史上最速のヒロイン
構想段階からこういうキャラが欲しいとは思ってました
夕暮れ前。
舗装された大通りを三台の車両が走っていた。
先頭を走るのは、カロンのバイク
その後ろを、ガーディアン90
さらに最後尾には、ククリRPV
巨大な城壁を抜けた先、
そこに広がっていたのは久しぶりの“大都会”だった。
高層建築に無数の看板
行き交う人々。
そして何より車
大型輸送車から高級車まで普通に道路を走っている
クレイン王国を出て以来ここまで発展した都市は初めてだった
カロンが思わず声を上げる。
「すげぇ……普通に車とか走ってる!」
信号待ちで周囲を見回す。
ちょっとテンション上がってる。
「クレインとか日ノ本以外でこんな国あるんだな」
純粋な驚き
エマは運転席から街並みを眺めながら説明する。
「周辺諸国の物流拠点になってるのが、この国だそうです」
商業は専門職、詳しく静かな口調
「海路、陸路、空輸……全部ここに集まるみたいですね」
リバティーナも窓の外を見ていた。
「……経済規模が違いますね」
商業都市それも、国家級
街全体に“金の流れ”を感じる。
スタオンヌは感心したように呟く
「クレイン王国とも、少し雰囲気が違いますね」
沙耶は周囲を警戒しながらも目を細める
「異国という感じでござるな……」
レオンは前方を見ながら言う
「治安も悪くなさそうだ」
軍や警備会社の車両も多い
武装した警備員も珍しくない
明らかに“金と物流”で成り立っている都市
カロン達は中心へと差し掛かる…
その時――巨大モニターに映像が流れた
《ジョウリッサ・グループ、中央港湾区の新物流ルートを開通――》
《若き女性CEO、リリーナ・ジョウリッサ氏が――》
画面に映る、一人の女。
派手で美人、そして――圧倒的な“デキる女”の空気
カロンが思わず画面を見る。
「へぇ……なんかエロい社長だな」
少しだけ目を細める。
リバティーナが慣れた口調で
「最低ですね」
こうして道路を走るカロン達が辿り着いたのは――
これまで利用してきた素朴な宿とは、まるで別世界だった
巨大なエントランスには赤絨毯
シャンデリア
高級車が並ぶ駐車場
もはや“宿”ではなく豪華ホテル
沙耶が思わず周囲を見回す
「……城でござるか?」
完全に場違い感。
リバティーナも少し引いていた。
「宿泊費、いくらなんでしょうね……」
その時、入口のドアマンが近づいてくる。
「申し訳ございません、本日は予約な――」
最後まで言わせない。
カロンは懐から札束を取り出し――
無造作に押し付けた
「取っとけ」
ドアマンは握らされた物を認識するのに数秒を要した
「……はい?」
「今から予約したって事で」
圧倒的雑、だが札束の厚みを見た瞬間――
ドアマンの態度が変わる
「しょ、少々お待ち下さいませ!!」
即座に最敬礼
エマがぼそっと呟く
「ロンくん、本当にこういう時強いよね」
「金はあるんだ、使っとけ」
その後、高層階の一室。
ガラス張りのラウンジでカロン達は円卓を囲んでいた。
眼下には大都市の夜景。
だが――空気は少し真面目だった
レオンが口を開く
「昨日の魔物が言っていた、“魔王軍も一枚岩じゃない”って話だ」
腕を組む。
「取り敢えず、今後の敵は未知な存在になる」
過激派、人道派…
今まで一色単に考えていた単純な“魔族”ではない。
「俺達は、どうするか……」
静かな問い、これからの進路、討伐の優先度、
様々な見直しが必要になってくる…
その中でリバティーナが冷静に提案する。
「私は……まず、魔法攻撃による襲撃を受けた事から考えて……」
一度、全員を見る。
「誰か魔法使いを仲間にするのはどうでしょうか?今の私達には、魔法戦力がいません」
正論、合理的判断だそれに戦力が多いに越した事は無い
だが――
「いや、俺は反対だな」
カロンが即座に否定する。
スタオンヌも少し困ったように笑う。
「ごめんねリバティー……私も魔法使いは……」
リバティーナが目を丸くする。
「姉さんまで……なぜです?」
