マナー講師みたいな主人公
前回は気が向いたから人助けした回で、今回は休む回です。カロンは休みの日は目の前で聖人が倒れていようが無視するタイプ
本国・王都。
ガギルスの領土を抜けた先――
そこに広がっていたのは、意外なほど整った街並みだった。
石畳は綺麗に整備され、店には活気があり、
人々の表情も明るい
同じ国とは思えないほどの差
「……さっきの場所と同じ国とは思えませんね」
リバティーナが小さく呟く。
レオンも頷く
「上がまともなら、ここまで違うか……」
そんな中。
一人だけ、やたらとテンションの高い男がいた。
カロンだ。
「よしみんな!!」
朝っぱらから声を張る
全員の視線が集まる。
カロンはニヤリと笑いアタッシュケースを取り出す。
中身は札束の山その異様な量
「今日はあのバカから貰った金で遊ぶぞ!取り敢えず1人1億ずつ分ける!」
堂々と宣言する
リバティーナは理解が追い付かない
「……は?…」
レオンが素で固まる。
「……いち……おく……?」
リバティーナも思考停止。
カロンは気にせず、どさどさと袋を配り始める。
スタオンヌだけはうっとりしている。
「流石はカロン様……♡」
完全に慣れている
エマは苦笑い
「やりたい放題ですね」
でも皆受け取る。
沙耶は袋を見つめたまま固まっていた。
「……こんな大金…何に使うでござる……」
価値観が追いついていない
カロンはそんなことお構いなしに宣言する。
「今日は自由行動だ!明日の朝までには帰ってこいよ!」
ルールはそれだけ。
そしてそのままスタオンヌの手を引いた。
「じゃ!行こうぜスタオンヌ!」
「はい♡どこへでも♡」
自然に腕を絡める。
完全にデートモード。
沙耶がそれを見て、顔をしかめる。
「……本当に魔王討伐の旅でござるか……?」
レオンが肩をすくめる。
「今さらだろ」
エマはくすっと笑った。
「まあ、たまにはいいんじゃないですか?」
そして視線を沙耶へ
「どうします?」
沙耶は少し考え――
静かに頷いた。
「……案内を頼むでござる」
こうして。
三組に分かれた一行。
――それぞれの一日が、動き出す。
カロン達が去った後。
その場に残されたのは――
2億ダスト。
袋の中で重く鳴る金貨の音が、やけに現実感を薄くする。
レオンとリバティーナは、しばらく動けなかった。
レオンがようやく口を開く。
「これ、夢じゃないよな?」
リバティーナは鞄を覗き込み、そっと頷く。
「……現実ですよね……自由に使っていいんですよね?」
苦笑。
しばしの沈黙。
人の流れだけが横を通り過ぎていく。
レオンは少しだけ視線を泳がせ――
やがて、決心したように一歩踏み出した。
「リバティーナ」
呼びかける。
少しだけ声が硬い。
「よかったら……その……」
言葉を探す。
そして、まっすぐに言った。
「一緒に行かないか?」
ぎこちない。
だが、誤魔化していない。
リバティーナは一瞬だけ目を見開き――
すぐに、ふっと表情を緩めた
「レオンさん……」
小さく笑う
「ふふ……いいですよ」
柔らかい声
「行きます」
その笑顔は、いつもより自然だった。
レオンはほんの少しだけ安心したように息を吐く。
だが、距離は確実に縮まっていた
二人は並んで歩き出す
人の多い通りへ
少しだけ、近い距離で
――ぎこちないけど
確かに前に進んだ、一歩だった。
石畳の通りを少し歩いた先
落ち着いた雰囲気のカフェに、二人は入った
木の香りと、柔らかな日差し
外の喧騒とは少しだけ切り離された空間
レオンは、ドアを開けたまま一歩引く
「どうぞ」
ぎこちないが、しっかりした動き。
リバティーナが小さく頷く。
「ありがとうございます」
席へ案内される。
――その瞬間。
レオンの頭の中に、昨日の記憶が蘇る
「カロン……こういう時はどうしたらいいんだ……?」
「まずな、席に着く時は相手を先に座らせるんだよ」
「なるほど……」
「あと自分が座る時は絶対下見るな。相手を見続けながら座れ」
「……難しくないかそれ」
「慣れだ」
――現在。
レオンはゆっくりと座る。
視線は――外さない。
(見ろ……下を見るな……!)
内心は大混乱
(手組むなって言ってたよな……手どこに置くんだ……!?)
テーブルの上で指先が微妙に迷う
(ヤバい……緊張する……手組みたい……紛らわしたい……!)
