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虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍発売中


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35、面会

 皇族主催である社交パーティの開催まで一週間ほどとなった頃。

 私は通常通り王宮へ向かう公爵様と共に足を運んでいた。私は公爵様の侍女に扮して、姿を隠しつつ王宮へと踏み入れる。

 ちなみに屋敷でもこの件を知っているのはヘンリーとドリー、侍女長しかいない。私が体調不良であるという話を屋敷内に流しており、マルセラに私の代わりを依頼していた。

 今日私の部屋に入れるのは、ヘンリーしかいない。なので、帰ってくるまで私がいないと判明することはないだろう。


 顔が見られないように、俯き加減で私は公爵様の後ろを歩く。そして皇帝陛下の執務室へとたどり着くと、公爵様は周囲を見回してから、私を先に入れる。

 執務室では数人の男性が机に向かっていた。正面には皇帝陛下が、左側は宰相閣下、そして右側にはユーイン殿下と……皇帝陛下の面影がある若い男性は、皇太子殿下だろう。

 公爵様が扉を閉めると、執務室にいた全員が私たちへと顔を向ける。

 

「ガメス公爵よ、よく来てくれた」


 皇帝陛下の言葉に、公爵様はうやうやしく礼を執る。

 その後皇帝陛下は私へと顔を向けると、孫を見るような優しい目で私を見つめていた。やはり兄妹だからだろうか……どことなくお母様に似ている気がする。特に目――厳しさの中にも、穏やかな雰囲気を感じていた。


「ブレンダ嬢……いや、エスペランサ嬢もよくここまで来てくれた」


 目には薄らと涙が滲んでいる。私をお母様と重ねられているのだろう。私は深く礼を執る。


「お初にお目にかかります。エスペランサ・ホイートストンと申します」

「バレンティナによく似ているな……王国での話は聞いている。色々苦労を掛けたようで……すまなかった」


 陛下は私に頭を下げた。それを見た宰相閣下、皇太子殿下やユーイン殿下までもが続く。私は思わず声を上げた。


「頭をお上げください! 確かに王国での扱いは色々とありましたが……母の故郷である帝国へ来ることができて、私は嬉しく思います。

 母が言っておりました。『頑張りなさい、そうすれば貴女に幸せがやってくる』と……帝国へと来てその言葉の意味を理解しました」


 私は王国で幸せになることはできなかったのだ。お母様は私が帝国に嫁ぐことを知っていて、希望を持たせるためにそう告げたのだろう。

 私は今幸せだ。自信を持ってそう言える。

 その気持ちを乗せて、顔をこちらへ向けている陛下へ笑いかけると、彼の頬に一筋の涙がこぼれ落ちた。



 

「……すまない。取り乱したせいで、話の順序が滅茶苦茶になってしまったな」

 

 陛下は涙を拭った後、軽く咳払いをして気恥ずかしそうに笑う。


「そういえば、まだ正式に挨拶をしていなかったな。余は帝国を治める皇帝、ローランド・ソラル=クリフトン・インペリウスという」


 私は立ち上がり、静かに会釈する。その後皇太子殿下、ユーイン殿下、最後に宰相閣下……コーディ・ニコルソン様と仰るらしいが、各々紹介をしていただき、宰相閣下主導で本題へと移ることになった。

 宰相閣下は見覚えのある魔道具を取り出し、起動させる。そう、防音の魔道具だ。ちなみに後で聞いたところ、防音だけでなく幻惑の魔術も同時に展開できる特別製だった。

 

「それでは本題に入らせていただきます。来週の社交パーティでございますが、エスペランサ様は王家主催のパーティで王国信仰の者たちを炙り出す策が進められている件、すでにお聞き及びかと」

「はい」

 

 そう返事をした私に、閣下は満足げに頷いた。

 

「現在、ディロン伯爵卿がエスペランサ様へ接触しているとの報告を受けております。伯爵卿はエスペランサ様を義妹のブレンダ様と誤認し、王国へと帰還させる算段を立てているようです」


 私が公爵様へと話した内容は全て把握されているようだ。宰相閣下の話は続く。


「伯爵卿の計画の要は、社交パーティ内でエスペランサ様が公爵閣下とお離れになられた時でしょう。あらかじめ手配していた馬車を利用して伯爵家に向かい、数日匿ったのち……王国信仰の者たちの庇護を受けながら王国へと帰還させる段取りのようです」

「そして王国にたどり着いたエスペランサ嬢を見て、王国側は『条約違反だ』と挙兵。戦況を見て、王国信仰の者たちが帝国を裏切り王国へ付く。そうすれば帝国は混乱し、それに乗じて王国が帝国を属国に――という流れを伯爵卿は想定しているのでしょう」


 皇太子殿下の言葉に全員が肯定の意を示す。その後ユーイン殿下は私を一瞥してから、肩をすくめた。


「そもそも前提条件が全く違いますし、この計画は確実に失敗するんですけどねぇ……」

「私たちは敵とみなした者たちには容赦するつもりはない。わざわざブレンダ嬢の正体が、エスペランサ嬢であることを伝える必要はないだろう」

「まあ、その通りですね」


 皇太子殿下とユーイン殿下の仰る通りだ。敵に贈り物を渡す必要はない。二人の会話が止まると、宰相閣下は言葉を紡いだ。

 

「エスペランサ様には引き続き、変化の術を掛けた状態でパーティにも参加していただきます。そして伯爵卿の指示通りに動いていただきましょう。全てを終えた後、公爵閣下とエスペランサ様の婚約発表を行います。その際にエスペランサ様は魔法を使用していただくことはできるでしょうか?」

「魔法を……ですか?」


 驚きで目を見張る。

 

「ええ。残念ながら、“王国出身のあなたが“魔法を使えない”という噂が、帝都の貴族たちの間で流れております。その発端は、王国信仰の者たちだと思われますが……ですから、確かにお示し願いたいのです。あなたが“帝国の血を引く、真なる魔術師”であることを」

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