カロンは椅子にもたれながら答える。
「いやさ…ばあちゃんに、ハデ兄に、メグ姉の魔法見た後だからな……それに俺らは銃とか車とか、工業とか……そういうの使って戦ってる訳じゃん」
遠い目。
「今更“普通の魔法使い”来ても、なんか地味じゃね?せめてメグ姉みたいに、“時間停止”とか“未来視”とか“万物創造”とか出来るレベルじゃないと、あんま意味無いかなって」
要求値が狂っていた、そんな事できるのはメグ以外居ない
「基準が高すぎるんですよ!!」
エマは苦笑する。
「まあでも、ロンくんの言いたい事は分かるかな」
スタオンヌも頷く。
「“便利”程度の魔法だと、今の私達にはあまり必要性がありませんからね」
スタオンヌは少し真面目な顔になる。
「それに……科学者としては…魔法って、あまり好きじゃないんです」
珍しく、はっきりした否定
エマも頷いた
「再現性ないですからね」
商業も科学もデータの世界だ、2人の言いたい事も間違いではない。
沙耶は首を傾げる。
「魔法は便利そうでござるが……」
レオンはため息をつく。
「……会議にならねぇな」
結論が出ない。
だがそれぞれの考え方だけは、確実に見え始めていた。
そしてこの都市で彼らはまだ知らない、
“金と物流”を武器に戦うもう一人の怪物がいる事を
買い出しのため、市街地へ向かうガーディアン90
運転席にはレオン、助手席にはカロン
窓の外を流れていく景色は――
クレイン王国とも、日ノ本とも違っていた
巨大な広告塔、空中連絡橋
自動搬送レール
整備された道路を、大量の輸送車両が絶え間なく走っている。
“工業国家”というより――“商業国家”
金と物流で発展した都市だった
カロンが外を眺めながら感心する
「なんか……未来都市って感じだな」
レオンも頷く
「クレインは文化も残してるけど、ここは経済特化って感じか」
その時巨大なビル群の一角
ひときわ目立つ超高層ビルの前で、人だかりができていた
報道陣、警備員、高級車
ビル正面に掲げられた巨大ロゴ
《ジョウリッサ・グループ》
そして、その中心にいた。
鮮やかなオレンジ色の髪
ブランド物のスーツ
サングラス越しでも分かる圧倒的な存在感。
リリーナ・ジョウリッサ
記者達の質問が飛び交う。
「リリーナ社長!新港湾ルートについて一言を!」
「PMC部門の拡大については!?」
「東部連盟との契約は事実ですか!?」
だがリリーナは動じない
堂々と歩きながら、的確に返答していく
完全に“出来る女”
レオンがふと呟く
「あれ、広告に載ってた社長だよな……」
少し感心したように見る。
「やっはデカい事した人は……」
そこで隣を見る。
「……カロン?」
カロンは真顔だった。
ただ一点を見ている。
「乳デカ……」
「は?」
カロンは真剣に続ける
「あれはメグ姉くらいあるぜ」
プロの分析みたいな口調
レオンは頭を抱えた。
「お前なぁ……昔から巨乳好きだったけど…」
最低だった
だが――その時。
リリーナが、ふとこちらを見る
ほんの一瞬
ガーディアン90の窓越し
カロンと目が合った
「……?」
リリーナがわずかに眉をひそめる。
普通なら自分を見た男は
媚びる、見惚れる、慌てる
そのどれか
だが、今の男は――
“胸しか見ていなかった”。
「……なにあいつ」
報道陣の人混みの中、少しだけ調子が狂った
巨大ショッピングモール。
吹き抜け構造の館内には、無数の店と人の波が往来する。
高級ブランドや飲食店、銃砲店すらある
この国の“豊かさ”が、そのまま形になったような場所だった。
そんな中――
カロンとレオンは完全に中高生男子みたいな会話をしていた
カロンが真面目な顔で語る。
「俺の知ってる中で身内のデカい順は、ばあちゃん、メグ姉、エトママだな」
最低なランキングだった、まあ父親の遺伝だろう
レオンは呆れ顔。
「お前は……デカけりゃいいのか?」
カロンは即答する
「いい」
迷いゼロ、自分の好みには誇りすら持っている。
「てかさ、リバティーナも多分Eくらいはあるぞ?
