3章5話・2 午前1時50分
昨日はセキュリティ関係の混乱があり、投稿を控えました。楽しみにして頂いた方がいたら申し訳ないです。
また、今後このエピソードは大幅に加筆・修正する予定です。
深夜2時前──。
十三とミケは、社長室の椅子に腰を下ろして、それぞれのノートPCを開いた。
これから、得た情報を棺と共有し、三人で作戦を練る。
時間は限られていた。グレイブヤードのオフィスは、かつてない緊張感に包まれていた。
部下たちから聞いた内容をPCのメモに書き起こした棺は、文面を辿るように呟いた。
「……今朝五時、ランク更新を機に、また新たな犠牲者が出る見込み。そいつがどこの誰かってことは、現時点で不明。心当たりもなし。解き明かすには、どういった法則で登録者たちに”件”が取り憑いたかを知る必要がある──ってことだな」
「はい。それを解く足がかりになるかもしれない事例があります。過去の事件で、気になった点が二つ」
十三は、二件目の事件のデータを棺に示した。
「四人組配信者グループ”ジョーズ4”のメンバーが、同時に首を吊った二件目の事件です。五人のメンバーのうち、なぜかソロ配信者の”牛タンスキー”ただ一人だけが助かった。これがまず、大きなヒントになるかと」
五人で結成された配信者グループ”炭酸ドーム”のうち、一人だけ生き残った”牛タンスキー”。
彼は、昨日もリアルタイムで配信していたらしく、存命であることはほぼ確定している。ただし、コメント欄に多くの視聴者から問い合わせがあったようで、SNSは封鎖中。現在は連絡が取れない状態だ。
「本人に事情を聞けないのは残念ですが、五人組配信者のうち、一人だけが助かった事実は大きい。そこには、何か必ず理由があるはずです」
「うん。──もうひとつの、気になる点ってのは?」
棺に問われ、十三はもう一つの資料をデスクトップに提示した。
nowhereのスガヤから共有してもらった、アプリ”うつっちゃうんです”ランキングの推移表だ。
アプリのランキングは、三日ごとの朝五時に更新される。アプリの閲覧数、ブックマーク数の総計が多い配信者がランク入りし、公開されるのはランク1位から10位までというシステムだ。
第一の事件”さっどまっくす”死亡直前のランキングで、”さっどまっくす”の順位は一位だった。
第二の事件”炭酸ドーム”四人死亡直前のランキングでは、”炭酸ドーム”の順位は五位。
「──これまでの被害者は、いずれも十位以内にランクインした配信者たちでした。だから”ランクインすると死ぬアプリ”というウワサがあった。……でも普通、ランクインしたヒトが死ぬというならば、ランク一位や二位、あるいは十位から九位など、順に死んでいくんじゃないですか? なぜ、一位から飛んで五位などという中途半端な順列の配信者が、狙いすましたように亡くなったんでしょう?」
「そこは、確かに謎だな……。一位と五位って順位自体に、意味がある、とか?」
「もしくは、意味なんてないのかもしれませんぜー」
ミケが口を挟んだ。曖昧な言い方だが、的確に本質を突いているように思えた十三もそれに同意する。
「順位そのものが怪しい線も捨てきれません。しかし、そもそもランク入りしたから死んだ、という前提がそもそも間違っていた可能性もあります。不可解ですが、逆にいえば、それが解決の糸口になるとオレは考えています。死んだ二組の配信者の間に、隠された共通点があるとすれば、そこを突ければ現状の打開に繋がるかもしれない」
「……あのー。二件目の事件の配信者グループについては、オレが調べてみてもいいッスか?」
ミケが挙手する。
「配信者同士の情報だったら、元同業のオレが一番詳しいですから。時短になりますわ」
「……一人でやるのか? 相当大変な作業だと思うぞ?」と、棺。
「まーそりゃそうスけど。もとはオレが原因ッスから。これぐらいやらせてくだせー」
ぶっきらぼうに言って、ミケは眼鏡をかけ、PC画面に集中し始めた。
──その姿を見ていた十三は、そっと棺と目を合わせた。棺も同じことを思っているのか、こんな苦しい状況だというのに、少しだけ嬉しそうに笑っている。──こうなったミケは、頼もしいことを、二人は身をもって知っているのだ。
頷いた棺は、部下二人に指示を飛ばす。
