第4話 決着
突進していれば決着のついていたものを、ロボットはあえて衝撃波を放った。
あえてなのか?
それともそうするしかなかったのか?
だとすればそれは何故なんだ?
――何かを見落としている。
あのロボットに勝つための方法がこれまでの戦闘の中にあったはずなんだ。
初めて衝撃波をくらったあの時、突進をしなかった理由。
同じ条件のはずなのにロボットが突進した理由。
後ろから青白い光が放たれつつあるのを横目に、私は考える。
ビルを挟んだ真後ろに青白い光を纏っているロボットがいて、今度こそは突進してきて終わりという状況。
思考がままならない。
いろんな可能性が頭をよぎっては過ぎていく。
同じ条件……。
今、機械とはいえ1つの命が危機に迫られているのに、いつもと変わらない夜空は星が輝いている。
何処を見渡してもあるビルは月明かりに照らさて輝いている。
不意に強い風が吹いて、私の体に飛ばされた石がコツンと当たった。
石が当たったところを確認しようとすると、風がまた吹いて今度は砂が舞った。
砂が舞った。
舞う?
舞っていた……。
同じ……条件……?
――!!
いや違う。
同じ条件などではなかった。
始めて衝撃波をくらった時、ロボットは衝撃波を放つ前に突進をしてビルにぶつかっていた。
その時、ビルの一部が破壊されて粉塵となって舞っていた。
粉塵が舞っていたから私の場所がよく分からなくて突進しなかったというのなら辻褄があう。
先程私に突進してきたのは、粉塵が舞っていなくて私の存在を視認出来たからだ。
これでロボットが突進した理由は分かった。
問題は何故つい先程、突進ではなく衝撃波を放ったのか。
粉塵の件も考えるとするのなら、私が視認出来なかったからだろうか。
いや――
その答えはすぐに分かる。
私はビルからすぐに離れると、その一瞬後にロボットがビルに突進し、ビルが崩壊する。
崩壊したビルから粉塵が舞い、大きな影がその粉塵に紛れる。
ロボットは私を視認出来なかったのに突進した……。
それはつまり――
そうか――
恐らくだが、ロボットの突進は真っ直ぐにしか出来ないのだろう。
初めて空を飛んだ時。
自身の能力を探していた時。
先程私がどうにか突進を抑えた時。
そしてつい先程の突進。
計4回の突進は全て真っ直ぐの突進だった。
偶然の可能性もあるが、真っ直ぐにしか突進出来ないのであれば粉塵が舞っていた時、粉塵が晴れるまで何もしなかった理由にもなる。
真っ直ぐにしか突進出来ないから、私の位置を確認する必要があったからという事だ。
思い返せば、ロボットの私を見つめる鋭い眼光……あれは私の位置を確認するためのものだったのだろうか。
そして突進ではなく衝撃波を放った時、私はロボットの目の前からズレてビルの影へと隠れた。
それはつまり、ロボットの突進の攻撃範囲外へと行けたという事。
だからロボットは突進ではなく、衝撃波を放ったのだ。
だが、そもそも突進が真っ直ぐにしかいかないのなら、突進する前に方向を定めればいいという疑問が湧く。
しかし思い返してみると、これに対する答えはこれまでの戦闘ですでに明かされていた。
ロボットは青白い光を放っている時、動いていなかった。
初めて見たロボットの突進、初めてくらった衝撃波、私が抑えた突進などの前の青白い光を放つタイミングでロボットは一切動いていなかった。
顔を動かすくらいは出来ていたが、足を動かす事はしていなかった。
それはつまり方向変換をする事が出来なかったという事だ。
どれもこれも全て仮説の域にしか過ぎないのは分かっている。
だが、その仮説を証明する理由もある。
間違っていたらその時はその時だ。
ロボットの事はおおよそ分かった。
だがどうやって勝つのか。
戦って勝つ事は出来ない。
逃げる事も不可。
隠れる事も出来ない。
勝っているのは速度のみ。
だが、その速度は決定打にはならない。
――どうすればいいのか。
事実を並べてみると本当に勝ち目がないように感じる。
ロボットに対する知識は得たが、その知識を使って攻略法を編み出すことは出来そうにない。
粉塵が段々と消えかかってロボットの影は次第に実体を持ち始める。
……粉塵。
やがて粉塵は舞い降りて、ロボットは私の姿を捉える。
ロボットの背中には先程ロボットが破壊したビルのものと思わしき瓦礫が乗っていた。
……瓦礫。
そして、青白い光を放ち始める。
今までの情報を照らし合わせるのなら、この後突進がくるはずだ。
……突進。
粉塵、瓦礫、突進……。
――!!
