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虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍発売中


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26、魔力を込める

 その後ヘンリーの働きによって私たちの昼食後には、書類の様式の草案が決まったようだ。彼が持ってきた書類の書式案は複数あった。文官たちの要望で、そのような形になったとの事。これで書類が書きやすくなりそうだ、と文官たちも大喜びだったらしい。

 私もその書面を見せてもらう。同様の形式の書類を何枚か重ねてパラパラとめくってみる。確かにどこに何を記載すればいいのかが分かりやすいので、書く方も見る方も扱いやすくなったのではないか、と思う。


 何気ない一言がここまで役に立つとは……私も嬉しく思う。書類を公爵様へとお返しし、私はゆっくりと紅茶をいただく。その間にもヘンリーと公爵様の二人のやり取りは続いた。


「後はこれを何枚も作成すれば、よろしいでしょうか?」

「ああ。明日の書類からこれで提出するように各部署には話をつけて欲しい。もし書面に関する要望があれば、紙に書いて提出するようにも伝えてくれ」

「畏まりました」


 ヘンリーが頭を下げて食堂を出て行く。それを見送った公爵様は、私を見据えた。


「食事中すまなかったな。慌しかっただろう?」

「いえ、気にしておりませんわ。このような事は早ければ早いほどよろしいですから」


 食事が終わった私たちは、話しながら次の場所へ向かう。私は研究所、公爵様は執務室だ。

 公爵様の話によれば、元々文官の間からも「人によって書類の書き方が違って見辛い」という言葉は上がっていたらしい。けれども、その後の具体的な案は上がっていなかったという話だった。今回の件が渡りに船だったと言う。


「分かりやすく書く位置を固定してしまうのはいい案だ。特に文官から評判が良かったのは、日付だな。順にまとめやすいと評判だった。書類をまとめると、日付の部分が()()()()()()()から、その部分を見るだけで直すことができて良いとの事だった」

「一箇所に重なる……」

「そうだ。今までは皆が自分の形式で記入していたからな。探すのが大変だった」


 楽になったと喜ぶ公爵様を尻目に、私は彼の言葉を頭の中で反芻していた。一箇所に重ねて押しつぶす……執務室で公爵様が書類の束を上から手で押した場面が、ふと頭に浮かんだ。

 そこで私はハッと気が付く。この方法なら……魔宝石に四つ目の魔法陣を込められるかもしれない、と。


 急に黙ってしまった私が心配だったのか、公爵様は顔色を窺うようにのぞき込んでいた。そんな彼と私の視線が交わる。私は思わず彼の両手を握りしめた。

 

「公爵様、ありがとうございます! お陰様で、魔法陣の件で良い案が浮かびました!」


 彼は私の言葉で何となく察してくれたようだったが、私に手を掴まれて狼狽えている。けれども、私はそれ以上に興奮していた。すぐに手を離してから、公爵様へと頭を下げる。

 そして私は研究室へと向かう廊下で、思いついた案を詰めながら歩く。その足取りは以前より軽いものだ。


 だからだろうか、私はすぐに背を向けて歩き出したので気づかなかった。

 呆然とする公爵様に、それを見ていたヘンリー。彼は顔が真っ赤になっている公爵様を見た後、「似たもの同士ですね」と小さく呟いていた。

 


「一面に全て魔法陣を描いてしまうという案はいかがでしょうか?」


 話し合っていた研究員たちの前で、私が考えた内容を話す。

 今まで私たちは斜めの面にどれだけ上手く魔法陣を描けるのか、という点を重視してきた。私もてっきり一面にひとつの魔法陣しか描けないのだろう、と思い込んでいたのだ。

 けれど、実際はどうなのだろうか。今までの話でこのような方法はなかったはずだ。その上で、自分の魔力を使って魔法陣を紙の束のように積み上げる事はできないだろうか、と思ったのだ。


 そう私が話すと、全員が頭を悩ませているようだ。そんな事ができるのだろうか、と段々周囲が騒がしくなり、議論が始まろうとしたその時――。


「それは面白い考えではありませんかっ! 吾輩、少々試してみたくなりましたぞ!」

「昔から一面ひとつの魔法陣と教わってきましたから、もしこれが成功したら大発見でしょうね」


 所長の言葉に全員が口を閉じる。そして次のシュゼットの言葉に全員が頷いた。

 皆気がついたのだ。議論よりも先に実践した方が良い、という事に。その思いをまるで代弁するかのようにセヴァルが声高に叫んだ。


「いやぁ、ここに魔法陣を描く達人がおりますからねぇ。実際試してみれば、いいと思いませんかぁ〜? 期待していますよぉ、お嬢様」


 普段であれば、期待という言葉に気後れする私。けれどもこの時は何故か「できる」という自信がしかなかった。

 

 研究員たちの視線に晒されながら、私は魔宝石の前に座る。目の前には偽鏡に使われている物と同じくらいの大きさの魔宝石。

 私はいつものように一面に魔法陣を描き始めた。

 魔宝石の一面は拳くらいの大きさだ。斜めの部分になると一回り以上小さくなってしまうので、大体の人が広い面である正面から魔法陣を描いている。

 

 私の魔力を通す特殊な棒を、ペンのように動かして書くのだ。そして自分の魔力で魔法陣を描く。

 描き終えた後は五分程度時間を置く。すると魔法陣が定着するので、次の面に魔法陣を描いていく……が普通のやり方なのだが、ここで私は魔宝石に自分の魔力を込めた。


 魔法陣が壊れないように感覚で私の魔力を乗せていく。壊れない事が分かったので、魔法陣をゆっくり下へ下へと押していく。

 元々魔法陣は宝石の表面に彫っているわけではない。魔力を使って描いているから、物体を透過する事が可能だ。

 ゆっくりではあるが、魔法陣を一番下まで押し込める事ができた。そして私は、二個、三個と魔法陣を増やしていった。

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