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20/42

星見の湯の中で

寄り道のあとにまた寄り道

白銀歌劇団に別れを告げてカロン達は再び走り出した。

都市の喧騒を抜け、石畳から土の道へ

やがて景色はゆるやかに山の色へと変わっていく


エンジン音だけが静かな山道に

響いていたその時だった

カロンがふと、スロットルを緩める


「……皆、ちょっとストップ」

バイクが止まる

それに合わせて後方のガーディアン90とククリRPVも静かに停止した


レオンが窓を開ける。

「どうした?」

カロンは何も言わず、前方を指差した


そこにあったのは――古びた木の看板

だがその文字ははっきりと刻まれている


『勇者ノーザン・クレインが愛した天然温泉 星見温泉郷』


一瞬、誰も言葉を失った

風が、木々を揺らす

その音だけが静かに流れていく

レオンが思わず呟く

「……マジかよ……」


歴史の中の名前

伝説の中の存在

しかし幼馴染の祖父

それが、こんない場所に繋がっている


カロンは少しだけ目を細めた。

「じいちゃん……ここ来てたのか」

どこか懐かしそうな声


それは勇者がまだ何者でもなかった頃

ただの冒険者だった頃

剣一本で、世界を歩いていた頃

そんな“始まりの時間”がこの場所には残っている気がした


山の奥に湯気がうっすらと立ち昇っている

石造りの建物

木造の旅館

提灯の灯り

どこか幻想的で

どこか懐かしい


時間だけが、少しだけゆっくり流れている場所。

リバティーナは小さく息を吐く

「……綺麗……」


スタオンヌも、そっと微笑んだ

「素敵な場所ですね……♡」


沙耶は看板を見つめ、静かに頷く

「英雄も、ここで羽を休めたのでござろうな……」


その言葉はどこか優しかった。

カロンはゆっくりとバイクへ跨り直す

「……寄ってくか」

短い一言だがそれは

ただの寄り道ではなく――

“過去へ少しだけ触れる”選択だった。



道は次第に細くなり、車では入りづらい趣ある街道へと変わっていった


広場に三台の車両を停め、七人は歩き始める。

足音が、静かに響く


エマが周囲を見渡し、柔らかく微笑んだ

「風情がありますね」


沙耶も頷く

「日ノ本にも似た趣でござる」

提灯の灯り

軒先に吊るされた暖簾

どこか故郷に近い空気だった


その横でリバティーナはパンフレットを広げている。

少しだけ読み上げるように

「勇者ノーザン・クレインと、後の妻ニーナ・ピサロは――」


静かな声が、温泉街の空気に溶けていく


「旅の道中、偶然“星見の湯”に辿り着き、傷を癒した……」


カロンが軽く眉を上げる。

「へぇ」


リバティーナは続きをなぞる。

「後に“英雄の聖地の秘湯”として知られ、星見温泉郷へと繁栄した……」


少し顔を上げる。

「だそうです」


どこか遠くから、水の流れる音が聞こえる。

カロンは小さく笑った

「じゃあ、じいちゃんとばあちゃんのお陰で名湯になったのか」


どこか他人事のようでいて少しだけ誇らしげな声


その時だった

リリーナがにやっと笑う。

「じゃあさ……」

カロンの腕へ軽く絡みつく。

「アタシ、カロンくんと入りたいな〜♡」

甘い声

「英雄みたいに……♡」


間違いなくその気だった

カロンもノリ良く頷く。

「いいな!よし混浴だ!」

テンションだけは完璧――だったのだが

入口にあった看板


『刺青のある方は入浴をお断りします』

静かにしかし確実に突き刺さる現実。


「………」

カロンは一瞬で沈黙


察したようにスタオンヌは小さく口元を隠して笑う。