早く告って揉ませてもらえよ?」
さらっと爆弾発言
「黙れ」
だが耳はちょっと赤い。
カロンはニヤニヤしている
その時だった
二人の横を、数人のスーツ姿の男達が通り過ぎる
明らかに高級仕立て、企業幹部のような空気
その中心にいた男が、低い声で吐き捨てた
「……リリーナ」
苛立ちを隠さない声
「あの小娘……躾けてやるわ」
空気が少し冷える
隣の部下らしき男が静かに答える
「本日19時に会食ですね」
男は鼻で笑う。
「そこで分からせる」
嫌な言い方
カロンとレオンは自然と視線を向ける
男達はそのまま人混みの中へ消えていった。
レオンが小さく眉をひそめる。
「……なんか物騒だな、命狙われてんのか?」
カロンはポケットに手を突っ込みながら呟く。
「金持ちって大変そうだな〜」
他人事。
だが――ほんの少しだけ
興味を持った目をしていた。
ショッピングモールを後にし――
夕暮れの街を歩く二人。
「でさ、今度のG1なんだけど――」
横を見る
「カロン?」
反応がない。
「おい、聞いてるか?」
カロンは歩きながらどこか楽しそうに笑っていた
完全に何か企んでいる顔。
「……ちょっと、いい事思い付いたわ」
「その顔やめろ」
嫌な予感しかしない
カロンはニヤリと笑う
「俺、あの社長に興味津々だぜ」
あっさり言った
「今日、夜出掛ける!」
レオンは即座に顔をしかめる。
「まーた、ろくでもない事考えたか……」
呆れ半分、諦め半分、そこら辺は長い付き合いで熟知している。
だがカロンは止まらない。
「いや〜、だってさぁ…絶対面白いタイプだろ、ああいう女」
妙に楽しそうだった
完全に獲物見つけた顔。
何を隠そう――カロン・クレイン
結構、年上好きだった
特に、強気、偉そう、自立してる、色気ある
タイプには露骨に目が無い
レオンは深いため息をつく
「お前、そのうち刺されるぞ……」
カロンは笑う
「大丈夫大丈夫」
全然大丈夫じゃない…しかし
「それにさなんか、あの社長……」
少しだけ真面目な目になり一瞬、言葉を選ぶ。
「疲れてそうだったんだよな」
レオンがちらっと見る。
カロンはもういつもの軽薄な笑みに戻っていた。
「まあ、とりあえず会ってみるわ」
その一言――それが。
リリーナ・ジョウリッサの運命を、わりと簡単に狂わせる事になる。
ジョウリッサ・グループ本社の最上階
都市を一望できる巨大な社長室。
高級家具に囲まれ、分厚い書類
鳴り止まない端末
誰もが憧れる“成功者の部屋”――なのだが
「はぁ〜……」
その主は、机に突っ伏していた。
リリーナ・ジョウリッサ、若干二十歳
巨大複合企業を率いる若き女社長
「この後、取引先と会食かぁ……」
机に頬を乗せたまま呟く
「あんまり行きたくないんだよねぇ……」
完全にダルそう
「でも3億の案件だし……」
現実は重い、周囲から見れば 完璧で隙の無い女社長
だが実際は――
仕事に追われ続ける、わりと普通の二十歳だった
人生の大半を仕事に突っ込んでいる
その時…
コンコン
秘書が入室する
「社長、今すぐお話をしたいという方が……」
リリーナは顔も上げず答える。
「先約いるから断っといて〜」
即答だった、
だが
秘書は少し困った顔をした
「……10億の案件です」
リリーナの思考が停止
「……え?」
そしてゆっくり顔を上げる
「10億?」
明らかに空気が変わった
秘書が頷く
リリーナは椅子に座り直す
若干の混乱の中でも、冷静に事を整理する
……だが内心は私情的だった
(いや待って……3億のクソ会食行きたくない……)
(でも10億……いやでも急な案件って怖い……)
脳内会議が高速回転で行われる、
若きトップに必要なのは判断力。
そして今――
彼女の天秤は。
かなり分かりやすく傾いていた。
「……マジで?」
「はい」
リリーナは数秒悩み――
ぱっと顔を上げた
「……ちょっと取引先に上手く断っといて!」
「承知しました」
決断、先方との会食は消滅した
リリーナはソファに倒れ込む
「助かったぁ……」
それは本音、そして彼女はまだ知らない。
その“10億の案件”
これもある意味罠だった事を
高級レストラン
窓際の一人席
夜景が見える特等席にカロンは座っていた
背筋を伸ばしジャケットもきっちり着込み
ナイフとフォークの位置すら綺麗
普段の軽薄さは少し抑えられている
だがどこか余裕がある
その頃
先程のスーツ姿の男は激怒していた。
「なにを!?ふざけているのか!?」
机を叩く
「3億ダストの話だぞ!?それを断るとは……!!」
秘書は一切動じない、優秀だった
「それ以上に重要な話が来た為です」
淡々と、それに男は顔を歪める。
「……誰だ、その相手は」
「存じ上げません」
だが内心、秘書も少し困惑していた。
(正直……私も分かってないんですよね……)
そしてホテル最上階レストラン
エレベーターの扉が開く
リリーナ・ジョウリッサは少し警戒しながら店内へ入った。
10億の案件
突然の呼び出し
普通なら受けない
だが――直感か始めて経験する好奇心か、
何かが気になった
店員に案内され、奥へ進む
そして窓際の席。
そこにいた人物を見てリリーナは止まった。
「……貴方が?」
思わず出た声
カロンはゆっくり立ち上がる
仕草は自然、明らかに慣れている
「お会いできて光栄です、社長」
丁寧。だが媚びてはいない
その距離感が妙に自然だった。
リリーナは少しだけ目を細める。
(……え?)
