表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキング最下位の俺だけが、世界の本当の順位を見られる件――カースト底辺の陰キャ、万象ランキングで人生を逆転する――  作者: ビッグサム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/17

第12話 消えた証拠(1/2)

 春乃と未原が職員室から戻ってきた時、教室の空気が少しだけ動いた。


 誰かが見る。


 誰かが見ないふりをする。


 午堂は窓際で友人と話していたが、声が一瞬だけ止まった。


 酉宮は、ノートに視線を落としたままだった。


 けれど、右手のペンは動いていない。


 見ている。


 直接こちらを見なくても、見ている。


 俺はそう感じた。


 春乃は席へ戻った。


 未原は、自分の席に座る前に一度だけ春乃を見た。


 何か言おうとして、やめた。


 春乃も何も言わなかった。


 その沈黙が、嫌だった。


 悪い沈黙ではない。


 でも、いい沈黙でもない。


 言葉にすると崩れそうなものを、二人で抱えているように見えた。


 昼休みまで待った。


 待つしかなかった。


 すぐに聞きに行けば、また材料になる。


 春乃と未原が職員室で何を話したか。


 担任がどう受け取ったか。


 学校は何を保存したのか。


 聞きたいことは山ほどあった。


 でも、俺が前に出れば、春乃たちの証言がまた俺の指示に見える。


 それは避ける。


 避けなければいけない。


 そう分かっているのに、机の下で指が何度も動いた。


 昼休み。


 春乃からメッセージが来た。


『未原さんと話した内容、共有したい』


 俺はすぐに返しそうになって、止まった。


 どこで。


 誰と。


 どういう形で。


 また手順を考えている。


 もう癖になっている。


 俺は返信した。


『真冬もいた方がいい』


 送ってから、少しだけ嫌になった。


 すぐに誰かを挟む。


 二人きりを避ける。


 誤解されない形にする。


 正しい。


 たぶん正しい。


 でも、春乃にとってはどう見えるのか。


 俺が距離を取っているように見えるのか。


 信じていないように見えるのか。


 それとも、必要なことだと分かってくれるのか。


 既読がついた。


『分かった』


 短い返事だった。


 その短さに少しだけ安心して、少しだけ痛んだ。


    ◇


 放課後、空き教室に集まった。


 春乃。


 未原。


 真冬。


 俺。


 教室の外には人の気配がある。


 完全な密室ではない。


 でも、中庭よりは落ち着いて話せる。


 真冬は窓際に立っていた。


 座らない。


 参加しているようで、少し離れている。


 春乃は机の端に両手を置いていた。


 未原はスマホを握っている。


 俺は二人の向かい側に座った。


 距離を取った。


 春乃が最初に口を開いた。


「職員室で、先生に言われた」


「何を」


「昨日のグループの投稿と動画は、学校側でも確認するって」


「保存は?」


 俺が聞くと、春乃は一瞬だけ言葉に詰まった。


 その反応だけで、嫌な予感がした。


 未原が代わりに言った。


「先生は、保存したって言ってた。でも……」


「でも?」


「全部じゃないと思う」


 胸の奥が冷えた。


 春乃はスマホを開いた。


「先生が見せてくれたのは、酉宮くんがグループに上げた動画と、私がグループに送った謝罪文。それと、四季くんの『その動画、最初が切れてる』って投稿くらい」


「裏アカは?」


 春乃は首を振った。


「学校側では確認できてないって」


 未原が続ける。


「あと、中庭の投稿も。私が見せようとしたら、もう消えてた」


 消えていた。


 その言葉が、予想していたより強く刺さった。


 消える。


 なかったことになる。


 俺たちが必死に見て、吐き気をこらえて、スクショを撮って、時刻を残して。


 それでも、学校が見た時にはもうない。


 担任は言うのだろう。


 確認できない。


 証拠がない。


 誰が書いたか分からない。


 生徒同士の誤解かもしれない。


 俺は鞄の中のノートを握った。


 視界に文字が浮かぶ。


【現在、学校側の確認で最も欠けているもの】

第1位 裏アカの継続投稿

第2位 投稿が消された時刻

第3位 反応した周辺アカウント

第4位 中庭で撮影した可能性のある生徒

第5位 酉宮秋人との関連性


 やっぱり。


 学校側の記録だけでは足りない。


 足りないように、もうなっている。


 春乃が俺を見た。


「四季くんは……残してる?」


 その問いに、未原が少し緊張した顔をした。


 真冬もこちらを見る。


 俺は一瞬、答えに詰まった。


 録音のことは、まだ出さない。


 でも、スクショはある。


 裏アカの投稿も、反応も、時刻も。