完全に不審者一歩手前。
そんな様子をリバティーナはじっと見ていた。
そして――
「レオンさん」
ふっと声をかける。
レオンがビクッと反応する。
「え!?」
完全に挙動不審。
リバティーナは少しだけ口元を緩めた。
「なんか今日……」
視線を少しだけ逸らしながら。
「固いですけど……かっこいいですね」
レオンの思考が止まる
「……は?」
予想外。
完全に予想外。
リバティーナは、ほんの少しだけ照れたように視線を落とす。
「その……ちゃんとエスコートしてくれてますし……」
小さな声
「嬉しいです」
レオンは言葉を失う
(カロン……これどういう状況だ……!?)
頭の中で助けを求めるが、当然返事はない。
しばらくの沈黙
そして――
レオンは、ゆっくりと姿勢を正した
「そ、そうか……」
ぎこちないけど、逃げていない
「なら……よかった」
短い言葉
でも、それで十分だった
リバティーナはくすっと笑う
「ふふ……」
さっきより、少しだけ柔らかい空気。
レオンの手は、結局どこにも組まれず――
ただ、まっすぐ前に置かれていた。
(……これで、いいのか)
確信はない、でも少しだけうまくいっている気がした
通りをゆっくり歩く二人
賑やかな街中でも沙耶の表情はどこか納得していなかった
腕を組む沙耶
「しかし……カロン殿には、危機感も急ぐ様子も無いでござる……」
真面目な疑問。
使命として捉えている沙耶からすれば、理解できない、エマはそんな沙耶を横目に見て軽く肩をすくめ少しだけ笑った
「まあ、ロンくんは…別に魔王に恨みは無いですからね」
沙耶が足を止める。
「……なんと?」
驚きと困惑
エマは立ち止まらず、そのまま歩きながら続ける。
「もしロンくんが魔王に恨みを持ってたら」
ちらりと振り返る。
「初日にでも魔王のところに辿り着いてますよ」
沙耶は息を呑む。
「……そこまででござるか……」
エマは小さく笑った。
「ええ。ロンくんはやる時は一直線ですからね、でも今回は違う」
少しだけ声が落ちる。
「これは“ディアドラ陛下に頼まれた仕事”です、だからロンくんにとっては……」
軽く空を見上げる。
「新魔王なんて二の次」
さらりと言い切った。
沙耶の眉が寄る。
「……では何のために……?」
純粋な疑問。
エマは、少しだけ考えてから答える。
「気分、ですかね」
あっさり
沙耶が呆然とする
「……は?」
エマは笑う。
「気に入らないことは潰す」
「面白そうならやる」
「頼まれたら、とりあえず受ける」
指を一本ずつ立てながら数える
「それがロンくんです」
沙耶は言葉を失う。
(……それでは……)
秩序も、信念も、何も無い。
はずなのに――
「……それで民は救われたでござる」
ぽつりと漏れる本音。
エマは少しだけ目を細めた。
「そうですね」
否定しない。
「正しいかどうかは別として、結果だけはちゃんと出しますよ」
その言葉に、沙耶は黙り込む。
納得はしていない
だが――完全に否定もできない
エマはふと、沙耶の方を見た。
「気になるんですか?」
少し意地悪な問い。
沙耶は一瞬だけ視線を逸らし――
小さく答えた
「……理解したいだけでござる」
その言葉に、エマはくすっと笑った。
「そっか」
短く
「じゃあ、もう少し一緒にいれば分かりますよ」
その声は、どこか楽しそうだった。
通りの喧騒の中、二人はゆっくり歩き続ける。
先ほどの話をまだ噛み砕ききれずにいる沙耶。
その横で、エマは少しだけ肩をすくめた。
「まあ……ロンくんに、善悪の概念はありませんからね」
あっさりと言う
沙耶が足を止める
「……またなんと?」
今度は明確な動揺
エマはくるりと振り返り、少しだけ真面目な目で言った。
「彼にとっては、全部“好きか嫌いか”ですよ」
指で軽く空をなぞる。
「気に入れば、相手が悪魔でも救う」
「気に入らなければ、聖人だろうが潰す」
淡々とした説明。
だが、その内容はあまりにも極端だった
沙耶は言葉を失う
「……それでは……」
秩序も、義も、何も成り立たない
エマは苦笑する
「まあ、究極の自己中ですね」
軽く言い切る
しかし――
その目は、どこか懐かしそうでもあった。
沙耶はしばらく黙り込み、やがてぽつりと呟く。
「……理解できぬでござる」
正直な言葉
エマは小さく笑う。
「でしょうね」
否定しない。
「でも――」
少しだけ声が柔らかくなる。
「それで救われた人も、ちゃんといるんですよ」
視線を前に戻す。
「ロンくんにとっては、それが全部ですから」
その曖昧な感情が、静かに胸の中に残っていた
通りの喧騒が少し遠のいた頃