「ふふ……♡」


沙耶は腕を組んだ

「仕方ないでござるな」


レオンは肩をすくめる

「まあ、そうなるわな」


エマは苦笑する

「珍しく社会のルールに止められましたね」


カロンは少しだけ空を見上げた

そして、小さく息を吐く

「……店に迷惑は掛けない主義なんだよな、俺」


アウトローだが、

守るべきラインはちゃんと分かっている男だった。


温泉街の入口

暖簾が揺れ湯気がゆらゆらと立ち昇る中

カロンは一度、全員を見渡した

「……しゃあないな」

少しだけ肩をすくめる


そして自然に、隣にいたスタオンヌへ視線を向けた。

「スタオンヌ、行こうぜ」

その一言は、あまりにも当たり前のようで


スタオンヌは、嬉しそうに微笑む

「はい♡」

迷いのない返事

二人はそのまま並んで歩き出す

まるで最初からそう決まっていたみたいに


しかしその背中を見てリリーナが頬を膨らませる

「ちょっと待って!」

明らかに不満

「スタオンヌちゃんばっかりズルい!アタシも行く!」

当然の主張だった。

だがカロンは足を止めることなくふっと振り返る


そして――

リリーナの耳元へ、そっと顔を寄せた。

「夜まで、良い子にして待ってろよ……」


低い声、近い距離、リリーナに逃げ場なし

リリーナの肩がびくんと跳ねる。

「オ゛オ゛ッ♡、……ひゃい♡」

即陥落、完全に思考停止した



カロンは何事もなかったかのように再び歩き出す。

スタオンヌもくすりと笑いながら、その隣へ並んだ

二人の背中は、すぐに人混みへ溶けていく


取り残されたリリーナはしばらくその場で固まっていたが――

数秒後、顔を覆って叫ぶ

「もう!!」

限界だった。

「夜まで飲まなきゃやってらんない!!」

完全にやけ酒モード


エマと沙耶の腕を掴む。

「エマちゃん!沙耶ちゃん!付き合いなさい!!」


エマは苦笑する。

「ちょっと……社長……」

巻き込まれ確定。

沙耶は即座に拒否。

「拙者は未成年でござる!!」

しかしリリーナは聞いていない


そのまま酒場の方へ引っ張っていく

騒がしい三人は、あっという間に温泉街の喧騒へ消えていった。


残されたのは――

レオンとリバティーナ

少しだけ静かな空気

人の流れがゆっくりと横を通り過ぎていく

レオンは少しだけ視線を逸らし頭を掻いた。

「……リバティーナ」

ぎこちない呼びかけだが

「よかったら……一緒に見て回らない?」

言葉を選ぶように、けれど逃げずに


リバティーナは一瞬だけ驚いたように目を瞬かせて。

すぐに、柔らかく微笑んだ。

「良いですね」

小さく頷く。

「行きましょう」


その一言で

二人の距離は、ほんの少しだけ縮まった気がした。

温泉街の道を並んで歩き出す

賑やかな声の中で

二人の時間だけが、少しだけ静かに流れていた。



温泉街の喧騒からほんの少しだけ外れた小道

提灯の灯りが揺れ、石畳が柔らかく光を返している


人の声は遠く、代わりに聞こえるのは――水の流れる音と二人の足音だけだった。

リバティーナは隣を歩きながらふと笑った。

さっきまでの落ち着いた表情とは違う。

どこか、子供みたいに。

「……最近、皆さん見て思ったんです」


少し前を向いたままぽつりと

「旅するなら……節制とか、献身じゃなくて」

言葉を選ぶように少しだけ間を置いて

「楽しい方が、いいですよね」


その声は、風に溶けていくほど静かで

けれど確かに、“本音”だった。

レオンは一瞬だけ足を止めかける。

そして小さく、息を吐いた。

「……そっか」

短い言葉

でも、その中には――少しだけ安堵が混じっていた。

