3話
・・・金もない。
財布を見るたびに現実を突き付けられる。
頭の中には、あの日の光景が何度も浮かんだ。
炎。
悲鳴。
立ち尽くす少女。
後悔してもしきれない。
だけど過去には戻れない。
何もする気が起きなかった。
眠ることも出来ず、ただ天井を見つめる。
学校はいつ再開するんだろう。
そんなことを考えていた時だった。
「おい」
部屋の扉が乱暴に開く。
義姉だった。
「お前のところに取材が来てる」
声に苛立ちが混じっている。
「追い返してこい」
「・・・分かった」
退院して帰ってきてから初めてまともに交わした言葉だった。
心配の一言もない。
俺が生きて帰ってきたことなんて、どうでもいいらしい。
⸻
玄関を開けた瞬間、記者たちが一斉に集まってきた。
「当時の状況を教えてください!」
「なぜ火の中へ飛び込んだんですか!?」
「加害者たちについてどう思いますか!?」
質問が飛び交う。
逃げたいと思った。
だけど逃げなかった。
俺は一つ一つ答えた。
いじめは事実だったこと。
許す気はないこと。
同情もしていないこと。
そして。
あの日、止められなかったことを今でも後悔していることを。
もう隠す必要はなかった。
⸻
記者たちが帰った後。
リビングへ戻ると義母が待っていた。
顔色が悪い。
明らかに怒っていた。
「大」
低い声だった。
「なんであんなこと言ったの?」
「・・・え?」
「私たちがいじめに対して何もしなかったみたいじゃない」
その言葉に一瞬理解が追い付かなかった。
「あんたを育ててきたのは誰?」
「・・・」
「あんたみたいな子を引き取ってあげたのは誰?」
黙っていた。
昔からそうだった。
黙っていれば終わる。
そう思っていた。
「両親もいないくせに」
義母は吐き捨てるように言った。
「本当なら親もいないあんたは誰にも必要とされない人間だったのよ」
⸻
その瞬間だった。
何かが切れた。
頭が真っ白になる。
怒り。
悲しみ。
悔しさ。
色んな感情が一気に溢れる。
気が付けば近くにあった棚を蹴り飛ばしていた。
大きな音が響く。
義母が悲鳴を上げる。
義妹が震えている。
義姉も顔を青くして固まっていた。
俺自身が一番驚いていた。
こんなことをしたのは初めてだった。
でも。
もう分かってしまった。
あの日。
俺は後悔した。
もっと早く動けばよかったと。
もっと強く止めればよかったと。
だからもう。
ただ耐えるだけはやめようと思った。
「・・・もう耐えない」
静かに言った。
誰も言葉を返せない。
「もう俺は、自分を守る」
初めてそう思った。
本当に守らなきゃいけないのは。
他人じゃなくて。
俺自身だった。
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