サイコパスな商人の幼馴染
今回のネタやる為に営業スキル勉強しました
まあ皆仲良く旅して欲しいと思います
指揮官クラスの魔族を倒した、翌朝。
宿の廊下の扉が開き――
いつも通り、二人が出てくる
カロンとスタオンヌ。
自然に並んでまるで当たり前のように
その光景を壁に寄りかかり、座り込んだままの沙耶が見ていた。
「……」
無言のまま視線だけがわずかに動く
スタオンヌが気づき首を傾げた
「沙耶さん?大丈夫ですか?なんだか……寝不足のような……」
沙耶は一瞬だけ視線を逸らす
「だ……大丈夫でござる」
わずかに詰まる。
「昨夜も……異常は無かったでござる……」
形式的な返答…しかしどこかぎこちない。
カロンが眉をひそめる
「……ふーん?」
軽く様子を伺うように沙耶を見る
沙耶はすぐに立ち上がった、その動きは普段より少しだけ速い気もした
「では、拙者は先に見回りを――」
言い終わる前、逃げるように歩き出す
スタオンヌが小さく呟く。
「……どうしたのでしょう……?」
カロンは腕を組んで、その背中を見る。
少しだけ考えて――
「なんか、いつもと違うな」
――廊下の角を曲がった先
沙耶は一人、立ち止まる
(……何でござるか、今のは……)
自分でも分からない。
ただ――さっきの光景が頭から離れない
(いつも通りでござる……それなのに……)
胸の奥が、ざわつく
わずかに眉を寄せる
(……近いでござるな……)
ぽつりと零れた本音に――
自分で少しだけ驚いた
いつもと違った朝の一幕…
それから数時間後、宿屋のフリースペース
一息ついたカロン達がくつろいでいた
その中で――
エマが妙に楽しそうな顔で何かを取り出す
仕入れて来た物を皆に紹介するそうだ
「ロンくん、これ好きだと思うんだよね」
布に包まれたそれをテーブルに置く
カロンが覗き込むように小首を傾げる
「なんだそれ」
エマはゆっくりと布を外す
現れたのは――特徴的な形状の銃
コンパクトで、どこか無骨
カロンの表情を見て、エマの“プレゼン”が始まった
「北欧製のマシンピストルなんだけど…
合衆国でギャングの相棒として有名なやつ」
カロンの目が、じわじわと輝き始める
「装弾数が多くて、軽い」
エマは手に取り、軽く振って見せる
「片手でも振り回せるし――」
にこっと笑う
「もちろん、これはフルオートにしてあるよ」
レオンが横から覗き込む。
「おいおい……違法だぞ…」
少し引いている様子
しかしエマは続ける
「元の作りがシンプルだから、多少雑に扱っても止まらないのも魅力かな」
完全にセールストーク。
「メーカーは既に倒産してて、希少価値が上がってる」
指で軽くなぞる。
「本当は、5万ダスト以上するんだけど――」
自信あり気にニヤッと笑う
「今回はちょっといい仕入れ先見つけちゃってさ」
カロンの視線はもう釘付けだった
「当時の販売価格の32000に少し上乗せで……
ロンくんなら――33000で売ります」
沙耶がぽつりと呟く。
「……誰が粗悪品と分かってて買うでござるか……」
常識的なツッコミ。
しかしその横で…
カロンの顔が――ぱぁー……っと明るくなる。
完全に前から欲しかった物を出された子供の表情
「買います」
ドンッ!!