「よし。それじゃあミケは五位の方を頼む。シノは、これまでのランキングの動きを調べてみて、何か法則性がないか探してくれ。おれは、明日ランクインしそうな配信者の様子を探ってみる」
「はいっ」
棺の采配を受けて、それぞれが調査に移った。
地道だが、ひとつの違和感を見逃すワケにはいかない。時間はなく、じりじりと焦りが募っていったが、誰もが口も開かずひたすらに集中した。
深夜二時。十三のスマホから、アラームが鳴った。
十三は顔を挙げて、集中を解いた。
凝り固まった肩をほぐし深呼吸をする。目元がつんと痛んだ。
いつもならランチタイムが始まる時間だ。集中しすぎて、時間を全く意識していなかった。
周囲を見回すと、棺とミケにも、疲れが見えてきた。その様子を見て取った十三は、休憩を提案した。
「……二人とも、そろそろランチの時間ですし、少し休みません? オレ、コンビニまで買い出し行ってきますよ」
「うん……頼んでもいいか?」
目をしょぼしょぼとさせた棺が目をこすっている。
「んじゃあシノ、オレのぶんはグミとエナドリ、しこたま買ってきてー。お前のおごりでな」
一方、まだ余力があるミケがそんなことをのたまうので、十三は笑顔で中指を立てた。
「くたばれ。そしてエナドリじゃなくてメシを食えメシを」
「……シノ、経費で落とすから、お前らの好きなもん買ってきていいぞ。レシートだけ持ってきてくれ」
疲労を見せながらも気遣う棺に、十三は笑って返した。
「承知しました。いってきまーす」
十三は財布とスマホだけを持ち、近くのコンビニに向かった。
適当に選んだおにぎりとサンドイッチ、サラダをカゴに入れる。深夜のせいで、フライヤーには何もなかった。仕方なくサラダチキンを買っていく。
他に、社長愛飲のコンビニコーヒーと、ミケ用のグミとエナドリ、自分用のタバコカートンをカゴ袋いっぱいに買い込み、事務所に戻った。
社長室に戻ると、ミケが食い入るような姿勢でデスクトップを見つめていた。それを、棺が後ろから覗き込むような形で見守っている。
コンビニの袋をテーブルに置きながら、十三は尋ねた。
「あれ? なんか進展あったんですか?」
「んー。もう少しでわかりそうかも」
「早っ! マジで言ってる?」
「言ってる。シノ、見ろよこれ」
ミケはデスクトップの画面を十三に示した。
ミケが見ていたのは、最大手の配信サイト・metubeの情報だった。
「metube? いまは関係なくない? なんで……」
「まあ、ここ見てみろって」
ミケが示したのは、とあるmetube配信者の情報だった。
再生数、押されたグッドボタンの数、チャンネル登録者数が表示されている。配信者名は──”さっどまっくす”。
第一の事件で亡くなった、”うつっちゃうんです”アプリ登録者の、情報が載っていた。
さらにミケは、第二の事件、”ジョーズ4”と、”牛タンスキー”の登録者を表示する。
「シノ、こいつらのmetubeの登録者数、比較してみて」
「……”牛タンスキー”、5万人? で、”ジョーズ4”は、約20万人……。”さっどまっくす”はチャンネル登録者数は33万人……これって……」
「──”うつっちゃうんです”は、最大手配信サイトmetubeと、アカウントが紐づけ出来るようになってんだ。こういうのは、今どき珍しくない。互いのサイトに相互リンクを貼れるし、個人情報の管理も楽で、metube時代からの客を引き込めるからな。で、こっちが”うつっちゃうんです”のトップランカーたちの、metubeの各順位」
ミケが、棺が調べていた”うつっちゃうんです”のランカーと、metubeの情報を照合した。
”うつっちゃうんです”歴代ランカーのうち、metubeで最多チャンネル登録者数一位は、”さっどまっくす”、第二位が、”ジョーズ4”。
つまり、死んだ人間の順番は、”うつっちゃうんです”のランクではなく──。
「……metubeのチャンネル登録者が多い順に死んでるのか……!」
十三は思わず大声を挙げた。
ミケが、真っ直ぐに十三を見つめて頷く。
「──オレはそう確信した。それでこれが、”うつっちゃうんです”現登録者を、metubeのチャンネル登録者が多い順にソートした表」
「じゃあ、次に登録者が多いのは……」