ある程度身構えてはいたが困惑が隠せない
(確かに、しっかりしてるようには見えるけど……
どっからどう見ても、まだ子供じゃん……?)
想定と違うもっと老獪な商人か、
危険な軍人かそういう相手を想像していた
だが目の前にいるのは若い男
しかも妙に顔がいい
そして何より
“変に緊張していない”。
普通の男なら
リリーナ相手に多少は気圧される
だがカロンは自然体だった
リリーナは警戒しつつ席に座る
「……それで?」
足を組む社長の態度へ切り替える。
「10億の案件って、何かしら?」
完全に探りだ
だがカロンは即答しなかった
ただウェイターへ視線を向ける。
「社長のおすすめ、最初にお願いします」
自然な注文
「……え?」
一瞬にしてペースを乱される
追い打ちのようにカロンは普通に笑った
「腹減ってるでしょ?」
その一言にリリーナは、なぜか少したじろいだ。
テーブルに料理が並び始める
高級レストランらしい、静かな空気
だがリリーナの内心は、全く静かではなかった。
「……で?」
社長としての顔を保ちながら問いかける。
「10億の仕事は?」
本題を促す当然の流れ
……のはずだった。
カロンはワインを軽く揺らしながら、さらっと言った。
「社長に、会いたかっただけですよ」
「……は?」
停止、数秒遅れて理解が追いつく
「な、なにをそんな……!?」
完全にペースを崩される。
カロンは平然としていた。
「今日は、一緒に食事して欲しかっただけです」
あまりにも自然
まるで“当然”みたいな言い方
リリーナの思考が大混乱する
(な、なに言ってんのこの子!?)
(いやいやいやいや!!)
(あり得ないでしょ!?)
混乱だが必死に表情には出さない。
……出さないつもりだった。
「……ふ、普通そういうのは事前に説明するものじゃない?」
ちょっと声が硬い
カロンは首を傾げる
「会えなくなるかと思って」
「っ……!」
一瞬、言葉に詰まる
慣れているはず…
こういう高級レストランも。
男との会食も
社交界も
腹の探り合いも
全部慣れてるはず…
だが――
今までの男達は利益 地位 コネ 欲望
そういう“計算”で近づいてきた。
目の前の男は違う。
あまりにも自然。
変に下心を隠していない、それが逆に厄介だった。
リリーナは水を一口飲む。
(落ち着け私……)
(相手は年下……しかも10代……)
(ペース握られたらダメ……)
そう考えている横で。
カロンは普通に料理を見ていた。
「うまそう」
「……聞いてる?」
「聞いてますよ」
普通に笑う。
「社長、思ったより可愛い人ですね」
「!?」
危うくむせそうになる。
完全に
ジョウリッサ・グループ社長、リリーナ・ジョウリッサ。
人生で初めて“社交”のペースを崩されていた。
食事は――
気付けば、普通に楽しかった。
料理に酒と他愛もない会話
しかもカロンは変に媚びない。
だから逆にリリーナも自然体になってしまっていた。
そして時間はあっという間に過ぎる。
カロンは席を立ちながら微笑む。
「今日は楽しかったですありがとう」
自然な笑顔。
リリーナは一瞬、返事に詰まる。
その時
「ロンくん」
エマが静かに現れる。
いつの間にか待機していたらしい。
手にはアタッシュケース。
カロンはそれを受け取り――
テーブルへ置き、開く
そこに入っていたのは。
大量の札束、圧倒的な現金
カロンは軽く言う
「では会計はこちらで済ませておきます。
あと10億」
「……え?」
エマが営業スマイルで補足する。
「本日はありがとうございました♡」
本物だった、本当に10億
リリーナの思考が止まる
(詐欺じゃなかった〜〜〜〜〜〜!!!)
