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ランキング最下位の俺だけが、世界の本当の順位を見られる件――カースト底辺の陰キャ、万象ランキングで人生を逆転する――  作者: ビッグサム


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第13話 消したから大丈夫(2/2)

 未原は俺を見る。


「でも、行ったのは私だから」


 俺は息を止めた。


「四季くんに行けって言われたわけじゃない。私が行くって言った」


「でも、止めなかった」


「止められたら、たぶん嫌だった」


 未原の声は小さい。


 でも、はっきりしていた。


「また、私は何もしない人になるから」


 何もしない人。


 その言葉が、廊下の白い壁にぶつかって返ってきた気がした。


 未原も、そこから動こうとしている。


 止めようとして止めきれなかった自分から。


 何もしなかった人として終わることから。


 俺は、それを利用したのか。


 それとも、未原の選択を認めたのか。


 分からない。


 分からないまま、頷くこともできなかった。


    ◇


 空き教室に戻ると、春乃が立ち上がった。


「未原さん」


「大丈夫」


 未原はそう言った。


 大丈夫には見えなかった。


 でも、言った。


 春乃はそれ以上聞かなかった。


 代わりに、椅子を引いた。


 未原が座る。


 真冬が、未原のメッセージ画面を確認した。


 俺はノートを開く。


 手が少し震えている。


 それでも書く。


『未原目撃』

『二階非常階段近く』

『加瀬「消したから大丈夫」』

『酉宮「スクショ取られてたら面倒」』

『加瀬「スクショだけじゃ意味ねえし」』

『酉宮が加瀬を止める』


 最後に書く。


『音声記録なし』


 その一行が痛かった。


 残せなかった。


 体が先に動いたから。


 誰かを助けようとする時、俺は記録を忘れる。


 それは人間らしいのかもしれない。


 でも、この戦いでは弱点だ。


 真冬が言った。


「音はなくても、時刻つきのメッセージがある」


「弱い」


「弱いけど、ゼロじゃない」


 俺はノートを見た。


 弱いけど、ゼロじゃない。


 そればかりだ。


 春乃の謝罪も。

 未原の証言も。

 スクショも。

 消えた投稿も。

 加瀬の失言も。


 全部、弱い。


 でも、ゼロではない。


 ゼロではないものを、重ねるしかない。


 春乃が言った。


「先生に出す?」


 俺は首を振りかけて、止まった。


 出すか。


 出さないか。


 すぐ出せば、学校は動くかもしれない。


 でも、未原が盗み聞きした話にされるかもしれない。


 加瀬と酉宮は否定する。


 音声がない。


 未原のメッセージだけ。


 俺たちの整理表。


 まだ弱い。


 でも、遅らせれば、相手はさらに消す。


 視界に文字が浮かぶ。


【今、学校へ提出した場合の危険】

第1位 未原沙耶の盗み聞き問題にすり替えられる

第2位 酉宮秋人と加瀬凌太が否定する

第3位 音声記録がないため証拠力を疑われる

第4位 四季零司が未原を使った構図になる

第5位 提出前に情報が漏れる


【今、学校へ提出しない場合の危険】

第1位 加瀬凌太が元データをさらに消す

第2位 酉宮秋人が口裏合わせを進める

第3位 学校側が確認不能のまま処理を進める

第4位 未原沙耶の証言が時間とともに弱くなる

第5位 卯月春乃の不安が増える


 どちらも危険。


 まただ。


 正解がない。


 ランキングは危険を並べるだけ。


 選ぶのは俺たち。


 俺だけじゃない。


 春乃を見る。


 未原を見る。


 真冬を見る。


「俺だけで決めることじゃない」


 言ってから、自分でも少し驚いた。


 前なら、たぶん一人で決めていた。


 ランキングを見て、理由を探して、一番ましな手を選んでいた。


 でも今回は違う。


 未原の負担がある。


 春乃の証言がある。


 真冬の形式がある。


 俺だけで決めていい話じゃない。


 春乃が小さく頷いた。


「出した方がいいと思う」


 未原が少し震えた。


 でも、言った。


「私も。盗み聞きって言われるのは怖いけど、今言わないと、たぶんもっと怖くなる」


 真冬は最後に言った。


「出すなら、先に整理表を完成させる。感情の説明ではなく、確認できるものと確認できないものを分ける」


 俺は頷いた。


 今回は頷いた。


「分かった」


 ノートに書く。


『提出する』

『ただし、未原のメッセージは“証言”として扱う』

『断定しない』

『加瀬に確認すべき事項として出す』

『元画像・元動画・送信履歴の確認を求める』


 元画像。


 元動画。


 送信履歴。


 ここだ。


 俺たちは加瀬のスマホを奪えない。


 見ることもできない。


 でも、学校に確認を求めることはできる。


 消した投稿ではなく、元データの有無を。


 誰に送ったかを。


 誰から来たかを。


 それを学校が本当に確認するかは分からない。


 でも、求めなければ、確認しないまま終わる。


 春乃が言った。


「先生が、そこまで見てくれるかな」


「分からない」


 俺は正直に答えた。


「でも、見てくださいとは言える」


 春乃は頷いた。


 未原も頷く。


 真冬は何も言わなかった。


 ただ、窓の外を見ていた。


 その時、春乃のスマホが震えた。


 春乃の顔がこわばる。


「また?」


 未原が聞く。


 春乃は画面を見て、目を見開いた。


「……加瀬くんから」


 空気が止まった。


 春乃は震える手で画面をこちらへ向けた。


 メッセージ。


『盗み聞きまでして被害者ぶるのやめた方がいいよ』


 続けて、もう一つ。


『あんまり騒ぐと、そっちも困ると思うけど』


 俺の中で、何かが冷たくなった。


 加瀬が、春乃に直接送っている。


 未原ではなく。


 春乃に。


 脅し。


 まだ薄い。


 言い逃れできる。


 でも、これは脅しだ。


 視界に文字が浮かぶ。


【加瀬凌太のメッセージで最も重要な点】

第1位 直接連絡してきたこと

第2位 “そっちも困る”という含み

第3位 盗み聞きという論点ずらし

第4位 証拠提出前の牽制

第5位 酉宮秋人ではなく加瀬凌太本人の行動


 加瀬本人の行動。


 初めて、はっきりした。


 裏アカではない。


 伝聞でもない。


 廊下の会話でもない。


 加瀬本人が、春乃へ送った。


 春乃の手が震えている。


 でも、今度はスマホを伏せなかった。


 春乃は息を吸った。


 そして言った。


「これも、記録する」


 俺は春乃を見た。


 春乃は青い顔をしていた。


 それでも、画面から目を逸らさなかった。


「一人で見ない。消さない。残す」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなった。


 勝ったわけじゃない。


 まだ何も解決していない。


 でも、春乃はもう、ただ傷つけられて固まるだけではなかった。


 自分で記録する。


 自分で残す。


 自分で次の言葉を選ぼうとしている。


 俺はノートに一行足した。


『加瀬本人から春乃へ牽制メッセージ』


 その下に、もう一行。


『提出資料に追加』


 視界に、短いランキングが浮かぶ。


【現在、提出資料に最も必要なもの】

第1位 加瀬凌太本人のメッセージ


 ようやく。


 ようやく、向こうが自分から形を残した。


 俺はスマホを握った。


 次は、学校がこれをどう扱うか。


 そして。


 加瀬と酉宮が、これをどうなかったことにしようとするかだ。

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