二人は人通りの少ない並木道へと入っていた
沙耶は、しばらく黙っていたが――
やがて、ぽつりと口を開く
「……エマ殿は」
少しだけ言い淀む
「なぜ、カロン殿と親しくしているのでござるか……?」
率直な疑問
エマは足を止めないまま、少しだけ視線を落とした。
「……そうですね」
小さく息を吐く
「ロンくんとレオくんとは……幼稚園に入る前からの付き合いなんです」
さらりとした前置き
だが、その後――
ほんの少しだけ間が空いた。
「あと…昔、ちょっと……いじめられてて」
沙耶の目がわずかに動く。
「その時に、助けてくれたのがロンくんでした」
深刻に語らない。
でも、事実は重い。
「……助けた、と?」
沙耶が問い返す
エマは少しだけ懐かしそうに、小さく笑う
「ええ、凄かったですよ、そこまでやるかってくらい」
淡々としているが、内容は物騒
沙耶は思わず言葉を失う
「……それは……」
エマは肩をすくめた。
「めちゃくちゃですよね」
自分で言う。
「でも――」
少しだけ、声が柔らかくなる。
「弱いままじゃダメだって、叩き込まれました」
視線を前に戻す
「“自分でやり返せ”って」
「“気に入らないなら潰せ”って」
どこかで聞いた言葉
沙耶は、はっとする
「……それが今の……」
エマは頷く
「今の私です」
にこりと笑う
だがその笑顔は、どこか芯が強い
「感謝してますよ」
「尊敬もしてます」
「まあ……全然、ただの友達ですけど」
いつもの調子に戻る
沙耶はその横顔を見つめる。
(……あの男が……人を変えた……)
信じがたい
だが――目の前に、その証がいる
「……」
沙耶は少しだけ視線を落とし、呟いた。
「……やはり、分からぬでござるな」
正直な言葉
エマはくすっと笑う。
「それでいいと思いますよ」
軽く答える
「全部分かる人なんて、いませんから、」
その言葉に、沙耶は何も返さなかった
だが――
ほんの少しだけ。
カロンという存在の“輪郭”が、見え始めていた。
通りを抜けた先。
ガラス張りの洒落た服屋に二人は足を止めた。
中には色とりどりの服が並びどこか少しだけ非日常な空間。
リバティーナは、そっと店内を見渡す。
「……何年ぶりですかね……」
ぽつりと呟く
懐かしさと、少しの戸惑いが混じった声。
レオンも隣で腕を組む。
「リバティーナ、いつもその法服だよな」
いつもの黒い装いを指差す
リバティーナは苦笑した。
「仕事を始めてからはずっとこれです」
軽く裾をつまむ。
「姉さんは研究で忙しいですし……兄さんも軍で帰って来られませんし……」
少しだけ視線を落とす。
「中々、こういう機会も無くて……」
その言葉に、レオンは少しだけ表情を緩めた。
「……じゃあ今日はいい機会だな」
リバティーナが顔を上げる
レオンは店の中を見回しながら続けた
「せっかくなんだし、色々見てみようぜ」
気負わない言い方でも、ちゃんと“誘っている”
リバティーナは一瞬だけ考えて――
小さく頷いた。
「……はい」
少しだけ柔らかい声。
二人は店内へと足を踏み入れる。
店員がすぐに気づき、にこやかに声をかけてくる。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しで?」
レオンが少しだけ戸惑いながら口を開く。
「えっと……」
横目でリバティーナを見る。
「似合いそうなの、見繕ってもらえますか?」
言い切った
店員がぱっと笑顔になる。
「かしこまりました」
リバティーナは少しだけ驚いた顔をした後――
ふっと微笑んだ。
「……任せていいんですか?」
少しだけ試すような言い方。
レオンは軽く肩をすくめる。
「俺よりは詳しいだろ」
リバティーナは小さく笑う。
「それもそうですね」
空気が、少し軽くなる
やがて、いくつかの服が運ばれてくる。
「こちらなどいかがでしょうか」
柔らかな色合いのワンピース。
いつもの法服とは、まるで違う。
リバティーナはそれを見つめ、少しだけ戸惑う。
「……こんなもの、着たことが……」
その時、レオンが何気なく言った。
「似合うと思うぞ」
リバティーナが顔を上げる。
レオンは少しだけ視線を逸らしながらも続けた。
「なんか……その、雰囲気に合ってる」
言い慣れてない。
でも、ちゃんと伝えている。
リバティーナはほんの一瞬だけ固まり――
やがて、小さく頷いた。
「……では、少し試してみます」
そう言って、服を受け取る
試着室へ向かう背中
内心で考える…店内で待つレオンの心中
(……思うって言ったけど…間違い無いだろ……)
しばらくしてカーテンが開く
