に感謝した。
そして洞窟の空気が、再び張り詰める
倒れたはずのジークが無理やり体を起こした。
「……まだだ……!!」
ふらつきながらも、剣を支えに立ち上がる。
その顔には、根拠のない自信だけが残っていた。
「行くぞ皆!!」
勇ましく叫ぶ
その声にルーナ達も、反応する。
「フレイム!!」
炎が走る。
「……フロスト」
冷気が広がる。
「ポイズン」
毒の霧が漂う。
三方向からの攻撃。
確かに――決して素人ではない。
“そこそこの冒険者”としては、成立していた。
敵もわずかに動きを止める
だがジークが前に出た
「ふはははは!!見切ったぞ!!」
無駄に高笑いの後、指を突きつける
「貴様の急所は――そこだ!!」
完全に決めにいった。
しかしボスが、ゆっくりと顔を傾ける。
「……違うわ」
ボコッと鈍い音の直後、ジーク、再び吹き飛ぶ
「ぐあぁぁぁ!!」
壁に叩きつけられ、そのまま崩れ落ちる。
レオンとエマがその光景を心配するでも無く、
助ける訳でも無く、呆れて見ていた
「早ぇよ……」
「打たれ強さは一流じゃない?」
だが終わらない
ボスの視線が、次に向く。
それは――ミラへ
「……!!」
殺意、次の明確なターゲット
腕が振り上がる。
ルーナとエルナが叫び、走り出した
「ミラ!!」
「止めろ!!」
しかし間に合わない、拳はミラの頭上へ迫っていた
「………やれやれ」
一瞬だけ、空気が歪む。
次の瞬間――
ミラの視界がぶれる
気づけば自分は、カロンの腕の中に抱えられていた
ボスの一撃は、空を切った
カロンは、そのまま滑るように動く。
地面を蹴り、一瞬で敵の背後へ回り込み
ミラは息を呑む。
「え……?」
さっきまでの戦いとは、明らかに違う。
速さ、判断、距離感すべてが“別格”。
カロンはミラを軽く降ろすと振り返り
ボスと、正面から向き合う
倒れているジークの無様な姿。
対して――立っているカロン、余裕すらある
見せかけの勇者と、本物の戦い手
その差がはっきりと現れる
カロンは、軽く首を鳴らす。
「……さて」
口元が、少しだけ歪む。
「続き、やるか」
洞窟の最奥、空気が震える
さっきまでの“そこそこの戦い”は、もう終わっていた。
ジークは倒れ
連携は崩れ
流れは、完全に止まっている。
その中で――
「……はぁ」
カロンが、前に出た。
一瞬の踏み込み
その瞬間消えた、否“見えなかった”。
次に見えた時には――
ドゴッ!!
鈍い衝撃音
カロンの拳が魔族の鳩尾に突き刺さっていた。
メリケンサック越しの容赦のない一撃。
「グァッ!?!?」
巨体が、わずかに浮く。
「なんだ……貴様……!」
苦悶に歪んだ顔。
「本当に……人間か……!?」
その一撃で仲間達の空気が一変する。
「ああ♡カロン様……♡」
「流石は我が主君……!」
「アタシの彼氏ヤバ過ぎ♡」
完全に黄色い歓声
「始まったな……」
「スイッチ入ったね♡」
幼馴染2人の安心した声
カロンは振り返らない。
ただルーナ、エルナ、ミラの3人に言う
「悪いが――ちょっと力貸してくれ」」
ほんの少しだけ顎を引く。
ルーナ達の目が、変わった
迷いが消えた、自信に満ちた表情
「「「はい!!」」」
即答だった、今まで以上に魔力を漲らせる
さっきまでの“連携のズレ”は、もうない。
カロンを中心に三人が同時に魔力を練る。
「焔舞!!」
炎が舞い上がり
「……グレーシャ!!」
氷が空間を支配する。
「ヴェノムキッス…♡」
毒が絡みつく。
三属性が混ざり、ぶつかり普通なら崩壊する
だがカロンがその中心に立ち、ゆっくりと印を結ぶ
驕り高ぶる者を踏み潰す、三界の勝利者の掌印
降三世印
「――タケミカヅチ」
次の瞬間。
雷が――全てを纏った巨大な一閃となる
炎
氷
毒
その全てを調和したこの奥義の名を四人は唱えた
『四重奏・終焉雷獄』
洞窟内に嵐が吹き荒れるようだった
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
絶叫と同時に巨体が飲み込まれる
崩れ落ちる魔族、完全な決着
リバティーナは、息を呑む。
「あれを……即興で……!?」
震える声。
エマは、楽しそうに笑う。
「凄いねちゃんと“噛み合わせてる”」
一方――
倒れたままのジークは視界の端でそれを見ていた。
(いや……)
理解が、追いつかない。
(いつ擦り合わせたんだよ……そんな技…俺は知らないぞ…なんで……)
拳を握る。
(なんで俺と組むより……)
歯を食いしばる。
(強いんだよ……)
カロンの背中がそこにある
圧倒的な“中心”に立つ者、勝利者
(クソ……が……)
指揮を取る者が変わるだけで、
戦いはここまで変わる。
力ではなく、“在り方”の差だった。
洞窟の奥
さっきまでの轟音が嘘のように、静まり返っていた。
焦げた匂い、崩れた岩
そして完全に動かなくなった魔族の骸。
討伐は、終わった。
しばらくの沈黙の後。
ルーナが、ゆっくりとカロンの方へ歩み寄る。
「カロンさん……」
少しだけ息を整えながら。
「ありがとうございます」
その声は、さっきまでとは違っていた。
エルナも続く。
「……自分の魔力が、こんなに活かされるなんて……自信になりました」
ミラは、いつもの調子に戻りながらも――
「カロン様……素敵ですわ……♡」
くすっと笑う。
三人の視線が、自然とカロンに集まる。
その空気は完全に“中心”が誰か示していた。
――だが。
それをぶち壊す声が響く。
「ふざけるなーーーー!!!」
洞窟に反響する、見事な負け犬の遠吠え。
ジークだった。
ボロボロのまま無理やり立ち上がる。
「これは!!」
震える声。
「俺が勝つはずだったんだ……!!!」
拳を握りしめる。
「俺は真の勇者なんだ!!」
目が血走る。
「なのに……!!」
言葉が続かない。
現実が理解できていない。
カロンは、その様子を一瞥して――
興味を失ったように背を向ける。
「もういいって、帰りな」
軽く手を振る。
その一言、それだけで完全に“終わった”。
「くっ……!!」
歯を食いしばる。
「覚えてろぉぉぉぉ!!!!」
テンプレ通りの捨て台詞。
その声は、洞窟の奥へと虚しく響いていく。
レオンがぼそっと呟く。
「毎回それ言ってんな……」
エマが肩をすくめる。
「成長しないね」
カロンは振り返らない。
ただ歩き出す。
「さ、帰るぞ」
こうして――
“本物”と“偽物”の差は、
また一つ、はっきりと刻まれた。
なんか呪術廻戦ネタに走り過ぎました
みんなの死滅回游↓
雰囲気的にルーナが石流、エルナが優太、ミラが烏鷺になってます
調和と相乗の四重奏 | 福島ナガト #pixiv https://www.pixiv.net/artworks/147195204