「よかった」


その一言に、リバティーナは目を丸くする。

「え?」


レオンは照れくさそうに視線を逸らす。

「いや……」

少しだけ笑う。

「きみ、ずっと頑張りすぎてる感じだったからさ」

その言葉は、まっすぐだった

飾り気もなく

気取ることもなく


ただ、ずっと見てきたからこそ出てくる言葉


リバティーナは、何も言えなくなる

その代わりふっと、小さく笑った

「……そう、見えてました?」


「見えてた、カロンより旅に真剣で」

即答だった

少しだけ恥ずかしくなってリバティーナは前を向く。

頬が、ほんのり赤い

「……じゃあ、今日は…ちょっとだけ、わがままでもいいですか?」


ゆっくりと、歩き出す。


レオンは隣に並びながら軽く肩をすくめる。

「もちろん、せっかくだし」

その言葉は、優しかった


温泉街、二人の影が並んで伸びる

寄り添うわけでもなく

離れるわけでもなく


ただ同じ歩幅で、同じ方向へ

――それだけで少しだけ特別な時間だった


川沿いの小道

石畳の先にゆるやかに流れる水の音が続いている


両岸には温泉宿が向かい合うように並び、提灯の灯りが川面に映って揺れていた


風が吹くたびに、水面がかすかに揺れて――景色そのものが、静かに呼吸しているみたいだった


リバティーナは足を止める。

しばらくただ川を見つめていた。

「……なんででしょうね」

ぽつりと呟く

「川って、見てて落ち着くんですよね……」


レオンもその隣に立つ。

少し考えるようにしてから、ゆっくり答えた。

「分かんないけど……」

視線は同じ場所へ。

「それが、人間の穏やかさなんだろうな」


リバティーナは、ふっと笑う。

「ふふ……レオンさんらしいですね」

そのまままた歩き出す

足音が静かに重なる

流れていくものはいつだって同じなのに


その隣にいる人が違うだけで――

景色は少しだけ優しく見える。

やがて通りの先にどこか賑やかな声が聞こえてきた


屋台の灯り

そして――

「いらっしゃい!当たれば景品持ってけよ!」

射的屋だった。


リバティーナは少し驚いたように目を瞬かせる。

「お祭り以外でも、あるんですね……」


温泉街特有のものなのかもしれない


レオンは少しだけ笑う

「やってみるか」

軽い調子だが、その目はほんの少しだけ鋭くなっていた。


銃を手に取る。

重さを確かめるように構える。

その仕草は――完全に“本職”だった。

店主が思わず苦笑する

「兄ちゃん、やけに慣れてんな……」


レオンは何も言わない

ただ静かに狙いを定める

息を整える

引き金を引く。

――パン。

乾いた音

的が、綺麗に弾かれる。

「えっおい今の……」

「全部当たってないか?」

連続で、落ちていく景品

ブレがない

ただの遊びなのに、精度だけは戦場だった。


リバティーナは目を丸くする

「す、すごい……」

素直な感想。

レオンは少し照れたように頭を掻く。

「まあ、こういうのは得意でな」


その言い方が、また少しだけ不器用だった。

店主は苦笑しながら両手を上げる

「参った参った!全部持ってけ!」


完全勝利

リバティーナは受け取った景品を見て、少し嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます」


その笑顔を見て

レオンは、少しだけ思う。

――当たってよかった。

それは、景品の話じゃなくて、

リバティーナの笑顔だ


川沿いの灯りが、ひとつ、またひとつと灯っていく。

温泉宿の窓、提灯の揺らぎがより濃く見えた

そのすべてが、静かに水面へ溶けて――夜は、優しく深まっていった。

