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18/42

草原の一時

リリーナは時々オホります

大都会を後にしたカロン達は再び魔族の目撃情報が相次ぐ地域へと向かっていた

乾いた風がどこまでも続く草原を撫でていく


停車した三台の車両


バイクの隣ではスタオンヌと沙耶が簡易コンロを広げ、エマはククリRPVの点検をしている。リリーナは慣れないアウトドア椅子に座っている


そんな中。

少し離れた場所でカロンとレオンはコーヒーを片手に話していた。

「リリーナもだが……お前も大概だな」

カロンは呆れたように笑う


レオンは視線を逸らした

「……もしフラれたら、今後の旅気まずいだろ」

本音だった、戦場なら迷わない

だが“好きな女に気持ちを伝える”となると話は別だった


カロンは草原へ寝転がり、空を見上げる。

「お前さぁ、変な所だけ慎重だよな」


「うるせぇ」


「いやでもマジで、リバティーナ絶対待ってるって」

レオンは黙り、替わりに風が吹いた


遠くでリリーナの声。

「ちょっとエマちゃん!この椅子沈むんだけど!?」


「草原ですからね〜」

女性陣は飽くまで平和だった

カロンは少し笑ってから、真面目な声になる

「……レオン」

「なんだよ」


「“失うの怖いから言わない”って、一番ダサいぞ」


レオンの眉がわずかに動く。

カロンは続けた。

「お前、昔の俺だったら引っ叩いてたぞ?」


「は?」


「俺さ、今まで欲しいもんは大体奪ってきたから、それがママとダディーの教育だったから」


最低の理論、カロンはコーヒーを揺らしながらどこか静かに笑った。

「でもお前、“大事だから怖い”んだろ?」

レオンは何も言わなかった。

ただ――否定もしなかった。


草原に吹く風は、どこか穏やかだった。

だが、レオンは恋愛相談だけは一向に進展しない。

「しゃあーないな……」

カロンは立ち上がる。

「ちょっと見てろ」


レオンが嫌な顔をする

「お前の“見本”って絶対参考にならねぇんだよな……」


しかしカロンは気にしない。

そのまま、少し離れた場所で資料を読んでいたリバティーナへ歩いていく

「リバティーナさ」


「はい?」

彼女は顔を上げる


カロンは何気ない調子で言った

「この前、“魔法戦力あった方がいい”って言ったじゃん?」


リバティーナは頷く。

「はい、まあ言いましたけど」

するとカロンは、さらっと言った。


「そういえば俺も」

カロンは小指同士を絡め降三世印を結ぶ

その瞬間だった

空気が変わり風が吹き荒れ…

空が――軋んだ。


タケミカヅチ


次の瞬間。

草原の遥か先へ、激しい雷光が落ちた

轟音に地面が震える

まるで天が裂けたような一撃だった


リバティーナが固まる

「っ!?!?」


遠くでリリーナが悲鳴を上げる。

「ちょっ!?なに今の!?軍事兵器!?」


エマだけが平然としていた。

「あ〜、ロンくんの雷ね」

見慣れたものだと、落ち着いている。


カロンは軽く肩を回した

「このぐらいなら出来たんだった」

軽いノリで言う事ではない


リバティーナは目を見開いたまま、雷の落ちた先を見る

まだ地面から煙が上がっていた

「す、凄い……」


そして、何かを思い出したように顔を上げた。

「というか……本で読んだ事があります……“タケミカヅチ”って……勇者ノーザン・クレイン様が、魔王を倒す為に会得した奥義魔法じゃ…!?」

声が少し震えている


カロンはあっさり答える。

「昔、真似してやってみてたら出来たんだ、

じいちゃんも教えてくれたから」

とんでもない理由

リバティーナはしばらく言葉を失っていた

クレイン王家の血、伝説の勇者の家系

旅の中で何度も感じてきた


だが今――

それを“現実”として見せつけられた。

風が落ち着いても雷の残滓がまだ空気に残っていた


リバティーナは静かに呟く。

「カロンさんって……やっぱり凄い人なんですね……」

その横で

スタオンヌが嬉しそうに胸を張る。

「流石はカロン様♡」

完全に自分の事のようだった。


リリーナが、ぴたりと止まった。

「……え?」

ゆっくり振り向く。

「勇者ノーザって……カロンくん?」」

嫌な予感。


レオンは頭を抱えた。

「お前、また黙ってたのか!?」


「忘れてた」

本当に忘れていた顔だ、これで2回目


「そうなんだ、俺、ノーザン・クレインの孫で、クレイン王国女王の弟」


さらっととんでもない事を言う

草原に沈黙、風だけが吹く


リリーナの脳内では、何かが完全に崩壊していた。

(待って待って待って待って…

年下のイケメン強い優しい金あるしかも王族しかも勇者の血筋しかもアタシにベタ惚れ)