3万3千ダストをテーブルに叩きつける。
あまりにも速い迷いが無さすぎた
「いやちょっと待て!!」
「即決すぎませんか!?」
レオンやリバティーナが諌めるように言ったが、
カロンがそれに対する持論を述べる
「だってこれが当時と同じ値段で売ってんだぞ!?当然だろ!?」
エマは満足そうに頷く。
「はい、お買い上げありがとうございます」
スタオンヌは楽しそうに笑う。
「カロン様、本当にこういうの好きですね♡」
カロンはもう銃を手に取り、ニヤニヤしている。
「いいなこれ……」
ギャングの勲章とも言えるマシンピストル、
完全に上機嫌、完全にご満悦だった。
子供みたいな笑顔を浮かべている
スタオンヌも嬉しそうに頷く。
「よかったですね、カロン様♡」
沙耶は頭を抱えた。
「……理解不能でござる……」
だが――その様子を見ながら…
ほんの少しだけ
(……楽しそうでござるな……)
そう思ってしまった自分に――
また、戸惑っていた。
その様子を横目に
エマが、次の獲物に視線を向ける。
「次にレオくん」
レオンがきょとんとする。
「俺?」
エマは迷いなく、ケースを開いた。
中に入っていたのは――
スタイリッシュなサングラス。
シンプルで無駄のないデザイン
「最近、運転多くて大変じゃないかな?」
レオンは少し考える。
「まあ……確かに」
長距離移動、日差し、疲労
思い当たる節はあった
エマはそのまま畳み掛ける
「これ、軍でも採用されてるシューティンググラスでね」
手に取って見せる
「変形にも強いし、中東地域の日差しでも耐えられる仕様」
レオンの視線が、少しずつ変わる
「紫外線ってね――」
エマが少しだけトーンを落とす。
「目からも入るんだよね」
一歩踏み込む
「日差し強い日って、いつもより疲れる時ない?」
的確過ぎた、レオンの顔がわずかに固まる。
(……ある)
完全に思い当たる
エマは追撃
「それ、視覚疲労から来てる可能性高いよ」
専門知識にプレゼンスキル、もはや逃げ場なし
レオンはサングラスを見つめる
数秒の沈黙。
そして――
「……買います」
リバティーナが唖然とする
「えっ」
カロンはニヤニヤしながら言う。
「お前もかよ」
エマは満足そうに微笑む。
「ありがとうございます♡」
レオンは軽くため息をつきながらサングラスを受け取る。
「……まあ、必要な投資だな」
自分に言い聞かせるように、納得させるように呟く
だが――少しだけ満足そうだった。
それを見てリバティーナが静かに微笑む
「ふふ……私は引っ掛かりませんよ、エマさん」
余裕、幼馴染2人の好みなら熟知しているだろう、
しかし自分はそうはいかない
完全に“対策済み”
エマはそれを見て、わずかに口角を上げた。
「では……こちら」
取り出したのは、一本の万年筆
重厚感のある洗練されたフォルム。
「吸引式万年筆なんですが――」
さらりと置く。
「普段はどのようなものを?」
リバティーナは少しだけ視線を落とす。
「この……1万ダスト程度のものを……」
胸元のペンを指で触れる。
「就職祝いに買った物です」
エマはすぐに頷く。
「素晴らしいですね」
肯定、否定しない
「実務としては、全く問題ありません」
リバティーナの表情が、わずかに緩む。
(……やはり、そうですよね)
自分の愛用品を褒められ安心、その一瞬の“隙”
エマが踏み込む
「ちなみに……」
軽く視線を合わせる
「リバティーナさん、弁護士になられてどのくらいですか?」
「今年で2年目の新米です」
素直な返答にエマは頷く
「ですよね」
そして、静かに問いを投げる。
「では――“名前を書く瞬間”って、どういう意味を持ちます?」
空気が変わる。
リバティーナの目が、わずかに真剣になる。
「……責任の所在を明確にする行為ですね」
迷いのない答え
エマは、ふっと微笑む。
「素晴らしいです」
一歩、近づく。
「やはりそういう時こそ――」
万年筆を軽く持ち上げる。
「愛用の万年筆を使うのが最適解ですよね」
リバティーナの思考が、わずかに揺れる。
「……」
否定できない。
だが――
エマは、そこで終わらない。
「リバティーナさんにとって“最高の相棒”は今使っている万年筆でしょう」
そして――ここで切り替える
「ですが、こちらは“最良のパートナー”になってくれます」
役割を分ける。
リバティーナの目が、わずかに細まる。
「普段の手記は今の万年筆、ブレない字を書いてくれるでしょう」
万年筆を指先で回す。
「重要文書の時にだけ、こちらを使う」
その言葉に、わずかな説得力。
「吸引式は少し手間ですが……」
少し間を置く。