気づけば、もう遅い時間だった。


何でもない時間を重ねているうちに

一日は、あっという間に過ぎていた

リバティーナは川を見つめながら小さく息を吐く

「……久しぶりに、こんなに遊んだ気がします……」

その声は、どこか軽い

肩に乗っていた何かを少しだけ下ろしたような


レオンはその横顔を見て、少しだけ笑う

「確かに……」

視線を逸らす。

「あんなにはしゃいでる君を見るのは、初めてかもな……」


リバティーナは一瞬だけ驚いて。

それから少しだけ照れたように微笑む。

「……そう、ですか……」

小さく頷く

「なんか……肩の力、抜けた気がします……」

その言葉は、今日一日が“ただ楽しかった”だけじゃない事を示していた


そしてほんの少しだけ、勇気を出すように

リバティーナは、レオンの名前を呼ぶ

「レオンさん」

「な、なに?」

レオンの声が、少しだけ裏返る


リバティーナは、ほんの少しだけ笑った。

「この前、言いかけた続き……覚えてますか?」

その一言で空気が、変わる

レオンの肩が、はっきりと強張る

「……ああ……その……」


逃げ場が、ない

言わなきゃいけないと分かっている

でも言えば、戻れないとも分かっている。

リバティーナはそんな彼を急かさない


ただ静かに。

「今なら……聞きたいと思うんです……」

その声は優しかった


けれど同時に――逃がさない強さもあった


レオンは少しだけ俯く。

夜風が吹く川の音が、遠くで流れる

しばらくの沈黙


その時間がやけに長く感じられた

やがてレオンは、ゆっくり顔を上げる。

「……旅の途中だし」


言葉を選ぶようにひとつずつ

「こんな状況で言う事じゃないとも思ってた……」


それでも止められなかった

「いつ帰れるかも分からない旅だけど……」


視線がまっすぐリバティーナを捉える。

そしてレオンは、ずっと秘めていた想いを口にする


「……俺」


ほんの一瞬だけ、息を吸って

「リバティーナ、君が好きだ」


夜の中に、その言葉だけが静かに落ちた

言葉はたった一つでいい

長い時間をかけて積み重ねた想いは

ほんの一瞬で――形になった

川の流れは変わらない

夜の灯りも同じように揺れている

それでも


二人の世界だけが、少しだけ違う色に変わっていた。


リバティーナはしばらく何も言えなかった

ただ

レオンの言葉を、胸の奥で受け止めるように。

――そして


「……あの……」


小さく声を出した瞬間

ぽろりと……涙が落ちた。


レオンが目を見開く

「リバティーナ……?」

戸惑いと驚き


リバティーナは、俯いたまま。

震える声で続ける。

「……足りないんです……」


「……え?」


何が、とは言わない。

けれどその一言に全部詰まっていた。

リバティーナは少しだけ顔を上げる

涙で滲んだ視界のまま


それでも、レオンを見つめていた。

「父が亡くなって……」

ぽつり、ぽつりと


言葉がこぼれていく。

「兄さんは……まだ任務で帰って来れない……」


涙が、頬を伝う。

「姉さんは……カロンさんのもの……」


その言い方は、どこか寂しそうで

でも、責めてはいなかった

ただ――

「誰も……いなくなっちゃうのは……嫌なんです……」


声が、少しだけ崩れる

「苦しいんです……」


胸を押さえるように。

「誰か……近くにいてくれなきゃ……」


それは恋の言葉じゃなかった。

もっと根っこの

“失うこと”への恐怖。

リバティーナが密かに、ずっと抱えてきたもの


レオンは何も言えなかった

ただ

その全部を、受け止めるように立っている。

