第5話 誤解
あのロボットとの戦闘の最中は気づいていなかったが、私の装甲はかなりボロボロになっていた。
歩いていると、時々小さな軋んだ音がする。
だが、初めて少女と会ったあの時に比べるとそこまで心配する程の損傷でもない。
私はそんな自身の装甲の損傷に構う事なく、ただ少女の逃げていった方向へと歩みを進める。
歩いて、歩いて……。
ダメだ。
このペースでは少女に追い付けない。
少女は走って逃げていったのだから当然だ。
ならば私も走ればいい。
そう思ったのだが――
足が軋んで言う事を聞かないのだ。
ロボットの突進を受け止めたあの時、足に酷い負荷が掛かったのだろう。
そのため、歩く事は出来るが走る事は出来ないくらいに損傷を受けたのだ。
そうなるとどうやって少女を追い掛けるか。
幸い、背中の羽は動く。
空を飛んで追い掛ければいいだろう。
私は一気に上空へと駆け上げ、辺りのビルより高い位置まできた。
静寂に包まれたこの都市は、時々植物が風に靡く音がただ鳴るばかりで、生命の気配はまったくと言っていいほどない。
都市から目を離し遠くを見つめると、そこは建物の残骸が広がるばかりの地平線で動くものなど何もなかった。
この世界に何が起きたのかを私は知らない。
だからこそ、私は少女に会いたいのだ。
だが、その肝心の少女は何処に行ったのだろうか。
逃げた方向は分かるが、逃げる方向を途中で変えたのかもしれないし、あるいは隠れているのかもしれない。
この広い都市で一人の人間を見つける事など不可能に近い。
そう思っていた時、少し遠くのビルの中に人影が見えた。
その人影は長い髪をしているように見える。
あの少女だ――
幸い、少女はビルの窓から離れた位置にいる。
ならば窓を突き破っても少女に破片は当たらない。
問題ない。
そう根拠もないのに確信した私は、エネルギーを放出して一気にそのビルへと近付いた。
バリーーーン
窓を突き破って、私はビルの中へと入った。
「えっ?……どうしてここに……しかも窓から……」
そう言って手を胸に当てながら後ろに下がっていくのは、あの少女だった。
私の勘違いではなかったようで安心したのも束の間、少女は急いだ様子で階段で降りて行った。
「待ってクレ……」
そう言って私は羽からエネルギーを放出して階段のある方向の壁へと勢いよく突撃する。
足を壁に当てて上手いこと減速し、階段の下へ向かって突撃して降りて行くのを繰り返す。
「助けて!」
そう少女が叫ぶ。
誰に言っているのだろう。
この都市には誰もいないのではないのか?
少女は階段を降りていき、やがてビルの1階へと辿り着く。
そして私もまた1階へと辿り着く。
「待ってクレ……」
どうして話を聞いてくれない?
何故逃げる?
それは私が怖いからだとは分かってはいるが、話を聞いてくれたっていいとは思う。
少女はビルを抜け出すと、ふと後ろを振り返った。
振り返った少女の顔を私は見つめた。
「話を聞いてク――」
少女は逃げる。
聞く耳を持ってくれない。
ビルの入口を抜けるとそこは道路になっており、少し広々としていた。
少女はそんな道路を通って逃げるのではなく、向かいのビルとビルの間の路地裏を通って私から逃げる。
狭くて、私には少々通りづらい。
だが――
高度を上げてビルを越えれば問題ない。
高度を上げてビルを越えると、少女の姿が見えた。
少女は走りながら、ふと後ろを振り返る。
すると私の姿がなく安心したのか、上がった息を整えるため少女は立ち止まって息を整え初めた。
今のうちに――
私は一気に高度を下げ、少女の前に降り立った。
一呼吸遅れて、少女は私を見つめる。
「なんで……はぁ……追い掛けて……はぁ……くるの?」
少女は息を整えながらそう言った。
今なら話を聞いてくれる。
そう判断した私が話しかけようとした時。
少女はまた逃げていく。
「だから待ってクレ……」
このままではいつまでも話を聞いてくれない。
どうすれば話を聞いてくれる?
……とにかく追い掛けるしかないか。
少女は路地裏を進んでいくとビルが崩れて行き止まりになっている場所へと差し掛かった。
今なら話を聞いてもらえ――
そう考えたのも束の間、少女は瓦礫のわずかな隙間を通って向かい側へと行ってしまった。
この隙間は私には通れない。
空を飛ぶのもいいが、少女が学習して空からは見えない場所へと向かうかもしれない。
各なる上は――
瓦礫を破壊するしかない。
私は両手の刃を展開し、背中の羽にエネルギーを溜める。
エネルギーが最大まで溜まったその時、私は勢いよく瓦礫へと斬りかかった。
ドガーーーン
瓦礫が鈍い音を立てて崩れていく。
そんな瓦礫の崩れていく様を少女は向かいのビルの中から見つめていた。
「嘘……」
そう言って少女は今度はビルの上の方へと登って行く。
「待っテ――」
いい加減話を聞いて欲しいのだが、少女はまだ話を聞いてくれない。
私は高度を上げ、少女のいる階へと突撃した。
バリーーーン
窓が割れる音が鳴り響く。
その割れた窓を見つめる少女。
その姿は月明かりと逆光になって見えづらい。
「どうすれば諦めるの……!?」
そう言って少女は周囲の机や、棚の物などを私の邪魔になるよう倒していきながら、今度は下の階へと降りていく。
私はエネルギーを溜めて勢いよく加速して、階段前の壁へと激突する。
その加速を前にそれらの障害物無意味だった。
ビルの外へと出ると、少女は向かいのビルにより掛かって息を整えていた。
途切れ途切れの声で少女は言葉を紡ぐ。
「殺さ……ないで……」
もはや少女は逃げる体力もないようだ。
今なら話を聞いてくれそうだ。
敵意がない事を最大限表現しないとまた話を聞いてもらえないかもしれない。
そう考えた私は刃を収め、立ち止まる。
「直しテくれて……ありがトウ……」
言える事が出来た。
その言葉を前に少女は唖然とした表情をする。
「へ……?」
その反応は当然なのかもしれない。
少女の立場からすればどう考えたって殺そうとしていたように見えるのだから。
すると、その事実が可笑しかったのか。
「……ふっ」
そう短く息を漏らした。
それが引き金となったのか。
「……ちょ……ちょっと待って……」
口元を抑え、必死に笑いを堪えている。
肩は小刻みに震えていて、やがて耐えきれなかったのだろうか。
「あははっ!」
少女は笑っている。
そんなに可笑しかったのだろうか。
だが、少なくとも誤解は解けたようで何よりだ。
ここまで読んでいたたぎありがとうございます!
もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思って頂きましたら……
【感想、レビュー、ブックマーク、評価】お願いします!
どれか1つだけでもしてくださったのなら作者が泣いて喜びます……!




