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第十七章:最初の火

養蜂が軌道に乗り、温室のトマトの収穫量が目に見えて増え始めた頃、悠介はプロジェクトの次のフェーズ…エネルギーの完全自立に向けた準備を開始した。ソーラーパネルは日中の電力を賄えるが、夜間やモンスーンの曇天時には、どうしても限界がある。


彼が向かったのは、プリヤと共に選定した第二の洞窟…「生命の洞窟バイオ・ケーブ」だ。ここが、コミュニティの夜を照らすエネルギーを生み出す、新たな燃料工場となる。


悠介は、村の建設チームと共に、洞窟内にマッシュルームを栽培するための棚を設置していった。培地となるのは、近隣の製糖工場から安価で譲り受けた、大量のサトウキビの搾りかす(バガス)だ。


「本当に…こんなサトウキビのゴミから、電気が生まれるのか?」

チームリーダーの若者が、半信半疑で尋ねた。


「ええ」悠介は頷いた。「正確に言えば、このゴミを、きのこの力で電気に変えやすい『燃料』にアップグレードするんです。私たちの仕事は、自然のサイクルを少しだけ手伝うことですから」


---


数週間後、洞窟内の棚は、食用にもなるヒラタケというマッシュルームで覆い尽くされた。その一部は村の食卓を豊かにし、大部分は収穫された後、天日でカラカラに乾燥させられた。


そして、その日。

ベンガルールから、巨大な木箱を積んだ一台のトラックが、新しく舗装された道を通って村に到着した。木箱の中から現れたのは、悠介が発注していた、真新しい小型のバイオマスガス化発電機だった。


村人たちが遠巻きに見守る中、悠介と成長した現地チームが、その機械をドームハウスの隣に設置していく。配線が繋がり、排気管が取り付けられる。


夕暮れ時、悠介は乾燥させたマッシュルームと、使い終わった培地(廃菌床)を混ぜたものを、発電機の燃料ホッパーに投入した。


「火を」

悠介が言うと、プリヤが村長に合図を送る。村長は、おもむろに火打石を打ち、その火を松明に移した。このプロジェクトの最初の「火」は、この土地の長老の手によって灯されるべきだと、悠介とプリヤは決めていたのだ。


村長が、その松明を発電機の点火口に近づける。

ごう、という低い音と共に、ガス化炉の中で、村人たちが育てたマッシュルームが燃え始めた。数分後、パイプで繋がれたエンジンが、ブルルン、と産声を上げる。


そして、悠介が制御盤のスイッチを入れた瞬間、プロジェクトサイトに設置された裸電球が、夜の闇を突き破るように、煌々と輝き始めた。


「…おお…!」

村人たちから、地鳴りのような歓声が上がった。

太陽が沈んだ後、この村がこれほど明るい光に満たされたことは、かつて一度もなかった。


それは、ただの電気の光ではなかった。

自分たちが捨てていたサトウキビのゴミが、自分たちが洞窟で育てたきのこが、夜を照らす希望の光に変わった。その事実が、村人たちの胸を熱く震わせていた。


悠介は、プリヤと顔を見合わせて微笑んだ。

水、食料、そしてエネルギー。生命と文明を支える三本の柱が、今、このデカン高原の大地に、確かに打ち立てられたのだ。

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