風になる日
いつものバイトが終わり、ポテトをつまみながら、鈴木が唐突に言い出す。
「なあ桜井、バイクってかっこよくね?」
「急にどうした?」
俺はストローでジュースを吸いながら答える。
「いやさ、バイトで稼いだ金、何かに使おうかなって思ってさ。バイクの免許取るのとかよくないか?」
こいつの目は本気だ。
「お前、本当にバイク乗る気か? 危ないって言われてんぞ」
「だからこそだよ。普通免許は誰でも取るけど、バイクってなんか特別感あるじゃん?」
正直、鈴木の言うことには少し共感した。俺も最近バイト代を何に使うか悩んでいたところだ。
「……まあ、悪くはないな。どうせなら俺も一緒に取るか」
「マジで!? よっしゃ、桜井と一緒なら心強いわ!」
そんなノリで、俺たちはバイクの免許を取ることを決意した。
次の週末、俺と鈴木は地元の教習所に申し込みに行った。パンフレットを見ながら、鈴木が騒ぐ。
「なあ桜井、このCB400とか超かっこいいよな! 俺、こんなバイクで街中走りてぇ!」
「お前、まずは原付じゃないんだから、教習で転けないこと考えろよ」
「うるせぇな。お前も倒れるなよ?」
講義が始まると、まずは基本的な交通ルールの学習からだ。いつも適当にやっている鈴木が、真剣な顔でメモを取っているのがなんだかおかしい。
「おい桜井、これって左折時もウインカー出すんだよな?」
「当たり前だろ。お前、自転車でも信号無視してるだろ?」
「しねぇし! いや、たまにするかもだけど……」
そんな調子で、俺たちの教習は意外にも楽しく進んでいった。
実技教習の日、俺たちは初めて教習車にまたがった。バイクのエンジン音が腹に響く感覚は新鮮だった。
「おい鈴木、これ結構デカくねぇか?」
「マジで緊張するな……俺、最初にエンストしそうな気がする」
インストラクターが簡単な操作を説明した後、まずは直線での発進と停止の練習だ。
俺は少しずつクラッチをつなぎ、バイクが滑らかに前進する感覚に感動した。
「おい鈴木、意外と簡単だぞ」
俺が後ろを振り返ると、鈴木が盛大にエンストしていた。
「おいおい、マジかよ……」
鈴木が頭を抱えているのを見て、インストラクターが笑いながらアドバイスを送る。
「クラッチとアクセルのタイミングが大事だよ。慌てないで、ゆっくり操作してみて」
その後も、鈴木は何度かエンストを繰り返しながら、ようやくスムーズに発進できるようになった。
「やっとかよ。お前、時間かかりすぎだろ」
「うるせぇ! でも、これ走れると楽しいな!」
教習が進むにつれて、俺たちの運転スキルは少しずつ向上していった。鈴木は最初の頃のエンストを繰り返していた姿が嘘のように、スムーズな運転を見せるようになっていた。
「おい桜井、俺、次の急制動でノーミス決めてやるぜ」
「お前、調子乗って転けるなよ」
急制動の課題で、鈴木がビシッと決めたとき、インストラクターが拍手を送った。
「お、いい感じだね! 成長したじゃないか」
「っしゃー! 見たか桜井!」
「まあ、俺のほうがもっとスムーズだったけどな」
そんなやり取りをしながら、俺たちは卒業検定の日を迎えた。
卒業検定は緊張感に包まれていた。コースを走り終えるとき、鈴木が振り返って親指を立てる。
「桜井、俺、たぶん合格だわ!」
「お前、油断すんなよ。最後のコーナーで足つくなよ」
結果発表のとき、俺たちの番号が呼ばれた瞬間、鈴木がガッツポーズを見せた。
「やったぜ! これでバイク乗れる!」
「まずは免許証取りに行かないとな」
後日、俺と鈴木は教習所を出て、バイクショップを見に行った。
「これとかいい感じじゃね?」
鈴木が目を輝かせながら指差すのは、黒のスポーティな車種だった。
「お前、それ絶対似合わねえだろ。もっとシンプルなのにしろよ」
「うるせぇ! でも、こうやって選ぶのも楽しいな!」
免許を取った俺たちは、次にどこを走りに行くか話し合った。鈴木は地図を広げながら「ここが絶景ポイントらしいぞ」と興奮している。
「桜井、俺ら、バイクで青春楽しもうぜ!」
「まあ、お前が事故らないようにな」
バイクを通じて新しい楽しみを見つけた俺たちの生活は、少しだけ広がりを見せていた。
これからどこへでも行ける――そう思うと、胸が少しだけ高鳴った。