そうか。
この作戦ならロボットに勝てる。
幸いにもここは、ロボットを取り囲むようにしてビル建っている――
私はここまで戦って勝つか、逃げるかしか考えてこなかった。
だが、気付いた事があった。
それは、戦って勝つのではなく、相手を無力化して勝つという事だ。
無力化するには、まずロボットをビルに突撃させるよう促す事からだ。
ロボットが青白いを吸収していく。
そして――
ドガーーーン
ロボットにぶつかるギリギリのところで私は避ける事が出来た。
そのためロボットは私が元々いた位置の背後のビルへと激突する。
そして粉塵が舞う。
ロボットがぶつかったビルは後少しで崩れてしまいそうな程不安定になっていた。
そしてロボットは改めて私を見つめる。
ロボットは青白い光を放ち、吸収する。
ドガーーーン
私はまたもロボットの攻撃を避ける事が出来た。
そしてまた、ロボットを新たなビルへと激突させた。
辺りに粉塵が舞う。
今度は先程の粉塵と混ざってより粉塵が濃くなる。
粉塵が濃くなって私の姿が見えなくなったのか、ロボットは辺りを見渡している。
このままだと衝撃波を放ってしまうため、私はロボットに斬りかかる。
カーーーン
その大きな音はロボットに私の存在を気付かせるのに十分だった。
ロボットがまた青白い光を放ち、吸収する。
そしてまた突進する。
あと数回これを繰り返せば――
粉塵の濃さがロボットがビルに突撃した回数を物語る。
周囲にはビルの瓦礫が散らばっており、月明かりに照らされるビルは今すぐにでも崩れてしまいそうだ。
準備は整った――
私は粉塵に紛れ、空へと飛び立つ。
そしてビルの中腹くらいで静止した。
ロボットが青白い光を放っている。
衝撃波を放つつもりだ。
時間がない。
ロボットの突進によって崩れかけているビルはロボットを取り囲むようにして建っている。
私は今からこれらの崩れかけのビルにトドメを刺す。
――そしてビルを崩壊させる。
私は崩れかけのビル1つ1つへと斬りかかる。
崩れかけのビルとはいえ、ビルを破壊出来るのかと思っていたが、柱に斬ってしまえば案外簡単だった。
柱が崩れ、バランスを崩したビルは崩壊していく。
――そして崩壊したビルは瓦礫となって、ロボットを押し潰していく。
ロボットから放たれていた青白い光は途切れて空へと舞っていき、ロボットは瓦礫の下敷きになっていく。
そして粉塵に紛れ、その姿は見えなくなっていった。
硬くてダメージを与えられないのなら、瓦礫の下敷きにして動けなくすればいい。
我ながら無茶な作戦だった。
私は地面へと降り立つ。
ロボットが瓦礫の下敷きとなったまま、青白い光を放つ。
光が瓦礫から溢れ出て、そして――
衝撃波を放つ――
だが、今までと違って体が痺れる事はなかった。
ロボットを押し潰している瓦礫が衝撃波を防いだからだろう。
水が出る源を防いだら水が分散して出てくるのと同じように、ロボットの衝撃波もまた分散して弱くなったのだろう。
私はロボットに背を向ける。
早急にこの場を去らなければ。
いつロボットが瓦礫を破壊して起き上がってくるか分からない。
だが一体何処へ行けばいいのだろうか。
不意に少女の姿を思い浮かべる――
あの少女は無事なのだろうか。
あのロボットのような機械に襲われていないといいのだが……。
取り敢えず今はこの場を離れよう。
そう考えて歩みを進めようとしたその時、視線の先に人影が見えた。
ビルの影に隠れてこちらを見つめるその人影に私は歩みを進める。
次第にその影は実体を持っていく。
その影は――
逃げたはずの少女だった。
何故ここに――
「あっ――」
そう言って少女は私の存在に気付かれた事を察したのか、走って逃げていった。
あの時、逃げたんじゃなかったのか?
……追いかける訳にもいかないか。
少女が私の事を怖がっているのなら、それが1番だ。
ただ……1つ心残りがあるとすれば、私は彼女に感謝の言葉を伝えたかった。
私を直してくれてありがとうと。
だが、今の私に出来る最大の恩返しはここで彼女から離れる事だろう。
そう考えて歩みを進めようとした時――
「※※※※※※※」
突然何かがフラッシュバックする。
今のは何だ?
誰かの声のようなものが聞こえた。
何を言っているのかは分からなかったが、この声は――
「あの少女の声カ……?」
何故少女の声がフラッシュバックしたのか分からない。
けれど、ふと思った。
私は――
あの少女に会わなければならない。
私は少女の逃げた方向へ歩みを進める。
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