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第二十章:受け継がれる火

モンスーンが過ぎ去り、デカン高原に再び乾季が訪れた頃、プロジェクトサイトは、一年前とはまるで違う生命力に満ち溢れていた。巨大なタンクは雨水で満たされ、温室では二期目の作物が青々と育ち、鶏とミツバチが忙しなく命のサイクルを繋いでいる。


悠介は、完成したドームハウスの中で、北洋開発の本社へ送るための一年間の最終報告書を書き上げていた。

そこには、水と電力、そして食料の生産量が、当初の計画値を上回る精度で達成されたことが、無数のデータと共に記されていた。しかし、彼が最も力を込めて記述したのは、最後の章だった。


『…以上を以て、HinaProjectの技術的及び経済的な自立性は完全に証明されたと判断する。最も特筆すべきは、現地従業員による協同組合が、プリヤ氏の指導の下で極めて高いレベルで機能している点である。彼らはもはや、指導を必要とする被雇用者ではない。この場所の未来を担う、誇り高きオーナーである。

よって、本プロジェクトの最終フェーズとして、全施設の所有権と運営権を、現地協同組合へ完全に移行することを、ここに正式に提案する』


---


数週間後、村ではささやかな、しかし、歴史的な式典が催された。州政府の役人も臨席する中、悠介は、プロジェクトの全ての運営マニュアルと、施設の鍵を、協同組合の新しいリーダーとなった女性の手へと、静かに手渡した。


彼女は、一年前に初めて悠介と会った時、不安そうに俯いていた女性の一人だった。しかし今、その顔には、自信と、コミュニティの未来を背負う責任感が満ち溢れている。


「ユウスケ先生」彼女は、悠介から教わった、まだ少し辿々しい英語で言った。「私たちは、あなたから、ただの働き場所をもらったのではありません。自分たちの手で未来を作れるという、希望をもらいました。本当に、ありがとうございました」


深く頭を下げる彼女に、悠介は微笑んで首を振った。

「礼を言うのは、私のほうです。あなたたちから、技術だけでは何も作れないという、最も大切なことを教えてもらいました」


---


翌日、悠介は村を去った。

プリヤが、ベンガルールの空港まで、あの古い四輪駆動車で送ってくれた。


「…寂しくなるわね」プリヤが、ぽつりと言った。


「また、会えますよ」悠介は答えた。「今度は、会社の仕事としてではなく」


プリヤは微笑んだ。「ええ。いつでも歓迎するわ。未来のオーナーたちが、あなたを待っている」


飛行機が離陸し、窓の外に、急速に小さくなっていくデカン高原の大地が見えた。一年という短い、しかし、人生で最も濃密な時間だった。彼は、会社のミッションを、期待以上の成果で完了させた。


悠介は、衛星回線を使って、エミリアに短いメッセージを送った。

画面には、彼女の優しい笑顔がすぐに返ってきた。


『おかえりなさい』


その一言を見て、悠介は、自分が本当に長い間、遠い場所にいたのだと実感した。

彼は、窓の外の雲を見つめながら、静かにメッセージを返す。


『ああ。今、帰るよ』

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