心の中で叫ぶ
(いやむしろ!!なんかの詐欺であって欲しかった!!)
だがこれは現実、目の前には本当に金がある。
しかもこの男は“10億で会食した”だけ
意味が分からない。
カロンは特に気にした様子もなく背を向ける。
「じゃ、今日はこの辺で」
帰ろうとする
その瞬間。
リリーナの中で何かが引っかかった。
社長として。
交渉人として。
主導権を奪われたまま終わる
それが――
妙に悔しかった。
「……ま、待って!」
思わず声が出た
カロンが振り向く
「?」
リリーナは一瞬迷い、それでも言った
「もう少し……」
プライドと好奇心がせめぎ合う。
「きみの事、教えて……」
静かな沈黙
カロンは少しだけ目を細める。
そして。
ふっと笑った。
「それは……」
少し低い声。
「危険ですけど」
リリーナの心臓が変に跳ねる。
カロンは続ける。
「後悔しないですか?」
試すような目
だがリリーナはもう引かなかった
むしろ笑って返す
「望む所よ」
強気、社長の意地……のつもりだった。
でも実際はちょっとドキドキしていた
カロンは満足そうに笑う
「じゃあ、行きましょうか」
そのまま二人は並んでレストランを後に夜の大都会へ
――この時点で
リリーナ本人だけがまだ気付いていなかった
自分がもう、かなりペースを握られている事に…
夜の街。
ネオンに照らされた大通りをカロンとリリーナは並んで歩いていた
リリーナはまだ少し落ち着かない。
隣にいる男は年下
なのに――
妙にペースを握られる。
カロンがふと口を開く。
「社長」
リリーナが反応する。
「……な、なによ」
ちょっと警戒気味。
カロンは自然に言った。
「肩、抱かせて貰っていい?」
「!!!!」
停止。
心臓が跳ねる。
(な、ななななに言ってんの!?)
(距離感おかしくない!?)
だがここで動揺したら負けな気がした
社長として年上として必死に平静を装う。
「……いいわ」
若干声が上擦る
「好きにしたら?」
強気っぽく言った……つもり
次の瞬間カロンの腕が肩へ回る
近い、体温、金木犀の匂い
リリーナの脳が若干フリーズする。
(ち、近っ……!!)
人生初、男に肩を抱かれた
しかも思いの外嫌じゃない
むしろ――
ちょっと安心するのが悔しい
その時前方から、低い声が…
「……おい」
スーツ姿の男達
昼間の取引先幹部達だった
リリーナの表情が少し固くなる。
「リリーナ社長」
男が笑う。
だが目は笑っていない。
「我々とのビジネスを断って……よもや」
部下も鼻で笑う
「若い男と遊んでいたとは」
完全に見下した視線。
「仕事は出来る女と思っていたが……」
男が一歩前へ出る。
「所詮、まだまだ小娘か」
空気が変わる周囲の男達もじわりと囲み始める。
リリーナは思わず身構える
だが隣のカロンは――
まるで気にしていなかった
「……スタオンヌ、沙耶」
静かな一言
ゴンッ。
「ぶごっ!?」
「なっ――」
バタバタッ。
男達が次々と倒れる、あまりにも一瞬
リリーナが目を見開く
そこにいたのは――
黒いコートを翻した沙耶
そして小型ボンベを持ったスタオンヌ
沙耶が刀を鞘へ戻す。
「安心せい……峰打ちでござる」
スタオンヌもにこっと笑う。
「亜酸化窒素ガスです♡」
吸引式麻酔
「えぇ……」
完全に引いてる。
だが二人は気にしない。
沙耶とスタオンヌはカロンとリリーナへ手を振る。
「では、ごゆるりと♡」
完全に空気読んでいた。
そのまま去っていく二人、道端には倒れた男達だけが残される
リリーナはしばらく固まった後ぽつりと呟く
「……きみ達、普段なにしてる人達なの?」
カロンは普通に答えた。
「旅人です」
そして都市の灯りを背に――2人は夜の街に消えていった
さっきまでの“女社長”の顔はどこにもない。
頭の中はもう大混乱。
