池森編
「フォースステージ」
池森「!?」
池森は気付いたらそこにいた。そこ、とはどこなのか?まったく見当のつかない場所であった。
池森「っ!?」
目を開けてすぐに驚いた。池森は地面に横たわっている。そしてちょうど真正面に人の姿が。つまりその人物は宙に浮いている。
池森「ああ、鏡か」
鏡の天井であった。鏡で出来ているため距離感が掴みにくいが高さは3m程度だった。
鏡製は天井だけではない。池森は立ち上がると辺りを見回した。全面が鏡の様だ。前後左右、そして上下に六人の自分。普通少しでも傾きがあれば無限の池森が現れるだろう。それが見えないとは、完璧な平行かつ垂直に六辺の鏡が設置されているということだ。
左右の幅は約3m。痩せ型の池森でなくとも少し広めに感じるだろう。
池森(これはまた、難しそうですね…)
「強度」
池森(ここは通路でしょうか?)
両サイドと後方に比べて前方の池森がかなり遠くにいる。池森は目測で20mだと見積もる。実際は鏡とはその半分の長さでしかないが。
池森は前へと歩く。ファッションショーの様な堂々とした歩き方ではなく、抜き足差し足で。
ここが未知の空間だからではない。理由は一つ。
池森(意外と頑丈ですね)
下の鏡が割れるのを恐れていた。鏡なんて50cmの高さから落としても簡単に砕ける儚いもの。50kgもの重さに耐えられるとは信じがたい。池森は割れないと分かっていても中々普通に歩けなかった。
「不条理」
鏡が立てられているとか鏡張りとかそういった次元ではない。壁、床、天井、全てが鏡そのもの。切れ目などはなく高級感あふれるくらいにピカピカだった。
池森(……??)
池森は若干の違和感を抱えた。それはこの空間が明る過ぎるということ。
その光はどこから来ているのか、と。周りには鏡と鏡に映る自分しかいない。隙間も見当たらないこの空間では照明がなければ間違いなく暗闇だというのに。
「迷宮」
真正面の自分との距離が七割は縮まった。その時、視界の両端の池森の姿が消える。
池森「!?」
何事かと顎を引いた池森。単に距離が遠くなっただけだった。つまり左右に曲がれるということだ。
池森(この空間はまさか…)
両側の奥行きは等しい。左を選ぶ池森。正面の自分に接近して、次は右側の池森のみが姿をくらます。右への一本道。
池森(迷路!?)
「反響音」
両側の池森が遠く離れる。完璧な鏡構造の通路であるがゆえに、曲がり角を見極めるのは困難だ。
池森(左…)
いかなる迷路であっても、片側の壁に添って進んでいけば必ずやゴールへ着く。だがそれはゴールがある普通の迷路であることが前提の上だ。まともな仕組みでない閉鎖空間でもこの策が通用するのか、解は誰にも分からない。
池森は20分も歩き続けてるが、状況は変わらずじまい。己の姿ばかりを目にする。
池森(こんなんで攻略出来るんですかね…)
行き止まりは池森が元いた場所から一度も当たっていない。毎度の様に一つか二つ曲がり道がある。
迷宮には池森の足音だけが響いている。足音は反射はしているがそれだけで迷路の広さが具体的に分かるわけではない。それでもとてつもなく巨大迷路であることは確かだろう。
「道化」
池森「ん?」
池森は自分の目が狂いだしたと思った。直進の途中にあった左への曲がり角を曲がった。前方の影は今までより遥かに遠い。そしてその姿は今までより横に大きく、太って見えた。池森の視力は0.5以下だが、ぶれてそう見えているわけではない。
池森(よく見えない…)
目を細めながら接近する。正面の姿は微動だにせず。つまり鏡に写る池森自身ではない。池森は5m歩いてその影が何なのかを理解し、大きく目を見開く。
池森(ピエロ!?)
サーカスに足を運んだことがなくとも大勢が知っているであろうその姿。肥満体型、赤い縦縞模様の白いズボンに白い長袖のシャツ。顔はきっちりとメイクされていて不自然な笑顔が仕上がっているピエロ。真っ赤な鼻が目立っている。
「中間」
ピエロだ、道化だ、などと不様という意味として使われている通り、パーティーで被るタイプの円錐形の帽子で潰されて横に飛び出た緑の髪とシルエットがボールの様な体型はなんとも不恰好だ。白塗りの肌に右目は星形、左目は大粒の涙を流したペイントが施されている。ピエロは顔以外は肌の露出をしておらず、手袋をはめた両手の平を見せつつペンギンの様なポーズをしている。靴は30cm近い大きさで、まるでキャラクターが履く形状だった。
池森(急に走ってきたりしない……か?)
パントマイムの如く完璧な静止をするピエロ。嘲笑の対象として扱われる道化師らしくない挙動の寡黙。その立ち振舞いは容姿が普通の人間に近い白装束と、生命感のない彫像の中間に位置付けられそうだ。
閉鎖は継続している。