 それを出すべきか。


 出せば、俺がどれだけ見ていたかも分かる。


 春乃の悪口を、どれだけ保存していたかも。


 気持ち悪いと思われるかもしれない。


 でも。


 出さなければ、消えた投稿は本当に消える。


 俺はスマホを取り出した。


「スクショはある」


 春乃の顔が少しだけ動いた。


 未原が息を呑む。


 真冬は何も言わない。


「裏アカの投稿。投稿時間。反応してたアカウント。中庭のやつも、一部」


「見せて」


 未原が言った。


 声は小さいが、はっきりしていた。


 俺は画面を開いた。


 見せる前に、手が止まる。


 春乃への悪口が並んでいる。


 俺への嘲笑もある。


 午堂らしきアカウントの反応もある。


 知らない誰かの笑いもある。


 それを本人に見せるのか。


 記録として必要だから。


 そう言えば楽だ。


 でも、本人にもう一度傷口を見せることになる。


「春乃さん」


「何」


「見なくてもいい」


 俺は言った。


「必要なら、未原さんと真冬に見せる。春乃さんが全部見る必要はない」


 春乃は少しだけ目を伏せた。


 迷っている。


 見たいのか。


 見たくないのか。


 見ないと逃げたことになると思っているのか。


 俺には分からない。


 ランキングは浮かばなかった。


 浮かんでほしくなかった。


 春乃は、ゆっくり首を振った。


「見る」


「無理しなくていい」


「無理はする」


 春乃はそう言った。


 俺は言葉を失った。


「無理しないと、たぶん私はすぐ逃げる。だから、見る。でも、一人では見ない」


 未原が春乃の横に立った。


「私も見る」


 真冬が少しだけ目を細めた。


「なら、順番に」


「順番?」


「一気に見ない方がいい」


 真冬は短く言った。


 それだけで、春乃は小さく頷いた。


 俺は最初の画像を開いた。


『今度は被害者ヅラした女が先生に泣きついたらしい』


 春乃の顔が白くなる。


 未原が唇を噛む。


 俺はすぐに次へ送らなかった。


 春乃が画面から目を逸らすまで、待った。


「次」


 春乃が言った。


 本当に見ていいのか。


 そう聞こうとして、やめた。


 それは春乃が決めることだ。


 俺が決めることじゃない。


 次の画像。


『正義感出すなら最初から止めろよ』


 未原の肩が揺れた。


 これは春乃だけでなく、未原にも刺さる。


 止めようとして、止めきれなかった未原にも。


 未原は小さく言った。


「……そうだよね」


「違う」


 反射で言いそうになって、飲み込んだ。


 違う、と俺が言えば楽になるのか。


 未原が止めきれなかったことは、事実だ。


 でも、それを裏アカが笑いに変えることは違う。


 その違いを、どう言えばいい。


 俺が言葉を探していると、春乃が言った。


「未原さんは、止めようとしてくれた」


 未原が春乃を見る。


「でも、止められなかった」


「うん」


 春乃は頷いた。


「私も断れなかった。だから、悪くないとは言えない」


 春乃の声は震えていた。


「でも、笑っていいことじゃない」


 未原は何も言わなかった。


 ただ、小さく頷いた。


 俺はそのやり取りを見ていた。


 助けるでもない。


 許すでもない。


 言い訳するでもない。


 ただ、責任と悪意を分ける。


 春乃は、それを自分の言葉でやっている。


 視界に文字が浮かんだ。


【現在、卯月春乃が取り戻しつつあるもの】

第1位 自分の責任と他人の悪意を分ける力


 俺は、少しだけ息を止めた。


 いいランキングだった。


 いや、そう思うのも変だ。


 でも、初めて少しだけ、救いに見えた。


 次の画像。


『昼休みに中庭で密談してたらしい』


 未原が顔を上げる。


「これ、もう消えてたやつ」


「投稿時間は残してる」


 俺は画像の右上を拡大した。


 時刻。


 投稿者。


 反応。


 春乃が小さく息を呑む。


「この投稿、私が職員室で見せようとしたやつ」


「消えたのは投稿だけだ」


 俺は言った。


 自分に言い聞かせるような声だった。


「元の写真とか、動画とか、送った履歴まで消えたとは限らない」


 春乃が顔を上げる。


 未原もこちらを見る。


「それって……」


「誰かが持っているかもしれない」


 酉宮か。


 加瀬か。


 午堂か。


 それとも、別の誰かか。


 今、取りに行くことはできない。


 スマホを覗くわけにもいかない。


 盗むわけにもいかない。


 違法なことをしたら、そこで終わりだ。


 だから、相手が漏らすのを待つ。


 相手が言葉にするのを拾う。


 消したつもりで残した痕跡を、現実の形に変える。


 そうするしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