第十八章:根付くもの
最初の火が灯ってから、数ヶ月が過ぎた。
村の日常は、静かに、しかし根底から変わり始めていた。
夜明けと共に女性たちが向かうのは、もはや遠い共同井戸ではなかった。涼しく、緑の香りに満ちた温室だ。朝露に濡れたトマトやハーブを収穫し、鶏に餌をやり、産みたての卵を集める。彼女たちの額には汗が光るが、その表情には、かつての水汲みの時のような疲労の色はなく、仕事への誇りと喜びに満ちていた。
日中、男たちは洞窟で育つマッシュルームの世話をしたり、バイオマス発電機の燃料を準備したりする。ソーラーパネルが日中の電力を賄い、陽が落ちると、バイオマス発電機の安定したハミングが、村の夜を明るく照らした。その光の下で、子供たちが生まれて初めて、夜に本を読むようになった。
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プロジェクトが生み出す収益(野菜、卵、蜂蜜の販売利益)が安定し始めた頃、悠介とプリヤは、次のステップへ進むための会合を開いた。集まったのは、プロジェクトの従業員全員だ。
「今日、皆さんに話すのは、このプロジェクトの未来についてです」
プリヤが、力強く宣言した。
彼女が説明したのは、悠介が「会社の意向」として託されていた、協同組合(Co-operative)による共同所有の仕組みだった。
「この温室、この発電機は、北洋開発のものでも、私のものでもありません。最終的には、皆さんのものになります。今日から、皆さんは給料の一部を使って、この施設の『オーナー』になる権利を買うことができます。施設の利益は、オーナーである皆さんの間で、公平に分配されます」
最初は戸惑っていた村人たちも、プリヤの熱心な説明を聞くうちに、その意味を理解し始めた。自分たちは、ただ雇われているだけではない。この場所の、自分たちの未来の、本当の持ち主になれるのだと。
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その週末、プロジェクトの新たな一歩が始まった。
悠介とプリヤは、村人たち全員を、プロジェクトサイトの裏にある、不毛の丘へと連れて行った。そこには、何百本もの、小さな苗木が用意されていた。デカン高原の厳しい乾燥に耐える、バオバブとアカシアの苗だ。
「水と、食料と、エネルギーは確保できました」悠介は、集まった人々に向かって言った。「次は、この大地に、僕たちが受けた恩を返す番です。森を、再生させます」
彼は、鶏糞とコンポスト、そしてバイオ炭を混ぜて作った、黒々とした栄養満点の土を見せた。
「僕たちの手で、この痩せた土地を、もう一度、生命力に満ちた場所に戻しましょう。僕たちのためじゃない。僕たちの、子供たちの世代のために」
その日、村人たちは総出で、一本一本、丁寧に苗木を植えていった。子供たちが、小さな手で苗に土をかけ、洞窟から引かれた水を優しく注ぐ。
夕暮れ時、悠介とプリヤ、そして村長が、苗木が植えられた丘の上に立っていた。見渡す限り、か細く、頼りない苗木が、風にそよいでいる。
「…これが森になるには、ワシらが生きているうちには、無理かもしれんな」
村長が、皺の深い顔で呟いた。
「ええ」悠介は、静かに頷いた。「それで、いいんです。私たちは、自分のために木を植えるのではありませんから」
彼の視線の先には、自分たちの手で植えた苗木に、誇らしげに水をやる子供たちの姿があった。
この乾いた大地に、今、新しい日常と、未来への希望が、確かに根付き始めていた。




