第三章:砂漠の心臓
それから数日間、悠介とジャックは砂埃と汗にまみれた。
まず、ドームハウスのためのコンクリート基礎が作られた。次に、日本から送られた白いEPSブロックが、まるで巨大なパズルのように組み上げられていく。
灼熱の太陽の下、赤い大地に奇妙な白いイグルーが姿を現した時、ジャックは「おもちゃの家だ」という最初の言葉を撤回せざるを得なかった。
続けて、巨大な黒い雨水タンクが設置され、ソーラーパネルの架台が組まれた。ジャックが「空の鏡」と名付けた放射冷却パネルが、夜空に向けて慎重に角度をつけられる。
そして、全ての設営を終えた、ある晴れた夜。悠介はジャックに声をかけた。
「ジャック、始めましょうか。今夜は『寒さ』を収穫します」
夜間の放射冷却で蓄冷タンクを満たした、その翌日。灼熱の太陽が大地を焦がす中、二人は洞窟の中にいた。
悠介は、外の熱い空気をコイルに送り込むための、吸気ファンのスイッチを入れる。
「さあ、昨夜収穫した『冷熱』を使って、今日の『水』を収穫します」
ファンが唸りを上げ、摂氏45℃の乾いた空気がダクトに吸い込まれ、キンキンに冷えたコイルに叩きつけられる。
その瞬間、銀色のフィンの表面が、まるで冷たいガラスに息を吹きかけたように、さっと白く曇った。曇りは見る間に無数の細かい水滴に変わり、それらが互いに引き寄せられて合体し、大きな雫となって金属の表面を伝い始める。
最初は、ポツリ、ポツリと雫が落ちる音だった。だがそれはすぐに、途切れることのないせせらぎの音へと変わった。パイプの先から流れ落ちる透明な水は、タンクの底で小さな渦を作り、その水面は、誰の目にも明らかな速さで上昇し始めていた。
ジャックは、その光景を呆然と見つめていた。
「…夜の寒さで、昼間の暑さを捕まえて、空気そのものから水を搾り取る、か。あんた、とんでもねえことを考えるもんだな」
悠介は水質計と流量計をチェックしていた。
「…消費電力1.5kWに対し、毎時0.6リットルの結露水。ほぼ理論値通りの性能です」
夜、ドームハウスに戻り、悠介は衛星回線を使って日本の妻、エミリアに一枚の写真と、短いメッセージを送った。
写真には、銀色のコイルから、確かに水が生まれ続けている光景が写っている。
メッセージは、ただ一言。
『第一歩だ』




