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バッドランズ・グレイアウト/モブ社畜、呪物を売る裏社会企業に転職し社長(♂)に恋をした結果、屍人転生する  作者: 梅屋凹州
三章

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3章7話・1 三池柘榴という男・1

 全ての子供が、親に望まれて産まれてくるワケではない。


 快楽と惰性の末にこの世に産み落とされ、たいして興味関心も持たれないまま、人並みの教育やしつけを教わることもなく、ただ放置される存在。

 子供の頃は悲劇的だが、大人に育ってしまえばただの喜劇(わらいもの)になる。


 三池柘榴も、その一人だった。


 ミケの一番古い記憶は、それはそれは、惨めなものだ。


「おかぁさ……お母さん……どこぉ……」


 頬がかゆくなるほど流れ続けた涙。ボロボロになり、底がカパカパと剥がれた安物の幼児靴。足の裏も、膝も、限界で、それでも足を止めることは出来なかった。


 歩みを止めても、振り向いて来た道を戻っても、意味がないことを、幼いミケは悟っていたから。


 ──三池柘榴が生まれたのは、南関東の、しょぼい田舎町だった。


 父は、知らない。興味もないが、ロクデナシであることは察しがついている。

 母は、若くしてミケを産んだ、自称恋多き女。ミケが幼いうちから何人もの彼氏をつくり、何度も破局した。男を見る目がないクセに、自分は恋愛経験豊富なモテ女だと自認している、勘違いしたバカ女。


 ミケは、そんな最悪の両親の間に生まれた。

 現代風に言えば、親ガチャ外れというヤツだ。


 ミケが四歳のとき、母はミケを残して彼氏とデートに出かけて、そのまま数日、帰ってこなかった。


 母が帰ってこない家で、幼いミケはひとり泣いたが、泣きわめいても隣人たちは誰も助けてはくれなかった。


 冷蔵庫が空になる前に、ミケは家を出て、祖母の住む隣町まで歩いて向かうことを決めた。


 大人でも音を上げる長い道のりだ。四歳の子供にとっては、過酷な道程だった。


 泣いて、足を止め、また泣いて、それでも歩いて。

 ミケがようやく、祖母の家にたどりついたのは、すっかり日が落ちた頃だった。


 その日以来、ミケは母に会っていない。

 ミケはそのまま、祖母の家で暮らすようになった。


 祖母は、ミケを飢えさせることはなかったが、小遣いを渡すこともなかった。年金暮らしで、余裕がなかったのか、ケチだったのかわからない。


 ただ祖母は、時折近所の友人を招いて茶飲みをするとき、母の悪口を繰り返した。いったい誰に似たんだろうか。あのバカな娘。無責任につくったガキを世話してやってるのに、養育費をよこすってこともしない。


 ミケは、そんな話を聞くのがなぜかとても嫌で、唯一の親族である祖母にも、あまり関わらないようになっていった──自分を捨てた女の、悪口のはずなのに。


 ミケは祖母のつくる流動食のようなご飯を食べて育ち、小学校に入学した。

 学校に入ると、幸いにも、多くの友達が出来た。


 放課後は毎日、校庭や友達の家で遊んだ。ゲームや、漫画、テレビの話で盛り上がり、友達と過ごしている間はミケにとって楽しい時間だった。


 けれども、それも日が暮れるまでの話だった。


 日が落ちて、窓や時計を見た誰かが、「そろそろ帰ろ」と言い出す。みんなが片付けを始めると、ミケはいつもイヤな気持ちになって「えー。もっとゲームしようよ」と訴えた。


 しかし、友達はいつも申し訳なさそうに、こう言って断る。

「ごめんね。おれ、このあと塾あるんだ」

「うちも。お母さんご飯つくって待ってるし」

「……」


 ミケには、塾を習いにいける金はなく、待っている母もいない。

 友達を引き止めることも出来ず、ひとりとぼとぼと帰宅すると、ミケを待っていたのは祖母の温かい手料理ではなく、冷蔵庫にあった半額の惣菜だった。


 その日はミケの、誕生日だった。


「……」

 冷蔵庫の匂いが移った、油でべとべとの惣菜をひとりで食べながら、幼いミケは悟った。


 ──こんなものなんだ。

 オレっていう人間は、半額のお惣菜の価値しかないんだ。


 ミケはそう、理解した。

 以来、ミケは家族とも友人とも、なんとなく距離を置くようになった。


 だから、中学校に上がった頃、出会ったネットの世界に、ミケはのめり込んだ。


 ネットの世界は、貧困も金持ちも、子供も大人も、田舎も都会も関係ない。

 誰もが平等に意見を言えて、物事をより知っている人間が一目置かれる、そんな世界。


 やがてミケは、自分でも動画を作り、サイトに投稿するようになった。コアなファンが多いホラージャンルに興味をもったのも、この頃だ。


 自転車で近所の心霊スポットを巡り、キャンプをして、実際に怪現象が起きるか実証実験をする。金のない中坊にとって、情報と度胸さえあれば簡単に再生数を稼げるホラー動画は、うってつけだった。


 怖いと思ったことは一度もなかった。

 どうせ、心配する保護者はいないのだ。

 ミケは初めて、孤独だと思っていた自分が、同時に誰より自由であることを悟った。


 高校に進学した頃には、ミケのチャンネルの登録者は増えていき、安定した収益を稼げるようになっていった。

 その頃には、配信業こそが自分の天職だと自覚した。教師には進学を勧められたが、ミケは固辞して上京した。

 都心の利便性の高いマンションを借りると、ミケは動画製作にますます邁進するようになった。


 常に動画のネタを考え、アップし、閲覧数を稼ぐ。寝食の時間を削って、ミケは動画製作に人生の全てを費やした。


 人脈づくりも欠かせない。都会には、クリエイターや有名配信者が多く集まる。タイアップやコラボの機会をわずかでも取りこぼしたくなかった。


 そのために、自分への投資も惜しまなかった。オシャレで清潔感のある服装、高級アクセサリー、どんな話にも加わることのできる話術。

 稼いだカネで美味いものを食べ、ブランド物を買い揃え、モチベーションの維持にもつとめた。


 動画収益で稼いで、コラボ動画で稼いで。

 生活を一切顧みずに稼いで、気が大きくなっておごりまくり、借金が増えているのにも気にせず稼いで、税金の督促の手紙を無視してでも稼いで。


 気がつけば、ミケは埠頭で、吊るされていた。

続きは明日夜投稿します。

ほん怖のついでにどうぞ。

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