(なにこれ……なにこの子……距離近いし顔いいし怖いし優しいし意味分かんない……)
自分では社会を知り尽くしていたつもりだった…しかし、完全に処理落ち思考が追い付かなかった。
だか心臓だけはうるさいほど動いていた、
そして…リリーナは完全にカロンの腕の中だった。
(処女だったのは意外だな)
リリーナはカロンの胸に額を預けながら、小さく呟く。
「カロンくん……」
声が甘い…もう感情が隠しきれてない。
「本当は……10億で何が欲しいの……?」
恐る恐る聞く
「ウチの事業?幹部の椅子?」
どれだけでも出せる
金も。
権力も。
コネも。
全部持ってる。
だからこそ――分からなかった。
この男が何を望んでいるのか、なぜ自分に近づいたのか、リリーナは少し潤んだ目で見上げる。
「もうダメ……♡なんでもあげちゃう……♡」
完全に顔が熱い。
その言葉は本気
カロンは少しだけ笑う。
そして。
自然に優しい声で答えた。
「いやだな…さっき言っただろ?」
リリーナの肩を引き寄せる。
「俺が欲しいのは――」
真っ直ぐで迷いなく
「リリーナだよ」
「……っ♡」
完全に終わった。
頭の中で何かが弾け飛ぶ
(ヤバ……!!年下のイケメンが!!
お金じゃなくてアタシ求めてる!!!)
脳内大暴走
(金も地位も男も…アタシ最高の勝ち組ぃ!!!)
顔が真っ赤になる。
だがそんな姿を見られるのも、もう嫌じゃなかった。
むしろ――カロンになら少し嬉しい
リリーナはカロンの服をぎゅっと掴む
「……ずるいわよ」
小さく呟く。
「こんなの……好きになるに決まってるじゃない……♡」
リリーナからの迫るように唇が重ねる
全てはカロンの意のままだった
翌朝
高級ホテル最上階。
いつものように集まっていたカロン達の前に
カツ、カツ、とヒールの音が響く。
現れたのは
ジョウリッサ・グループ社長
リリーナ・ジョウリッサ
昨日まで“遠い世界の女”だったはずの彼女は
何故か当然のようにカロンの隣に立っていた。
リリーナは腕を組み、堂々と宣言する。
「てな訳で!」
妙にテンション高い。
「皆、よろしくね!」
完全に加入済みみたいな顔
「アタシとカロンくんの期待を裏切らないよう頑張りなさい!」
その直後。
沙耶がぼそっと呟く。
「……高飛車そうな人でござる」
「なによ!?」
空気が若干ピリつく……かと思いきや。
カロンがリリーナへ顔を寄せ、小声で囁く
「こら……仲良くしろよ?」
その瞬間。
「はぃい……♡」
即陥落。
声が甘い。
態度も一瞬で柔らかくなる
沙耶も真顔で
「……訂正…チョロい人でござる」
「ちょ、チョロくないわよ!!」
もう遅い
スタオンヌは優しく微笑む。
「ふふ……可愛い方ですね♡」
エマもニヤニヤしている。
「思ったより重症ですね」
リバティーナは頭を抱える。
「一晩で何があったんですか本当に……」
その横でレオンがカロンを睨む
「おい、お前何したんだよ?」
カロンは普通にコーヒーを飲みながら答える
「何したっていうか……」
少し考えカロンは肩をすくめた。
「色々しようとは思ってたけど…
なんかチョロかったっていうか……」
「チョロくないもん!!」
だが否定に説得力が無い。
レオンは深いため息をつく。
「……また面倒なの増えたな」
しかし。
リバティーナは小さく笑った。
「でも……賑やかになりましたね」
その言葉に。
誰も否定しなかった。
こうして――
金と物流を武器に戦う女社長。
リリーナ・ジョウリッサが。
カロン達の、新たな仲間となった。
史上最速で落ちたチョロいヒロインでした。
リリーナのビジュアルはpixivへ
新オリキャラ リリーナ・ジョウリッサ | 福島ナガト #pixiv https://www.pixiv.net/artworks/146887116




