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ランキング最下位の俺だけが、世界の本当の順位を見られる件――カースト底辺の陰キャ、万象ランキングで人生を逆転する――  作者: ビッグサム


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第13話 消したから大丈夫(1/2)

 体が先に動いていた。


 未原からのメッセージ。


『見つかったかも』


 その一文を見た瞬間、椅子を引く音がやけに大きく響いた。


 春乃が息を呑む。


 真冬がこちらを見る。


 俺は教室の扉へ向かっていた。


 ランキングを見る前に。


 考える前に。


 手順を並べる前に。


 未原が見つかった。


 その事実だけで、足が動いた。


 廊下へ出る寸前、視界に文字が浮かぶ。


【今、四季零司が最も避けるべき行動】

第1位 感情的に酉宮秋人へ詰め寄る

第2位 加瀬凌太を犯人扱いする

第3位 未原沙耶を庇いすぎる

第4位 卯月春乃を連れていく

第5位 子日真冬の制止を無視する


 遅い。


 もう動いている。


 でも、間に合った。


 俺は廊下に出たところで、足を止めた。


 後ろから春乃が立ち上がる気配がした。


「春乃さんは残って」


 俺は振り返らずに言った。


「でも」


「今、春乃さんが行ったら目立つ」


 言い方がきつかった。


 春乃の息が止まる気配がした。


 けれど、追ってくる足音はなかった。


 真冬だけが、俺の横に並んだ。


「走らない」


「分かってる」


「分かってない時の顔」


「うるさい」


「だから言ってる」


 腹が立つ。


 でも、足は少しだけ遅くなった。


 二階の非常階段。


 未原のメッセージにあった場所だ。


 階段の手前まで来ると、声が聞こえた。


「いや、普通に怖いんだけど」


 知らない男子の声。


 少し高い。

 軽い。

 でも、焦りが混じっている。


「何でそこにいたの?」


 加瀬凌太。


 たぶん、こいつだ。


 角を曲がる前に、俺は止まった。


 そのまま出れば、俺が乗り込んできた形になる。


 それは駄目だ。


 息を殺す。


 真冬も横で止まった。


 見ている。


 俺の横顔を。


 この状況まで見ているのが、少し嫌だった。


 声が続く。


「別に……通っただけ」


 未原の声だった。


 細い。


 でも、消えてはいない。


「通っただけで、人の話聞く?」


「聞くつもりじゃ」


「じゃあ、聞いたんだ」


 加瀬の声が少し強くなる。


 その奥で、酉宮の声がした。


「加瀬、声でかい」


 落ち着いている。


 その落ち着きが嫌だった。


 酉宮は焦っていない。


 いや、焦っていないように見せている。


「いや、だってさ。こいつ、普通に盗み聞きじゃん」


 盗み聞き。


 来た。


 未原を、そっち側にする言葉。


 俺は角の壁を握った。


 出るな。


 今、出れば悪化する。


 でも、未原は一人だ。


 未原は、俺が行かせた。


 いや、本人が行くと言った。


 でも、俺が止めなかった。


 手順まで渡した。


 危険だと分かっていて。


 視界に文字が浮かぶ。


【現在、未原沙耶が最も押し込まれやすい立場】

第1位 盗み聞きした加害側


 胃が冷える。


 やっぱりだ。


 加瀬は、自分たちが何を話していたかではなく、未原が聞いたことに話を変える。


 酉宮はそれを止めない。


 むしろ、使う。


 未原の声が震えた。


「盗み聞きじゃない。私、近くを通っただけで」


「じゃあ、何も聞いてないよね」


 加瀬。


 嫌な言い方だ。


 聞いていないなら、何も言えない。


 聞いたなら、盗み聞き。


 どちらに転んでも未原が黙る。


 俺は息を吸った。


 出るしかない。


 でも、どう出る。


 殴り込むな。


 断定するな。


 未原を庇いすぎるな。


 感情を見せるな。


 頭の中で手順を並べる。


 その時、真冬が小さく言った。


「今なら、廊下を歩いてきたことにできる」


 俺は真冬を見た。


「偶然?」


「完全な偶然には見えない。でも、まだそう言える」


 正しい。


 また正しい。


 俺は角を曲がった。


 わざと足音を立てすぎないように。


 でも、隠れていたようにも見えない速度で。


 未原がこちらを見た。


 顔が白い。


 加瀬凌太は、思っていたより細身だった。


 髪は少し長く、制服の着方がだらしない。


 目が落ち着かない。


 俺を見ると、一瞬だけ驚き、それからすぐに口元を歪めた。


