第1.5話 勇者マサキ
この僕が負けた……?
僕は幼い頃から勇者と称えられてきた”勇者マサキ”だ。
全力を出しても勝てない相手がいるなんて……
嘘だと言ってくれ。
全員での力の限りの攻撃を防がれた僕は、現状を理解できないままただ呆然と立ち尽くすしか無かった。
「そんな……」
後ろで”魔法使いメイシュ”が座り込む音が聞こえた。
彼女も幼少期から魔法の才が芽生え、将来を期待されている大魔法使いだ。
まだ戦える。
まだ勝機はあるはずだ。
そう仲間を鼓舞しようとしたその時、急に体が重くなるのを感じた。
バフの効果が切れたのだ。
「なんで……」
声の主”魔法使いルミ”が、後方で腰を抜かして崩れ落ちるような気配を感じた。
彼女は一人で迷宮に潜っていたところを僕がスカウトした。
パーティーに足りないバフを扱うことのできる貴重な人材だったし、何より彼女の人間離れした判断力が欲しかったのだ。
そんなルミにもう戦えるだけの力が残っていないことは明白だった。
バフがかかることはもうないだろう。
全身は鉛のように重くなり、手足に力が入らなくなってきた。
もう勝ち目なんてあるはずはないことはわかっている。
でも、勇者であるプライドが剣を固く握らせている。
ふと視線を横に逸らし、”術師ゲイン”の様子を伺ってみる。
彼も俺僕と同じく直立不動であったが、俺と違って両腕が下にだらんと垂れている。
垂れた手から杖がずるりと抜け落ち—————
ゴトン、という衝撃音とともに地面で杖が跳ねた。
失神している……!?
僕と幼少期から共に過ごし、何時間特訓をしても顔色の変わらなかったあのゲインだ。
消耗戦後の全力の攻撃だったとはいえ、失神するほどの魔力を消費したとは考え難い。
何らかの能力で魔力が吸い取られたに違いない。
あれこれ考えているうちに魔王がすぐ正面まで迫っていた。
魔王が何か言っていたが、その時の僕にはその言葉の意味を理解する余裕などなかった
ここで終わるんだ。
これからの運命を悟ると、もう何もかもがどうでもよくなってしまった。
これから僕たちは殺されるんだろう。
それも無惨な方法で。
動かなくなった体は魔王から目をそらすことも許さず、正面から裁きを受けるしか無かった。
「ブラインド・フォール!!」
魔王のこの声を最後に、視界は深い闇の中に包まれた……
………!……キ!…サキ!
どこかで呼ばれているような気がする。
その声がメイシュのものだと気づくと、すぐに目を開き体を起こした。
「マサキ!無事でよかった!!」
涙ながらに抱きついてくるメイシュを1度静止し、状況を説明してもらうことにした。
「これは一体どういうことなんだ!?みんなは!?」
「魔王に使われたのは転移魔法だったの。
私たちはこのわけのわからないところに飛ばされただけだと思う。」
そう言われ辺りを見回してみると、そこは洞窟のようだった。
人の手が入った形跡のない、未探索の洞窟。
魔王は僕たちを苦しめながら殺すためにこんな所へ転移させたに違いない。
メイシュと協力して辺りの安全を確認したあと、パーティーメンバーの意識と無事を確認した。
「みんなが無事でよかった。そして、ここは未踏の洞窟だ。出る方法も分からない。だが、諦めなければいつか必ず助かる。」
みんなを鼓舞し、非常用の飲食料をルミのイマジナリー・ポケットから出してもらった。
軽食を挟み、辺りを探索することにする。
実を言うと、今、僕たちのパーティーには金がない。
魔王討伐のために武器や防具、食料などを奮発して買い、それらのほとんどを消耗してしまったためパーティーの有する財産はほとんどないと言っていい。
少しでも稼ぎになる鉱石類を探そうと深くへ潜ってみる。
しかし、どれだけ歩いても鉱石の類が見つかることはなかった。
さすがに望みは薄いと判断したのか、ルミはあと30分ほど歩いて何も見つからないなら引き返そうと提案した。
だが、20分も経たないうちに大きな空洞に当たった。
これまでの1列でしか歩けないような一本道とは違った光景に心が躍る。
空洞を分担して探索していると、メイシュが大きな声でメンバーを呼ぶ声が聞こえてきた。
魔物が出たのか。
急いで駆けつけると、信じられない光景に目を疑った。
辺り一面が謎の鉱石で埋め尽くされていたのだ。
「もしかしてこれって……」
ルミがボソッとつぶやく。
どこまでも黒く、大きなトゲが全面についた球体のような形状。
この功績から漂う紫色のオーラからは、どこか不気味ささえ感じさせる。
「黒魔石……なのか?」
『幻の鉱石』とも呼ばれる黒魔石はこれまでに発見例がなく、大昔の記録でしか記されていないことから存在しないとされてきた。
記されていた特徴と完全に一致している。
まさか実在するとは。
世紀の大発見に、手を取り合って喜んだ。
黒魔石を持てるだけ採掘してルートを確保しながら上を、出口を目指して進んでいく。
外へ出るのは信じられないくらい容易であった。
というのも、ゲインの風や空気の乱れを読むことができる能力で出口への道に迷うことがなかったのだ。
外に出ると、そこは森の中だった。
周囲には人の気配も魔物の気配もなく、どこまでも静かな落ち着いた森だった。
「やっと出れた!」
メイシュが目を輝かせて言った。
約半日ぶりの外の世界。
そのやわらかな光や暖かさなどの全てが心地よく感じられる。
「近くに街がないか探してみよう!」
大発見に大興奮していたルミが浮き足立った様子で僕たちを急かした。
落ち着きのないパーティーの女性陣をゲインが暖かく見守っている。
普段は表情から感情が読み取りにくい彼だが、今は嬉しそうに微笑んでいる。
「そうだね。大発見のお祝いもしないと。」
僕は先陣を切って4人の先頭に立ったとき、ふと魔王戦のことを思い出した。
確か魔王、出直してこい、と言っていたよな。
僕は今、莫大な富を得た。
あの時よりも万全な準備、余裕ができるだろう。
待っていろよ、魔王。
何度でも立ち向かい必ず倒してやる。
そう強く心に決めた僕は最大の目標への第1歩、街を求めての冒険をはじめた。
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