「……リバティーナ……」

優しく呼びかける…


けれどリバティーナは、首を振る

涙を拭う事もせずに

「……リバティーって、呼んで……」

その願いは小さくて

でも重かった。

「家族は……皆……そう呼んでくれる……」

少しだけ笑う

寂しさを隠すように

「レオンさんに……そう呼んで欲しい……」


それは。

“名前”じゃない

“居場所”だった

レオンは分かっていた

この一言を受け入れたら

もう、ただの仲間には戻れない


でも――

迷いはなかった

レオンは一歩だけ近づく。

そして静かに、その名前を呼んだ。

「……リバティー」


優しく、確かめるように

「好きだ……」


そのまま、言葉を重ねる

「ずっと一緒にいてくれ」


その声は、揺れていなかった。

リバティーナ――いや、リバティーは。

涙のまま微笑む

「……はい……」

小さく、頷く

「私も……レオンさんが……好きです……」


その瞬間

二人の距離がゼロになった

強く抱きしめる、壊れそうなものを守るみたいに


リバティーは、レオンの胸に顔を埋める

安心したように少しだけ、力を抜いて


人はきっと、

失う事を知った分だけ――

誰かを強く求めてしまう


それは弱さじゃない

“繋がっていたい”と願う、


川の音が、変わらず流れている

その夜リバティーの中にあった“空白”は、

ほんの少しだけ埋まった気がした。


数分後。

――ほんの数分のはずなのに

二人にとってはまるで数時間のように長く感じられる時間が流れていた


抱きしめていた腕が少しずつ緩み、

呼吸が整う


重なっていた心音が、ようやく自分のものへ戻っていった。


レオンは、

(俺……)


リバティーナは、

(私……)


同時に思う。

――恥ずかしい……!!!


さっきまでの空気はどこへやら

一気に現実へ引き戻される

やはり根が真面目すぎる二人だった


レオンは視線のやり場に困る

(あと……この後どうすればいいんだ……!?)

急に距離が近くなりすぎた

正解が分からない


一方、リバティーは完全にパニックだった

(私……!!なんて事を……!!)

顔が熱い

思い出すだけで顔から火が出そう

(絶対重い女って思われた……!!)

ぐるぐる思考が暴走する


気まずいでも離れたくない

という、最高に甘くて最悪に困る状態

やがて今度はリバティーが、勇気を振り絞る

「あ、あの……!レオンさん……」

声が裏返る


レオンもビクッとする。

「あ、な、何?」

完全に同じ状態


リバティーは顔を真っ赤にしたまま、視線が定まらない。

「お、温泉……!」

言った

勢いで言った

「寄ってから帰りません……?」


逃げ道だった


でも、それ以上に。


“一緒にいたい”という本音だった。

レオンは一瞬だけ固まって

すぐに、小さく頷く。


「……そ、そうだな……」


それが精一杯だった

想いを伝えるのは一瞬なのに

その後どうすればいいかは――

誰も教えてくれない


けれど二人は並んで歩き出す

さっきより少しだけ近い距離で。

さっきより、少しだけぎこちなく。

でも確かに。

“恋人”としての一歩を踏み出していた。



“半分混乱したまま”辿り着いた先は――

小さな離れのような、静かな湯処だった。

暖簾の奥、誰もいない空間

外の喧騒が嘘みたいに遠い


リバティーナは案内板を見て、少しだけ息を弾ませる。

「あ、あの……レオンさん」

頬はまだ赤いまま

「貸し切り温泉ですって……!!」


その言葉に、レオンは一瞬だけ固まる。

(貸し切り……)

状況が、状況だった

いいのか?これ?