「その“手間”が気持ちを整える時間になる」
静かに刺す。
「重要な場面の前に、意識を切り替える儀式になるんです」
完全に入った、
リバティーナの呼吸が、わずかに変わる。
(……確かに……)
エマはとどめ。
「人気なので、すぐ売り切れてしまいます」
さらっと言う。
「買うなら――今かと」
情緒に訴えかけるようなプレゼンの後の静寂、
誰も口を挟まない。
リバティーナは万年筆を見つめる。
そして――
「……買います」
落ちた。
「うわぁ……」
「マジか……」
スタオンヌは嬉しそうに拍手する。
「流石です、エマさん♡」
エマはにっこりと微笑む。
「毎度ありがとうございます♡」
リバティーナは、少しだけ頬を染めながら万年筆を受け取った。
「……必要経費です」
自分に言い聞かせるように
だがその表情は――
どこか満足していた。
エマが、にやりと口角を上げる。
「やった、10万ダスト!」
完全に“勝者の顔”。
小さくガッツポーズ。
テーブルの上には、今しがた動いた大金
だが――誰も文句は言わない。
カロンは肩をすくめる。
「構わねえよ、金はある」
あっさり
さっきまでの高額も、もう気にしていない。
むしろ――
新しい銃を触りながら上機嫌だ
レオンもサングラスを軽くかけ直す。
「長い目で見ろ……投資だ」
妙に説得力のある言い訳。
その横でリバティーナは万年筆を両手で持ち、静かに見つめていた。
「……一生物……宝物にします」
小さく呟く、そしてほんの少しだけ微笑む。
大事そうに胸元へ
沙耶はその光景を見て、ため息をついた。
「……恐ろしいでござるな……」
何がとは言わない。
だが全員が分かっている
エマは満足そうに頷いた
「良い買い物って、そういうものですから♡」
カロンは笑う。
「お前が言うと説得力あるな」
レオンも苦笑する。
「敵に回したくねえな……」
スタオンヌは嬉しそうに拍手する。
「素敵な時間でしたね♡」
――こうして
戦闘とはまた違う意味での“激戦”は、幕を閉じた。
そして。
次は――沙耶の番が、静かに近づいていた。
フリースペースでの“激戦”を終え――
それぞれが次の行動に移ろうとしていた。
カロンが立ち上がる。
「じゃあ俺らは、買い出しと散歩してくる」
軽いノリ、そのまま振り返る。
「行こうぜ、スタオンヌ」
スタオンヌは嬉しそうに頷く
「はい、カロン様♡」
自然に並んで歩き出す二人
その背中を見送りながら――
レオンはその場に座り直した。
「俺は荷物番してる」
リバティーナも静かに頷く。
「では、私もご一緒します」
隣に腰を下ろす
エマはその様子を横目で見ながら、内心で呟く
(レオくんとリバティーナさん……)
にやり。
(早く付き合えばいいのに)
そんな事を思いながら立ち上がり、物資の整理へと向かう。
――そし一人て残された沙耶は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
(……)
視線の先、遠ざかっていくカロンとスタオンヌの背中
自然に並んで迷いなく歩いて行く
その光景が妙に、引っかかる
(……いや)
小さく首を振る。
(これは……)
そっと、音を立てずに歩き出す
距離を保ちながら影に紛れて尾行
(これは飽くまで警護でござる……)
いつも通り真剣な顔
(拙者はアクア様の弟君をお守りする任にある……)
理屈は完璧だが…その足取りはどこか落ち着かない
角を曲がる二人の後を、さらに追う
(……決して)
わずかに視線が揺れる。
(決して……)
ほんの少しだけ、声が小さくなる。
(……気になっている訳ではないでござる)
人通りの多い通り
カロンとスタオンヌは並んで歩いていた。
自然に――恋人繋ぎで
カロンが周囲を見渡しながら言う。
「次の町までに必要なのは……食料品と消耗品か」
現実的な話だった
カロンはちらっと横を見る
「スタオンヌは、なんか欲しい物とかある?」
スタオンヌは少し驚いたように目を丸くする。
「え……いいんですか?」
遠慮がちな声にカロンは軽く笑う
「全然いいさ、金はあるんだ」
あっさり、だがその言葉に嘘はない。
(……やりたい放題でござるな……)
物陰から見ていた沙耶が、内心で呟く
――その時
「きゃぁー!!」
鋭い悲鳴。
「ひったくりだ!!」
一瞬で空気が変わる。
スタオンヌが振り向き、沙耶も思わず身を乗り出す
カロンの横を――
男が凄まじい速さで駆け抜けていく。
その手にはかすめ取った財布
(行くしか――)
沙耶が動こうとする
だが
カロンが落ち着いた態度で被害に遭った女性の方へ歩いていく
(……?)