 酉宮は非常階段の手すりに軽く寄りかかっていた。


 俺が来るのを予想していたみたいな顔だった。


「何?」


 酉宮が言った。


「別に」


 俺は返した。


 真冬の「別に」と違って、俺の声は少し硬かった。


 でも、震えてはいなかった。


 未原の横まで行きすぎない。


 少し離れて止まる。


 庇う形にしない。


 でも、一人にはしない。


「未原さん、戻ろう」


 俺はそれだけ言った。


 加瀬が眉を上げる。


「は? 何それ。こっちが話してるんだけど」


「話すなら先生の前で話せばいい」


 言ってから、少し強かったと思った。


 でも、引っ込めなかった。


 加瀬の顔が歪む。


「先生? 何、また先生? 面倒くさ」


 その一言で、酉宮が少しだけ目を動かした。


 加瀬。


 お前、しゃべりすぎだ。


 たぶん、酉宮はそう思った。


 俺はその一瞬を見た。


 ランキングは出なかった。


 出なくても分かった。


「何が面倒なんだよ」


 俺は聞いた。


 問い。


 責めるな。


 問いで止める。


 加瀬は鼻で笑う。


「いや、そっちが大げさにしてるから」


「何を」


「全部だよ。投稿とか、動画とか。もう消したんだからいいじゃん」


 消した。


 はっきり言った。


 俺は表情を変えないようにした。


 未原が息を呑む。


 真冬は黙っている。


 酉宮の目が、ほんの少し細くなった。


 加瀬は、自分が何を言ったか一拍遅れて気づいたようだった。


「いや、だから、俺がって意味じゃなくて」


「何を消した?」


 俺は聞いた。


 加瀬は口を閉じた。


 遅い。


 もう言っている。


 でも、ここで詰めすぎると逃げる。


 加瀬は視線を泳がせた。


「知らねえし」


「今、投稿とか動画とかって言った」


「一般論だろ」


「一般論で、もう消したって言うのか」


 加瀬の顔に、怒りが浮かんだ。


 焦りを隠すための怒り。


 分かりやすい。


 でも、ここで勝った気になるな。


 視界に文字が浮かぶ。


【現在、加瀬凌太から引き出せる可能性が高い情報】

第1位 消したものの種類

第2位 誰から消せと言われたか

第3位 元画像・元動画の有無

第4位 裏アカとの関係

第5位 酉宮秋人との役割分担


 欲しい。


 全部欲しい。


 でも、欲しがるな。


 欲しがると、顔に出る。


 俺は一つだけ選ぶ。


「消したのは、投稿か」


 加瀬は返さない。


 その沈黙で、少し分かる。


 でも、まだ足りない。


「元の写真や動画は?」


 加瀬の目が一瞬だけ横に動いた。


 酉宮の方へ。


 ほんの一瞬。


 でも、見えた。


 酉宮は動かなかった。


 ただ、加瀬を見なかった。


 見ないことで、逆に分かる。


 加瀬は酉宮の反応を見ようとした。


 それは、加瀬が一人でやった話ではないということだ。


 視界に文字が浮かぶ。


【今の加瀬凌太の視線が示したもの】

第1位 酉宮秋人への判断確認


 俺は息を止めた。


 来た。


 でも、言えない。


 見えた、とは言えない。


 視線を見た。


 それだけなら言える。


 加瀬が声を荒げた。


「つーかさ、何で俺がそんなこと言われなきゃなんねえの?」


 酉宮がようやく口を開いた。


「四季、決めつけすぎ」


 いつもの声。


 薄い。


 正しい側に立とうとする声。


「加瀬が何かしたって証拠あるの?」


 俺は酉宮を見た。


 証拠。


 またそれだ。


 消したら証拠がなくなる。


 証拠がなければ指導できない。


 証拠がなければ決めつけ。


 その形に押し込める。


 俺は奥歯を噛んだ。


 ここで録音しているか。


 していない。


 未原からのメッセージを見て飛び出した。


 録音ボタンを押していない。


 失敗だ。


 俺は今の加瀬の発言を記録していない。


 職員室であれだけ記録していたのに。


 ここでは、体が先に動いた。


 その代償が、もう来ている。


 視界に文字が浮かぶ。


【四季零司が今、失ったもの】

第1位 加瀬凌太の失言を音声で残す機会


 くそ。


 喉の奥で、言葉が焼けた。


 ランキングは正しい。


 正しいけど、今それを出すな。


 分かってる。


 分かってるんだよ。


 俺は拳を握った。


 真冬が横から言った。


「未原さんのメッセージは残ってる」


 全員が真冬を見る。


 俺も見た。


 真冬は表情を変えない。


「二階の非常階段近く。酉宮くんと加瀬くんが話している。加瀬くんが『消したから大丈夫』と言った。酉宮くんが『スクショ取られてたら面倒』と言った。未原さんが、その時刻に送っている」