でも逃げる理由も、もうなかった。

「あ、あぁ……」


少しだけ視線を逸らしながらも頷く

「リバティーがいいなら……」


その呼び方。

自然に出たそれにリバティーナは少しだけ目を細める

嬉しそうに、

そして小さく、でも確かに頷いた

「……はい」

静かな声

けれど、その奥にある想いは揺れていなかった


レオンはふと気づく

自分の中にはっきりとある感情。

――二度と離したくない。

言葉にしなくても

それだけは確かだった


その空気を感じ取ったのか

リバティーナは、ゆっくりと視線を上げる

「……レオンさんと」

少しだけ震える声

それでも、逃げない。

「もう……戻れないくらいに……なりたいです……」

その言葉は、静かで、深かった。 


湯煙がゆらりと揺れる

湯気に包まれた空間

言葉がなくても


心の距離だけが、確かに近づいている

ただ――隣にいる事だけが、少し嬉しかった。


想いは言葉にした瞬間に終わるんじゃない

むしろそこから――

本当の意味で、始まっていく


やがて自然と視線が重なり

ゆっくりと距離が縮まる。

触れる。

ほんの一瞬

けれど、確かに。

二人は、言葉の代わりに――唇を交わした。


湯気の残る廊下

ほんの少し火照ったまま浴場の扉が開く

出てきたのは、レオンとリバティーだった。

髪はまだ湿っていて頬もどこか赤い


けれどその表情は――さっきまでとは、少しだけ違っていた。


リバティーが、小さく息を整える。

そして、隣にいるレオンへ視線を向ける。

「……レオンさん」

ほんの少しだけ躊躇ってそれでもちゃんと続ける

「これからも……」

言葉の続きを探すように


レオンは、少しだけ笑った。

「そうだな」

自然に、迷いなく。

「――“リバティー”」

その呼び方にリバティーは嬉しそうに、ほんの少しだけ目を細める




その瞬間――

ガラッ。

隣の扉が開いた。

「いや〜、狭いけど貸し切りあってよかった」

聞き慣れた声


「そうですね♡カロン様♡」


そして

四人の視線が、ぴたりと交わる。


数秒の沈黙

完全に時間が止まる


カロン&スタオンヌ

「「あ〜……♡」」



察し


完璧に理解した顔

一方


レオン&リバティー

(声にならない悲鳴)

終わった、全てがバレた

逃げ場なんてゼロ


カロンは、ゆっくりと頷く。

「おめでとう……!」

余計なお世話。


スタオンヌは、優しく微笑む。

「リバティー……私、嬉しいわ……♡」

2人は完全に祝福モード


だがレオンは顔を覆う

「うわぁぁぁぁ……」


リバティーはその場で固まる。

「ち、違……!!」


何も違わない、言い訳不能。


恋人達の夜は、それぞれ違う形で更けていく。

そしてレオンは――

“もう誤魔化せない”事を、痛いほど理解していた。



一方その頃――

温泉街の一角。

提灯が連なる、やけに派手な一軒の酒場。

いや、もはや酒場というより――

完全に“別の戦場”だった。


「アルマンド追加!!まだまだ足んないんだけど!!」

リリーナの声が、夜の街に突き抜ける。

テーブルには、既に空いた高級ボトルが何本も転がっていた。


黒服が即座に反応する。

「はい!!リリーナ社長!!アルマンド追加!!」

その声に、店内のテンションが一気に跳ね上がる。


「ありがとうございまーす!!本日1000万!!」

ホスト達が一斉にコールを入れる。


「よっ!社長!!」

「「「「「1000万!!よいしょーー!!」」」」」


完全にフィーバー状態。

リリーナはグラスを掲げ、満面の笑みで煽る。

「もっと持ってきなさい!!カロンくんは戻ってこないし!今日は全部忘れるの!!」

理由が重い。

だが飲み方は豪快だった。

その横で。

エマがテーブルに突っ伏している。

「しゃ、社長……ギブアップ……」

珍しく、完全敗北

普段は余裕のある彼女が、完全に飲み負けていた。


沙耶は呆れたように腕を組む。

「どんな肝臓してるでござるか……」


リリーナは平然と次のグラスを飲み干す

顔色一つ変えない

「ふふん♡これくらい余裕よ♡」

完全にバケモノだった


恋に酔う者。

酒に酔う者。

同じ夜でも――

人はそれぞれ、違う夢を見る。

その夜、星見温泉郷は静かに。

一方で賑やかに――

それぞれの“特別な一日”を包み込んでいた。

レオンとリバティーナの関係、今思えば大分引っ張ったなと。もしかしたらノーザとニーナもあの時(伝説の勇者ZEROの4話)こうなって、旅なんか辞めてたかもしれないって考えてはいたんですね


レオンの目線↓

準主人公とサブヒロイン | 福島ナガト #pixiv https://www.pixiv.net/artworks/147022204

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