沙耶が眉をひそめる。
女性は慌てた様子で周囲を見回している
その前にカロンが立つ
「はい」
何事もなかったかのように二つの財布を差し出した
「これ、アンタの財布」
もう一つを軽く揺らす
「それと……アイツからの慰謝料」
女性は目を見開く
「え……?」
手に取る、確かにそれは自分の財布だった
そしてもう一つ
「な、なんで……?」
カロンは肩をすくめる。
「さっきの奴からちょっと拝借した、逃げるのに必死で簡単だったよ」
スタオンヌがくすっと笑う。
「お見事です、カロン様♡」
その一瞬のすれ違いざま
取り返すと同時に奪う完全な“上位互換”だった
これが母親譲りのスリ技
女性は何度も頭を下げる。
「ありがとうございます……!本当に……!」
カロンは手を振る
「いいって」
もう興味がない、カロンに取っては目を瞑ってでも出来るただの特技だ
そのままスタオンヌと並並んで歩き出す
再び、恋人繋ぎで
――物陰から。
沙耶は、その一部始終を見ていた。
(……あの瞬間に……奪い返し……さらに奪う……?)
理解が追いつかない
だが――それ以上に
(……迷いが無い……)
人を助けることに。
(……優しさ、でござるか……?)
ぽつりと、心に浮かぶ。
だがすぐに否定する。
(いや……あれは……盗みでござる……)
それは間違いない…それなのに
胸の奥が、少しだけ温かくなる
(……分からぬでござる……)
理解できない
だが――
確実に、惹かれていた。
その日の夜。
宿はすっかり静まり返っていた。
廊下の灯りだけが、ぼんやりと床を照らしている。
――いつも通り。
沙耶は、カロンの部屋のすぐ外
壁に背を預け、座り込んでいた。
刀を抱くようにして。
護衛、それが役目
それは、何も変わらない。
――だが。
扉の向こうから、微かに聞こえてくる声。
楽しげで、熱を帯びたやり取り。
スタオンヌの甘い声。
それに応じるカロンの声。
途切れ途切れに、耳に届く。
「……」
沙耶は、目を閉じる。
(いつも通りでござる……)
何も変わらない。
今までも、ずっとそうだった。
(……なのに)
胸の奥が、締め付けられる。
今日一日
あの光景
あの言葉
あの笑顔
何度も、頭の中で繰り返される。
(……何故でござるか……)
分かっているはずだった。
理解しているはずだった。
それなのに――
(……切ない……)
ぽつりと、零れる。
自分でも驚くほど、素直な言葉。
ゆっくりと、目を開ける。
暗い廊下。
誰もいない。
逃げ場はない。
そして――
ついに、言葉になる。
(拙者は……)
わずかに、呼吸が震える。
(カロン殿が……)
迷いは、もう無い。
(……好きなんだ……)
静かに、確かに胸の奥にあったものが形になった。
だがそれを誰に伝えるでもなく
沙耶はただ、そこに座り続ける
護衛として
そして――一人の女として
夜は、静かに更けていった。
エマの仕入れルートはご都合主義です、密かに裏で…とかは無いです