「こいつだ……! 女子高生配信者ともはなチャンネル……」
ミケが映したのは、素顔を晒している制服姿の単独配信者のアカウントだった。
ともはなチャンネル──。
現役女子校生でありながら、metubeで多くのフォロワーを獲得している配信者だ。流行りのダンスやメイク、友人との日常を配信するスタイルで、特に多くの男性視聴者がついているようだった。
その少女の動画を再生した途端、ミケが立ち上がった。
「……いる! 社長、ビンゴっす! 昨日更新された動画! この女の目に、ハエがいます!」
「……無防備に素顔晒して動画撮ってんのがラッキーだったな。ミケ、この女子高生の連絡先、すぐ調べられるか?」
「今、スガヤに頼みます! 運営なら配信者の個人情報持ってるはずなんで……!」
ミケが焦りながらもnowhereに電話をかけている。スガヤから聞き取った住所と連絡先のメモを取り、棺に差し出した。
「社長、女子校生の家、ここッス! 埼玉。電番も教えて貰いましたけど、固定電話だしこの時間帯だから、あんまりオススメはしないって」
「……相手は女子校生だし……家の留守電に連絡入れても、まず折り返してこないでしょうね。どうしましょう、社長」
十三は棺に問いかける。
棺はわずかな逡巡のあと、
「時間もねぇし、面倒くせェから自宅まで押しかけるか」大真面目に言う。
「そッスね」とミケが即座に同意した。
十三は、平然としている二人を見返し、「……わかりました」と腹をくくった。
女子高生の住所は、埼玉中部。今から車を飛ばせば、四時頃には着ける計算だ。
「じゃあ、オレとミケさんで行ってきます。社長は会社で待っていてくだ──」
「待て。おれも行く」
そう言って棺が立ち上がった。
出不精の棺らしからぬ発言に、十三はおろか、ミケまでもが驚いていた。
「社長……!? マジで言ってます?」
「会社の危機だ。おれも、お前らと一緒に解決したい。いいな」
力強い社長の言葉に、部下二人は目を合わせ、すぐに頷いた。
「……はいっ!」「……異論ないっす」
こうして、十三とミケ、そして棺の三人が、埼玉まで向かうことが決まった。
一刻の猶予もない。三人は慌ただしく準備を始めた。
ミケと棺が荷物を用意している間に、十三は車の準備に向かった。社用車のカギを取り、車庫へ向かう。
バタバタとオフィスを横切ったときに、壁から”とら”がぬっと姿を現した。
「シノ……」
「あっ兄さん。なんか二人だけで話すの久しぶりですね」
「うん……」
”とら”は柱に隠れて、何か言いたげに十三を見つめている。のっぽで黒づくめの”とら”が影に紛れて立っていると、新種の妖怪のようだった。
「……兄さん、かくれんぼですか? 付き合いたいところですが、いまは忙しいんで……」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ……。……会社の……郵便受けの下によぉ……荷物が届いてたから……それを使ってくれや……」
「はい。……使う?」
”とら”は十三の疑問には答えず、かわりに無言で、壁の角を指さした。
──そこに監視カメラがあった。
「あっ」
十三が驚いている間に、”とら”はさっと姿を隠した。
どうやら、伝えたいことは終わったらしい。
訝しながらも、十三はそれ以上追求しなかった。”とら”の指示どおり、車庫に行く前に、郵便受けへ向かった。
地べたに雑に置かれた段ボールのなかに、見覚えのあるアタッシュケースが入っている。
それを開けた十三は、目を見張った。
「……仕置銃……」
ヤードに二丁しかない、”とら”愛用の仕置銃。
ファイト! とノラの付箋まで貼ってある。
「にいさん……」
十三はアタッシュケースを持ち上げ、抱きかかえた。
”とら”が、複雑な立場ながらも応援してくれるのを感じた。
車庫に着いて社用車のエンジンを入れ、棺とミケを待つ間に、”とら”にお礼のメッセージを送った。
「にいさんありがとうございます。今度コラボカラオケ行きましょうね!」
すると、「うれしー!」「ともだちだよ!」と立て続けにノラのスタンプが送られてきた。
十三は唇を軽く噛み締め、苦笑した。
──アプリランキング更新まで、あと一時間半。
続きは明日の夜投稿します。




