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虐げられた私の身代わり婚約、そして見つけた幸せ  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍発売中


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24、新たな訪問人

 ユーイン殿下が訪れてから一週間後。

 その日私はセヴァルたち魔術研究員の者たちと、魔宝石以外の媒体に複数の魔術を組み込む事ができないか、という点を議論していたところだった。セヴァルやシュゼットを含めた数人が会議室に集まり、魔道具や魔宝石、宝石などの見本を手に話し合う。

 私は彼らの話を聞きながら、疑問点や賛同した意見、違和感を覚えた会話などを手当たり次第に手帳へ書き記す。この手帳はセヴァルの講義が始まった翌日の朝に、公爵様から戴いたものだ。

 この手帳とセヴァルの講義のお陰で大分私も話が理解できるようになった。最近では、疑問を投げかけたり提案をしたりと少しずつ議論に参加できるようになってきていた矢先――。


「おお! 今ここの研究所ではこの件を議論しているのですね! 羨ましすぎます! ああ、諸君。もしよければ吾輩もこの議論に加わらせてもらっても良いですかね?」


 聞き覚えのない声が会議室に響く。室内にいた私たちは声のした方へと顔を向けた。するとそこには、膝丈まである白い服を着た男性が佇んでいる。

 見覚えのない方だと顔をまじまじと見ていると、後方の扉から聞き覚えのない声も聞こえた。


「所長〜! まずは公爵様にご挨拶してくださぁい……!」


 両手にひとつずつ鞄を持った男性が泣きそうな顔で部屋に入ってきたのだ。顔を見たことのない男性が二人……。心当たりを思いついたところで、隣にいたセヴァルが声を上げた。


「お久しぶりでございますねぇ〜所長!」

「おお! セヴァルですか! 元気かね?」

「こちらで楽しんで研究しておりますよぉ〜」


 どうやらセヴァルと顔見知りの方らしい。二人がユーイン殿下が話していた王宮魔術研究所の方なのだろう。そう考えていたところ、入り口から公爵様の姿が見えた。横には少し息を荒げているヘンリーがいた。


「やはり……こちらに……おいでででしたか」


 公爵様が額に手を当てて、ため息をついている。

 そんな彼に何度も「すみません、すみません」と頭を下げているのは、荷物を持っている男性だった。この様子を見ると……所長と呼ばれている彼に普段から振り回されている、そんな気がする。

 公爵様は顔から血の気が引いている彼を止め、そこに声をかけたのがヘンリーだった。

 

「ヒュー殿、荷物は私がお預かりいたします。滞在中に用意させていただいた部屋へと運び入れておきますので、ご安心ください」

「あ、ありがとうございますぅ……」


 ヘンリーがヒューと呼ばれた男性の荷物を軽々と持って出ていく。そして扉が閉まった後、公爵様が私たちに声をかけた。


「ここにいる者たちには先に紹介しておく。こちらにいらっしゃるのが、王宮魔術研究所から派遣された研究員二名だ……一人はヒュー殿。王宮魔術研究所に入所して三年ほどの若手だそうだ。だが、若いながらも研究所内での研究に精通しているため、今回彼が選ばれたとユーイン殿下が仰っていた」

「ヒューと申します。若輩者ですが、よろしくお願いいたしますぅ……」


 緊張しているのか、小さく頭を下げるヒュー。その姿が小動物のようで、自然と守りたくなる気持ちが湧き上がってくる。特にシュゼットはまるで彼の母のような視線でヒューを見ていた。

 そして公爵様は次の方を紹介しようとして……言葉に詰まっていた。


「……こちらのお方は――」


 やっとこさっとこ声を出した公爵様だったが、その言葉は最後まで聞く事ができなかった。何故ならその前に彼が喋り出したからである。


「おお! 吾輩は王宮魔術研究所所長のトバイアスです! いやぁ、ここに来る事がずっと叶わなかったが、やっと来る事ができましたよ! これからよろしく頼みますね! 呼び方は何でも良いが、所長が一番反応できると思いますよ!」

「所長〜、よろしくお願いしますねぇ〜」

 

 セヴァルがのんびりトバイアス……所長と話をしている。後でセヴァルに話を聞いたら、元々彼も王宮魔術研究所に所属していたのだそう。その時からの仲らしい。

 それよりも、所長は王宮魔術研究所の主宰(しゅさい)……長らしいのよ。


「所長……公爵家に来ても、良かったのですか?」

 

 困惑した表情で告げるレオネル。私もそれは思ったの。だって長よ? 一番上がこちらに来て良いのかしら……って思うのは、当然よね。

 レオネルの言葉に所長は眉間に皺を寄せて話し始める。


「吾輩だってずーーーっと順番を待っていたんですよ? 公爵家へ向かうための準備だってしていましたからね! 本当にこの時を何年待ちましたか!」


 握り拳を天に掲げて力説する所長。

 

「所長は研究第一なお方ですからねぇ。所長がいなくても、副所長二人がいれば大丈夫でしょうよ」

「ああ……胃が痛いですぅ……」


 ぼそっと呟いたヒューに、シュゼットが水を差し出している。ああ、彼女は制御不能な者を嗜めるという役目を負っているからか……きっとヒューの気持ちが分かるのね。彼女のセヴァルに対する姿勢が参考になると良いのだけど。

 その間に研究員たちが名前を紹介していく。名前を聞くたびにヒューが、「あぁ……あの論文を書かれた方ですね」と彼らの実績をどんどん当てていくのだ。どうやら彼は王宮魔術研究所では、『歩く論文』と言われているとか。

 そして最後に私となる。ひとつ疑問があるのだけど、私はブレンダと紹介したら良いのかしら? 困惑していた私に助け舟を出してくださったのが、公爵様だった。

 

「彼女は私の婚約者だ。ブレンダ嬢として王国から送り出されてはいるが……彼女の本名はエスペランサ・ホイートストン嬢だ」

「存じ上げておりますよ! その美しい黒髪! そして魔導皇女様にそっくりのご尊顔……吾輩が間違えるはずありません!」


 所長が王宮魔術研究所に入所した頃、お母様はいつも研究所に入り浸っていたらしい。そのため、私を一目見た時にお母様の娘だと分かったのだとか。その時は研究の方に興味が移っていたために、すぐに頭から抜け出たらしい。やはり研究員はどこも変わらないの、と私も公爵様も苦笑いだ。


「吾輩、エスペランサ嬢でしたら魔導皇女……いえ、魔導公爵夫人になれるはずだと考えております! 一緒に魔術を極めようではありませんか!」


 どこかで聞いた事があるような文言。そういえば、セヴァルが昔そんな事を言っていたような気がする。セヴァルと所長は多分研究に対する思考が似ているのね……だから言動もそっくりなのかもしれないわ。

 

「所長! お嬢様は現在複数の魔法陣をふたつまで書き込めていますよぉ〜」

「おお! それは素晴らしいですね!」


 まるで子どものように盛り上がっている二人。それを止めたのはシュゼットであった。

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