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バッドランズ・グレイアウト/モブ社畜、呪物を売る裏社会企業に転職し社長(♂)に恋をした結果、屍人転生する  作者: 梅屋凹州
三章

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3章6話・1 ”かくし” 4時38分

スマホでのなろう閲覧が出来ない状況を鑑み、更新を遅らせております。

「……へっ?」


 気づいたとき、東雲十三の姿は、一軒家二階の、狭い部屋にはなかった。


 打ちっぱなしのそっけないコンクリート床。外側に引かれた黄色い点字ブロック。4号車の停止位置と書かれた表示。


 かすかに身体に伝わってくる、足元を揺らす振動。直後、すぐ脇を走り抜けていく列車。遠くから聞こえてくる警笛。垂れ下がる無数の電線、三角形のパンタグラフ。赤く錆びて掠れた駅名の表示。


 そこは、十三が知らない、どこかの駅のホーム、だった。


 ただ──言いようのない妙な違和感を、十三はこのホームのあちこちから感じていた。


 例えばそれは、喉がつまりそうなほど籠もった濃密な空気の匂いや、妙に圧迫感を感じる天井や、四方八方から感じる視線──。


 十三は、この世界の空気に、覚えがあった。


「──ここ……まさか、”かくし”……!? なんで!?」


 身をもって何度も経験した、異界──。

 十三はいつの間にか、三度、異世界へと迷い込んでいた。


 周囲に視線を巡らせる。するとすぐ近くに棺の姿が見えた。


 突如として異界のなかに入ったはずなのに、黒澤棺はいつもどおり、落ち着き払っていた。

「シノ、心配しなくていい。これは、おれがやった」

「社長……。これは、社長のお力、ということですか?」

「あァ。正確にはおれの要請で、ハングドマンがお前たちをかくした。ここはハングドマンの”かくし”──いわば独壇場だ。ハングドマンに”頼んだ”おれがやられない限り、”かくし”は残り続け、ハエどもはここから逃れられない。仕置銃のチャージスピードもあがるから、おれたちにとって有利な場所だ。──ただ」


 言って、棺は視線を十三の肩越しに向けた。十三は後ろを振り向く。


 そこには、ミケが立っていた。眉間にシワを寄せて、居心地の悪そうな顔をしている。十三は気遣って声をかけた。

「ミケさん……。大丈夫……? なんか調子悪そうだけど」

「……大したことねェよ。オレみたいなヤツはな、”かくし”のなかじゃ体調不良になるんだってよ……」

 言葉とは裏腹に、ミケは深いため息を吐いている。強がってはいるが、明らかにしんどそうな様子だった。


 心配そうな面持ちでそれを見つめていた棺が、ぽつりと言った。

「……普通の人間にとって、”かくし”の世界の空気は毒だ。ミケみたいに霊感の強いヤツなら、なおさら。……シノは、平気か?」

「はい。全くなんともありません! ピンピンしてます!」

「そう。よかった。……ミケ、知ってのとおり、”かくし”を呼ぶとおれは仕置銃を撃てなくなる。……辛そうなところ悪いが、頼むぞ」

 気遣いながら、棺が仕置銃をミケに渡した。


「大丈夫ッス。いけます。──おいシノ、お前も仕置銃の準備しとけ。……来るぞ」 

 銃を受け取ったミケは、毅然として前方を見据えながら、十三に指示した。


 ミケの視線の先で──ヤードの面々と共に”かくし”に巻き込まれた配信者の少女が、首を激しく振っていた。


 ひどい頭痛を訴えるかのように、両手で頭を抑えながら、少女は首を振る。何かに抗っているのか、内側にいる何かと戦っているのか──その答えは、すぐに明らかになった。


「う、げ……ッ、おええええええ……! ぅ、おえええええ」


 少女が苦鳴と共に、口から吐瀉物を吐き出した。


 いや──正確には吐瀉物ではない。白い米粒のようなそれは、ホームに落下したそばから蠢き、飛翔する。


 それは白い、数多のハエだった。少女の身体を覆い隠すほどの多さのハエが、どんどん口から飛び出していた。


 げっそりと細くなった少女の青白い腕には翅脈が浮き上がっていた。哀れにも虫たちの苗床となった少女は、自らも寄生され虫の一部と化していた。──おそらく、先に死んだ他の配信者も、内部を虫に寄生されて操られたに違いない。


 あまりのおぞましさに、十三は嫌悪感を隠しきれず顔をしかめた。

「うえええ……キッモ……」


 少女の口から飛び出した虫は、やがてハチのように群れを作り出した。


 真っ白く巨大な一つの影が、一箇所に大きく広がる。動物が威嚇するかのように宙空に陣取った異形の虫たちは、ヤードの面々を威圧した。


「ッし、準備完了! シノ、いくぞ!」

 一方、力強く言ったミケの腕には、サブマシンガンが抱えられていた。


 仕置銃──ただしそれは十三の知らない、新しい形態だった。

 軍隊の装備品で見られる9mm口径の軽機関銃。両腕で抱える、横幅が広いタイプの銃だ。


 十三は興奮してサブマシンガンを構えるミケに尋ねる。

「!? えっなにそれかっこいい! どうやってやんのそれどうやってやんの!?」

「知らねぇなら黙って見てな! 相手の数が多いってんなら、手数で押し切る!」

 そう宣言したミケのサブマシンガンの照準が、群れなすハエに向いた。


 9mm口径機関銃の銃口が、光の火を吹く。

 だだだだだだ、と軽快な銃声が、異界の駅のホームに響き渡った。


 小気味良い音が、終わりの見えないほど長く続いた。その音が止んだ頃には、立ちふさがっていた透明なハエの壁は、緑色の残影を残してあらかた消え去っていた。


「……!? うッえええ〜〜マジ!? ミケさんやッるゥ〜〜! 超火力じゃん!」

「ミケのチャージスピード、ヤードのなかで一番速いからな。ほとんど無限弾。だから連射に向いてる」

 後方に控える棺が、淡々と説明する。


 社長に評価されているミケだが、本人は疲労困憊、といった様子で銃口を下げた。

「……つっても、にーさんほど筋力ねぇから反動抑えられねぇし命中率も低いんスけどね……。シノ、オレのチャージが回復するまで、撃ち漏らしたやつ頼む」

「了解!」

 十三は、拳銃型の仕置銃を構えた。


 しかし、ミケのそれとは違い、十三はチャージスピードが遅く、まだ形態を変えられるほど充電出来ていない。超速でサブマシンガンまで形態を変えられたミケに比べると、牛歩のような遅さだ。銃弾も、連続で十発撃てるかどうかだった。


 それでも十三は、銃を構えた。ミケの連射によって総崩れになり、逃げ惑うように周囲を飛び回るハエに狙いをつけた──。

次回更新は未定です。火曜・水曜夜を予定しております。

→追記 クオリティアップのため、明日木曜日の夜更新を予定しております。

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