第二章:大地の声
南オーストラリア州の砂漠の街、クーバー・ペディの朝は、すでに容赦がなかった。ホテルの前に立つ悠介の肌を、乾いた熱風が撫でていく。約束通り、砂埃をかぶった古い四輪駆動車がやってきた。
運転席から降りてきた男、ジャックは、悠介の姿を一瞥すると、無言で後部座席のドアを指差した。その日の夕方、町のパブで出会ったばかりの、この土地で一番のベテランと言われる男だった。
車は唸りを上げ、街を抜けていく。風景は一変した。掘り起こされた赤茶色の土砂の山と、ぽっかりと口を開けた無数の縦坑。地面には「DANGER - DEEP SHAFTS」と書かれた錆びた看板が点在している。
「かつては何千人もの男たちが、オパールを求めてこの土地に集まった」
ジャックが、前を向いたままポツリと語り始めた。「ほとんどは、夢破れて去っていった。この土地は、人間の夢を飲み込むのが好きなのさ」
最初の目的地は、使われなくなって久しい、古い採掘区だった。地面に直径2メートルほどの、暗い穴が口を開けている。
悠介はバックパックから、レーザー温度計と湿度計を取り出し、穴の内部に向けて数値を測定した。
「ここは違います」悠介は首を振った。「私が必要なのは、安定した温度の『空間』と、結露を生み出すための広い『壁面』です。この穴は、ただの筒に過ぎません」
なぜここがダメなのか、熱交換の原理と必要な表面積について、悠介は専門用語を交えながら冷静に説明した。その言葉を聞き、ジャックは初めて、少しだけ興味深そうな顔をした。
「…理屈は分かった。なら、こっちだ」
次に向かったのは、主要な採掘エリアから少し離れた、なだらかな砂岩の丘だった。その中腹に、水平に掘られた古い横坑の入り口があった。
三人はヘッドライトを点け、その中へと足を踏み入れる。
その瞬間、悠介は息を呑んだ。外の灼熱と喧騒が嘘のように、ひんやりと涼しく、湿り気を帯びた静寂が彼らを包み込む。彼が求めていたのは、この感覚だった。
彼は再び計測器を取り出し、数値を読み上げた。
「気温24℃、湿度75%。完璧です…。ジャック、ここです。ここなら、私のシステムは機能する」