 酉宮の表情が少しだけ変わった。


 ほんの少し。


 加瀬は分かりやすく動揺した。


「は? メッセージとか、何それ」


 未原がスマホを握りしめた。


 俺は未原を見た。


 出すか。


 出さないか。


 未原が決めるべきだ。


 俺が決めることじゃない。


 未原は唇を噛んだ。


 そして、震える手でスマホを開いた。


「送った。私が聞いたことを、四季くんたちに送った」


 声は震えていた。


 でも、逃げてはいなかった。


「だから、私は聞いてないとは言わない」


 加瀬が笑った。


「ほら、盗み聞きじゃん」


 未原の肩が跳ねる。


 春乃がいない。


 この場に春乃はいない。


 俺が何か言わなければ。


 いや、違う。


 俺が言えば、未原は俺の側の証言者にされる。


 どうする。


 その一瞬の迷いの中で、真冬が言った。


「聞かれて困ることを、廊下で話していたんですか」


 静かだった。


 でも、刺さった。


 加瀬の顔が赤くなる。


「そういう話じゃねえだろ」


「そういう話です」


 真冬は一歩も近づかない。


 声も荒げない。


「未原さんが近くにいたことと、あなたが何かを消したと言ったことは、別の話です」


 別の話。


 責任と悪意を分ける。


 春乃が未原に言ったことと似ていた。


 真冬は、あの時の会話を覚えているのかもしれない。


 未原は少しだけ顔を上げた。


 酉宮がため息をつく。


「子日さんまで来ると、めんどいね」


「面倒なら、説明すればいい」


「説明することないよ」


「なら、加瀬くんが何を消したのかだけ」


 酉宮は答えない。


 加瀬も答えない。


 非常階段の空気が止まる。


 その沈黙が、少しだけ意味を持った。


 でも、まだ弱い。


 沈黙は証拠にならない。


 俺は言った。


「未原さん、戻ろう」


 加瀬が笑う。


「逃げんの?」


「戻る」


 俺は加瀬を見た。


「今ここで続けても、また言った言わないになる。先生の前で、今のメッセージを見せればいい」


 加瀬の顔が引きつった。


「いや、だから俺は別に」


 酉宮が加瀬の肩に手を置いた。


「もういいって」


 その手の置き方が、止めるようで、黙らせるように見えた。


 加瀬は口を閉じた。


 俺は未原を連れて戻ろうとした。


 その時、加瀬が小さく舌打ちした。


「スクショだけじゃ意味ねえし」


 足が止まりそうになった。


 でも、止めなかった。


 意味ねえし。


 それはどういう意味だ。


 スクショだけでは元データに届かない。

 スクショだけなら加工と言える。

 スクショだけなら学校が扱いにくい。


 どれだ。


 振り返りたい。


 でも、振り返ればまた釣られる。


 俺は歩き続けた。


 非常階段を離れる。


 角を曲がったところで、未原の膝が少し崩れた。


「未原さん」


 俺が声をかけるより早く、真冬が未原の腕を支えた。


 未原は小さく息を吸って、吐いた。


「ごめん」


「謝ることじゃない」


 俺は言った。


 今度は、すぐに言えた。


 未原は首を振る。


「でも、私、盗み聞きしたみたいになった」


「聞かれて困る話をしてた方が悪い」


 言ってから、強すぎたと思った。


 でも、真冬が訂正しなかった。


 未原は少しだけ笑った。


 笑いというより、息が抜けただけの顔だった。


「四季くん、たまに雑」


「悪い」


「でも、今のは少し助かった」


 その言葉で、胸が詰まった。


 俺は未原を使った。


 危険だと分かっていて、行かせた。


 結果、未原は盗み聞き側にされかけた。


 助かったと言われても、素直に受け取れなかった。


 視界に文字が浮かぶ。


【今回、四季零司の判断で未原沙耶に生じた負担】

第1位 盗み聞きした人物として扱われる危険

第2位 酉宮秋人と加瀬凌太に顔を覚えられる

第3位 次の標的になる可能性

第4位 証言者としての重圧

第5位 四季零司側の人間と見られること


 重い。


 分かっていた。


 でも、文字で出ると余計に重い。

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