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藍原編


「サードステージ」



藍原「!?」


藍原は気付いたらそこにいた。そこ、とはどこなのか?まったく見当のつかない場所であった。


藍原「まだあんのかよ、畜生…」


上下方向以外は黒い物質で出来ている。塗装されているにしては平坦過ぎる。周囲360度はガラス張り。半径は約5mの円型である。藍原は、外は暗いが一目で深海なのだと理解する。まるで魚のいない水族館の様だ。


藍原「どこだ、ここ?」


操縦器を発見し、潜水艦なのだと納得する。内部には他に何もなかった。


藍原(操縦しろってことだよなぁ…?)


藍原はれっきとした女性であるが素行は荒い。ゲームセンターに行かない日はない程だった。そこで培われたレースゲームの実力は桁外れである。


藍原(めっちゃ単純だな、このコントローラー)


藍原は二つのレバーの間にある黒いボタンを押す。ドゥルン、とエンジンがかかった音が内部に響く。



「加速度」



藍原(とりあえず浮上、っと)


だが、ん?と藍原は不快な顔をする。手元には上下左右に向きを変更するレバーと前後に進むレバーのみ。浮上するには向きを上にしなくてはならない。つまり、真上に行くには床を垂直にし、レバーを鉄棒に見立てた懸垂状態になるということ。


藍原(使えねーな)


藍原は潜水艦をやや上に傾けて前進する。潜水艦は傾いたまま速度を上げ続けていく。10秒足らずで100km/h以上も出ていた。使えない、と思った藍原を驚かせたのは当然だった。


藍原「これ、どんだけスピード出んのよ」


スタート地点は光が一切届かない深海。30度にも満たない傾斜で水面下まで達するには骨が折れる作業だと思っていたが、無限に長い坂を転がる球の如く加速していくこの艦体なら大丈夫そうだった。



「数値」



かれこれ30分は進み続けている。冷静に考え加圧の関係を心配した藍原はおよそ60km/hの速度を維持し続けていた。


藍原(まさか下が正解だったって結末は止めてよー)


だが下が正解だということを差し置いても未だに光が一切届かないのは不自然なこと。暗く静寂な外の様子は30分間少しも変わらない。水面上が光の少ない夜だとしても水面下まで達する気配は皆無。

密室でかれこれ30分というのは辛い。マラソンにおいてビルばかりの直線が最も過酷と言われている。それは景色がほとんど変わらないためだ。変化のない状況は人間を精神的に追い込むのである。

その上、藍原は酸素が心配だった。内部が完全な密室だとすると、有限である酸素はいずれ尽きてしまうだろう。だが今さら後戻りは出来ないのだ。そして自分が今までどれだけ進んだのか、藍原は計算する。


藍原(潜水艦の傾きが水平から30度、速度は60km/h、30分経過したと仮定して…)


必死に頭を働かせた結果、15km分浮上していることが分かった。そんな圧力の変化でも潜水艦のガラスが割れないことが分かった。

ハーフマラソンよりは短い距離ではあるが、これはあり得ない数値である。太平洋でも最深部は11km。インド洋や大西洋に至っては7、8kmしかない。地理など学んでない藍原は長いというシンプルな感想しか持たなかった。



「巣」



地鳴りのような轟音が聞こえてくる。藍原は潜水艦の速度を落とした。


藍原「何…」


藍原は360度見回すが何もない。ただ、あるとすれば死角となっている潜水艦の上下。微妙な波の動きを観察する藍原。


藍原「はっ!」


突然下から巨大な影が現れた。コントローラーを持ち、ガラスの目の前に立っていた藍原は硬直する。影が上へと完全に姿を消すまで10秒近く掛かった。目の前いっぱいに広がった巨大な影だったが、藍原はその生物を認識していた。


藍原(鮫!?けどいくらなんでも…でかすぎる…!)


潜水艦とは段違いな体長は学校のプールでは収まらないだろう。ビル並の巨体だった。ホオジロザメに近い形態。

それも一体ではない。いつの間にか三つもの等しい影が球体の潜水艦を囲み泳いでいる。わずかな照明に巨大鮫達が興味を示しているのだ。ここは巨大鮫の領域だった。



「間一髪」



藍原(こんなマジ生物いるなんて聞いてないっ!)


今いる場所が巨大鮫の巣だと分かった途端、藍原はレバーをかなり強く倒していた。左右から巨大鮫が何重にもなった歯を見せながら襲いかかってきたが、藍原が操縦するのは高い機動力を持つ高性能の潜水艦。向きを変えながら前進しても加速は衰えない。うなぎの様にするりと隙間を抜けギリギリでかわした。


藍原「…っぶねぇ…!」


さらに加速を続けると巨大鮫達は追ってくることはなかった。

そして、前方に現れるのは…。



「ダミー」



藍原(光!?)


潜水艦の内部の明かりのような輝きを放つ光があった。ぼんやりと提灯程度の明るさだ。藍原はこれまでの経験からその光に触れるのがゴールなのだと直感する。しかしてっきりすぐ近くにあると思っていたが、なかなか距離を詰められない。


藍原「いやにでかいな…」


眼前まで来て、その光が潜水艦と同じくらいの大きさを誇ることに気付いた。

そして、その光が「何かからぶらさがっている」ことにも。


藍原「!!」


周囲の波の動きが変わる前にレバーを傾け潜水艦を走らせていた。そして巨大なチョウチンアンコウのギロチンの様な噛みつきをかわす。あとコンマ一秒遅ければ丸呑みにされていたに違いない。そしてすぐ再び光が遠くに見えた。


藍原(また!?)


と思ったが輝きはハッキリとしており、大きさも1m弱と大したことがない。藍原は巨大生物との遭遇のせいで距離感がおかしくなっていたため、案外近くにあるのに驚いた。巨大なダミーの光が邪魔で反対側の光が見えなかったのだ。二つの距離は約20m。

すぐ側までチョウチンアンコウが来ていたが、藍原はこれは本物だと勝利を確信する。

潜水艦ごとその光に触れると輝きが内部全体に広がった。全身の恐怖を洗い流された様な感覚。


藍原はこの閉鎖を攻略した。



「サードステージ」


難易度★★★★


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