処理限界


そして――


「……んほお゛♡」


気絶した、崩れ落ちるリリーナを慌ててスタオンヌが支える

「リリーナさん!?」


沙耶も駆け寄る。

「どんな倒れ方でござるか!?」

完全に魂が抜けていた


エマは呆れ半分で笑う

「恋愛耐性ゼロすぎるでしょ社長…」


カロンだけが不思議そうだった。

「え?そんな驚く事か?」

レオンが一言

「驚くわ!!」


そしてカロンは満足そうに戻ってくる。

レオンはまだ呆然としていた。

「お前……今のなんだよ……」

カロンはニヤッと笑う

「な?ギャップってあるだろ?」


「は?」

カロンはコーヒーを飲みながら続ける。

「“能ある鷹は爪を隠す”って言うじゃん?」

どこか得意げ


「普段からイキっている奴は実際強くても嫌われる、強い所てのはさり気なく見せんだよ」

最低なのに妙に説得力がある


レオンは微妙な顔をした。

「……お、おう」


草原の中央

簡易テーブルを囲むように並べられた椅子

夕陽が傾き始める中カロン達は遅めの昼食を取っていた

鍋から立ち昇る香り

焼き立ての肉

香辛料の効いたスープ

旅の野営とは思えないほど、しっかりした料理だった


リリーナがスプーンを口に運び――目を見開く。

「うっ……!?美味しい……!」

素直に感動していた。


沙耶も満足そうに頷く。

「やっぱり殿の料理は絶品でござる」


スタオンヌは微笑みながらカロンを見る。

「ふふ……♡」

その笑顔は“知ってました”と言わんばかりだった

相変わらずカロンの料理の腕は一流だった


リリーナはスープを飲みながら感心する。

「本当に上手ね……どこで習ったの?」


カロンは肉を切り分けながら答えた。

「エトラママが料理上手くてさ、教えてもらったんだ」


どこか懐かしそうに笑う

その表情は普段より少し柔らかかった。


火の音が静かに鳴る。

旅の途中、こういう時間だけは皆どこか穏やかだった。


するとリバティーナが小さく呟く

「……カロンさんの家って、結構複雑ですよね?」

率直な感想だった


エマは苦笑する。

「先代の国王がそういう人ですからね〜それでロンくん、お母さん四人いるんです」

さらっと言う。


リリーナもまた驚く

「四人!?」


沙耶は腕を組み、どこか納得した顔。

「英雄とはそういうものなのでござろうか……」


レオンは少しだけ遠い目をした。

「でも、先代の女王達も……皆、国民の為に働く素晴らしい方々だった」


クレイン王国その異常なまでの自由さの裏には――

確かに、“国を支えた人達”がいた。


カロンは苦笑する

「まあ、家族全員集まると普通にカオスだけどな、ミレママとカレンママは昔から仲良く喧嘩してるし、メグ姉が酒飲んで、ばあちゃんが笑ってるし」


「情報量多いわね……」

完全に処理が追いついていない。

だがそんな賑やかな話をするカロンの横顔は

どこか嬉しそうだった。


旅人として王族として勇者の血筋としての

色々な顔を持つ男。

けれどこうして家族の話をする時だけは

少しだけ、“普通の青年”に見えた。


食後。

草原には、穏やかな時間が流れていた。

魔王討伐の旅とは思えないほど、平和だった。

カロンは椅子を後ろ向きにして座り、競馬新聞を広げている。

「でも今年のクラシックさぁ……この二強じゃないか?」

完全に競馬ファン。

リリーナはワイン片手に笑った。

「ふふ、甘いわねカロンくん」

余裕の笑み。

「ここのオーナー、実はジョウリッサグループと繋がってるんだけど……」

裏情報に声を潜める。


