3章4話・6 ”正念場”
応接室で待っていた”ザキさん”が、十三に気づいて鋭い視線を向けてくる。
「お待ちしてましたよ、東雲さん。進捗はいかがですか?」
「……それが……」
十三は、”ザキさん”に、知り得た情報をそのまま話した。
二つの自殺動画に共通して、アプリに寄生する”件”が確認されたこと。
それはnowhereに納品した段階では、確認されなかった事象であること。
十三は嘘はつかず、ありのままを伝えた。
「……それは、困ったことになったねぇ……」
そう、ため息をついた”ザキさん”は、口ぶりこそ冷静だったが、内心穏やかではないことは見て取れた。
会社の損害、ヤードへの不信感。十三から説明を受けたとして、ああそうですかで話が済まないのは当然だろう。
”ザキさん”は細く長い呼吸をした後、十三の目を真っ直ぐに見据えて、こう宣告した。
「……東雲さん、残念だが、アプリはサービス終了せざるを得ません。登録者に害を及ぼすアプリと知られたら、広告主にも逃げられてしまうでしょう。早々にダウンロードストアからも撤退しなきゃならない」
「待ってください……! まだ、結論を出すのは早いですよ!」
十三は食い下がって、”ザキさん”からの疑いの目を晴らそうと試みた。
強く出ては見たものの、心臓が冷えているのがわかった。一言間違えれば、会社に大きな損失を与えてしまう。十三の手には、べっとりと汗が滲んでいた。
「確かに、アプリに欠陥があったと判断されても仕方がありません。でも、サービスを終了させるのは早計です」
「……五人も死んでるのに? もし次、同じことが起こったら言い逃れできませんよ? ウチはいわくつきのサービスを配信した会社として大炎上する」
「なら、”次”が起こらなければいい!」
そう言いきった十三を、ザキさんは信じられない、といった表情で見つめ返した。
「……なんだって?」
「だから、次が起こらなきゃいいんですよ。不審死の謎を解決すればいいんです。オレたちヤードなら、それが可能なんです!」
「……アンタ、本気で言ってるのか?」
「ええ、もちろん」
もちろん、ハッタリである。
まだ問題解決の糸口は掴めていないし、どうすればいいのかもわからない。
だが、大事なのは今を乗り切ることだった。それに、会社にいる棺と力を合わせれば、乗り切れられるという確信が、東雲十三にはあった。
大ぼらを吹いた十三に対し、”ザキさん”は信用しきれない、という顔をしていた。
「……いや、しかしな……」
「ザキさん、実際どうなんですか? 二組の配信者が不審死してからユーザーは減りました? 広告主は? 撤退しようとする気配がありましたか?」
”ザキさん”は目をそらして黙りこむ。
かわりに、奥に控えていたスガヤが、挙手した。
「……それが、東雲さん! どういうワケかユーザーが増えているんです! 自殺動画によってアプリの知名度があがったせいか、アクセス数もぐんぐん伸びていて……。それに、何故か投稿も倍増してるんですよ!」
「……倍増? それは、どうして?」
十三に問われ、スガヤがPCを見ながら興奮気味に言った。
「ええと、二組の配信者が死んだのは、再生数の伸びなかったせいとか、ブックマークが少ないせいじゃないかってウワサが広がっているようです! アプリを削除する方ももちろんいますが、逆に削除すると呪われる、なんてウワサも広まっているらしく……! それらのウワサを信じて、チャンネルを削除せず、動画を増やしている方が多いようです!」
「今は根拠のないウワサが味方についてる状況ってワケか……。でもな、次のランキングが出た段階でまた死者が出たら、とうとう言い逃れできないぞ? そうなったらうちの社名に大きな傷がつく」
そう、神妙な顔で部下に告げる”ザキさん”に、十三は問いかけた。
「……ザキさん、次のランキングが発表されるのは?」
「明日の朝、5時です……それよりも、ランキングを非公開した方がいいのでは? 自殺者が選ばれるランキングが伏せられたら、助かるかも……」
「そうは思えねぇけどな」
その時、編集室から戻ってきたミケが、鋭く言った。
「外面のランキングを非公開にしたところで、この呪いが収まるとは思えない。おそらく、この”件”は……アプリの内部プログラムに寄生しているんだと思う。これはオレの経験則だけど、”件”ってのはウイルスと一緒なんだ。中のプログラムが生きていて、閲覧数と高評価によるランクがつけられるなら、”件”もそれを感知して標的を選ぶ。宿主であるアプリ自体を削除しても……別のアプリに移動するだけだと思う。次はもっと拡散力の強い媒体に」
「……それが……ウチの別のサービスになる可能性も……もちろんある、ってことだな」
「たぶんね」
眉根を寄せて黙り込む”ザキさん”に、十三は告げた。
「……ザキさん、もうこれしかありません。一度生まれた”件”は、アプリの稼働によらず動き続けると思われます。オレたちに時間をください。もし、また自殺者が出れば、アプリはサービス終了してヤードは賠償金を払います」
おい、という目でミケが見つめてきたが、十三は無視する。
そこまで言って、”ザキさん”がとうとう折れた。
「……わかりました。期限は、ランキングが更新される明日の5時。それまでに解決できなかったら、予告どおり契約は破棄、アプリを売ったカネは回収させてもらいますからね」
”ザキさん”が言った内容を、十三とミケが了承した。
もはや時間がない。
荷物をまとめ、十三とミケはすぐにnowhereのオフィスを後にする。
靴を履き揃えながら、十三は隣に立つミケに告げた。
「……ミケさん、今回は、労基法無視で働いてもらうよ」
「もちろんだ」
十三とミケは意思を合わせ、二人とも早足で駅へと向かった。
ランキング公開まで、あと五時間。
続きは明日夜公開します。