「……どうでしょうか」
少し控えめな声。
振り返ったレオンは――
言葉を失った。
いつもの堅い印象とは違う。
柔らかく、女性らしい雰囲気。
「……」
一瞬、反応が遅れる。
リバティーナが少し不安そうに首を傾げる。
「……変、ですか?」
その問いに、レオンははっとして答えた。
「いや…、すげぇ似合ってる」
迷いはなかった。
リバティーナは、少しだけ目を見開き――
そして、ふっと笑った。
「……そうですか」
その笑顔は、さっきよりも自然だった。
少しだけ。
距離が、縮まっていた。
店を出た後。
買い物袋を一度宿に置き――
二人は、街の外れにある小さな広場へと足を運んでいた
昼下がり柔らかな陽射しが差し込み
人もまばらなその場所にぽつんと置かれたベンチに
レオンが腰を下ろす
少し間を空けて、リバティーナも隣に座った
距離は近すぎず遠すぎず
でも、不思議と気まずくはない。
やがてレオンが、ぽつりと呟く
「……今日は楽しかった」
飾らない言葉
リバティーナは少しだけ視線を落とし――
小さく頷く。
「……私もです」
静かな返事、そのまままた少し沈黙。
風がふわりと吹くいた
その時だった
リバティーナが、ふと口を開く。
「レオンさんって……」
少しだけ間を置いて。
「優しいですよね」
レオンが目を見開く。
横を見る。
そこには――
普段の冷静な表情とは違う、
柔らかく、少し照れたような笑み。
一瞬だけ別人と思う程の顔
レオンは言葉を失う
(……なんだそれ)
思考が止まる
(反則だろ……)
レオンは視線を逸らす
ほんの少しだけ、耳が赤くなる。
「……普通だろ」
ぶっきらぼうに返す
だが声は、少しだけ硬い
リバティーナはくすっと笑う。
「ふふ……そういうところですよ」
軽くからかうような言い方
でも優しい、レオンは頭をかく
「……分かんねぇよ」
そのまま、少しだけ空を見上げる。
リバティーナも同じように視線を上げた。
青空と穏やかな時間
どちらからともなく、もう一度だけ言葉が零れる。
「……また、来ましょうか」
リバティーナ。
ほんの少しだけ勇気を出した声
レオンは一瞬だけ固まり――すぐに頷いた
「ああ、今度は……もっと色々見よう」
自然な返し。
リバティーナは、嬉しそうに笑った。
さっきより、少しだけ距離が近い。
でも――
まだ触れない、その絶妙な距離のまま
二人の時間は、ゆっくりと流れていった
ベンチでの穏やかな時間のあと。
二人は並んで立ち上がる。
リバティーナがふと、空を見上げながら呟く。
「それにしても……今頃、姉さん達は何してますかね?」
レオンは少し考えて――
肩をすくめた。
「毒選びでもしてるんじゃないかな?」
リバティーナが吹き出す。
「ふふっ……それはあり得ますね」
レオンもつられて笑う
「だろ?」
軽い会話。
穏やかな空気。
二人は、そのままゆっくりと歩き出した。
――その頃
王都を見下ろす、高台の展望台。
夜。
街の灯りが無数に広がり、宝石のように輝いている。
スタオンヌは目を細めてその光景を見つめていた
「綺麗……カロン様……凄い夜景ですね……」
隣に立つカロンも、同じように街を見下ろす
「ああ……」
静かな返事
「今日は楽しかったな」
スタオンヌは、ゆっくりと頷く
「はい……カロン様……」
そのまま、少しだけ身体を寄せる
カロンがちらりと視線を向ける
「ん?」
スタオンヌは、ほんの少しだけ照れたように――
それでも、まっすぐに言った。
「まだ……帰りたくないです……♡」
夜風が、ふわりと吹く。
カロンは少しだけ目を細めて――
「……そうだな」
短く答えた次の瞬間。
自然な流れで、距離が縮まる
誰もいない展望台。
夜景を背に――静かに、唇が重なる
街の灯りが、二人を照らしていた
――翌朝。
何事もなかったかのように集合する一行。
レオンがカロンを見る。
「……遊びほうけてた割には、満足そうだな」
カロンは欠伸をしながら答える
「まあな」
スタオンヌは隣で、いつも以上に上機嫌だった。
沙耶は、何も言わずに視線を逸らす。
エマだけが、にやりと笑った。
どこか、昨日よりも柔らかかった。
それぞれの一日。
それぞれの距離。
少しずつ、確実に変わっていく。
――そんな、穏やかな一日だった。
そういえば初期構想だとリバティーナの性格はツンデレの予定でした。
最早メインヒロインよりメインヒロインじゃないかな?
↓
メインヒロインの妹 | 福島ナガト #pixiv https://www.pixiv.net/artworks/146430238