沙耶が真顔で反応する。

「日ノ本馬の海外遠征は無いでござるか?」


「沙耶もハマってきたな!」

草原に笑い声が広がる

その少し離れた場所

風が、静かに草を揺らしていた

「……レオンさん」


穏やかな声にレオンが振り向く

「リバティーナ?」


彼女はティーセットを抱えて立っていた

白いティーカップ

小さなポット

湯気が、夕暮れの風に溶けていく

リバティーナは少し照れたように微笑む

「紅茶ですが……一緒にどうですか?」


レオンは少し目を丸くした後、小さく頷いた

「ああ、うん」

二人は草原に腰を下ろす

遠くではカロン達の騒がしい声


けれど、ここだけは少し静かだった。

リバティーナが紅茶を注ぐ。

澄んだ香りが広がる。

「趣味程度ですが」

少し謙遜気味。

だがレオンは一口飲み、素直に息を吐いた。

「……うん」

優しい香り。

「いい香り」

その一言だけでリバティーナは少し嬉しそうに目を細めた



遠くで、カロンが叫ぶ。

「だからツムは来るって言っただろ!!」


「来ないわよあのローテで!!」

平和だった。

そしてレオンも。

ようやく少しだけ、“戦い以外”の時間を受け入れ始めていた。


その喧騒を聞きながら、レオンはふっと小さく笑う。

「……リバティーナといる時が、一番静かだな」


リバティーナは少し目を丸くする

「え?」


レオンは視線を草原へ向けたまま続けた。

「カロンやエマは親友だけど……いつも騒がしいから」

少し困ったように笑う

「嫌って訳じゃないんだけどな」

むしろ、大切だった

命を預けられる仲間達。

だが“静けさ”とは無縁の連中でもある


リバティーナはカップを両手で包みながら、優しく目を細めた。

「……ふふ」

小さな笑み

「レオンさんは、真面目過ぎですから」

からかうようでいて、どこか柔らかい声

少しだけ視線を落とし、静かに続ける

「でも……」

夕陽が、彼女の横顔を優しく照らしていた。

「この旅に、レオンさんがいて……よかった」


その言葉は、草原の風みたいに穏やかで

けれどレオンの胸の奥へ、静かに残った

彼は何も返せなかった。

ただ――

その時間が、少しだけ愛おしいと思った。


夕陽はゆっくりと沈み。

草原には、静かな夜が訪れようとしていた。

笑い声、紅茶の香り

競馬談義、くだらない会話。

誰かが笑って

誰かが呆れて

誰かが恋をしている

魔王討伐の旅とは思えないほど穏やかな一日だった


戦いも無い

陰謀も無い

人間社会の闇も無い

ただ、旅の途中に流れる、少しだけ優しい時間


車両のエンジン音が静かに鳴る。

仲間達の笑顔を眺めながら、カロンはふと空を見上げた


遠く夜空には、星が浮かび始めていた。

――その頃。

魔王城。

重苦しい空気の中、玉座へ座る男

グラン・ネフェル

彼は静かに腕を組み、目を閉じていた

側近達も緊張した面持ちで控えている


人類側最強クラス

勇者ノーザの血を継ぐ男。

カロン・クレイン。

いずれ訪れる決戦に備え、魔王軍もまた動いていた。

……だが、数秒後。

グランはゆっくり目を開く


「……来ない」


沈黙。


「はい?」

グランは真顔だった。

「余は待っているのだが……来ない」

カロン達は現在草原で競馬談義中。

「なぜだ……」

側近達は顔を見合わせた。

誰も答えられなかった。

タケミカヅチ、伝説の勇者ZEROで出てきましたがギガデイン的な魔法です

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