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バッドランズ・グレイアウト/モブ社畜、呪物を売る裏社会企業に転職し社長(♂)に恋をした結果、屍人転生する  作者: 梅屋凹州
三章

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3章4話・4 ”視えるヒト”

「突然、悪かったな」


 中央線の某駅前ロータリーで合流したミケは、開口一番、神妙な面持ちで言った。


 いつもの刺繍入りの派手な開襟シャツではなく、無地の白いシャツ、黒のスラックス、革靴と、シンプルな装いだった。いつも耳やら腕を華美に飾っているアクセサリー類すらなく、手首に深い闇色の数珠をつけているだけだ。


 オシャレにこだわるミケにしては、珍しく地味な格好を見て、今がいかに深刻な事態か悟る十三だった。


「みなまで言うな」

 あえて、十三が冗談めかして言うと、ミケの固い表情が少し柔らかくなった。

 が、纏った緊張感は解けないまま、「歩きながら話すわ」と告げて、ミケは早速ロータリーから歩き出した。十三もそれについていく。


「──例の連続自殺の件で、とうとうアプリの運営会社に呼び出し、くらった。たぶん責任を追求される。オレひとりで切り抜けられる自信ないから、手伝って欲しい。巻き込んで、悪い、けど」

 ミケは、歩きながら端的に言う。十三を一瞥することもなく、早口で語る様子からは、ミケの隠しきれない焦りが滲んでいた。


「会社で起きたトラブルなら、一緒に対処するのは当たり前。遠慮すんなし」

 十三はミケを気遣いながら返答する。

 ミケはやはり、一瞥もくれないまま、「……ん」とだけ言った。聞き分けの良い子供のような返事。さては、照れていやがる。


 二人は運営会社までの短い道すがら、起きた事件について、整理することにした。


 ──アプリの登録者が起こした、不可解な連続自殺事件。

 状況は、あまりにも不自然だ。


 まず、第一の事件。

 配信者名”さっどまっくす”。動画配信サイトmetubeでも知られる、有名な心霊系配信者だ。


 男性、年齢は33歳。東京中野区在住で、同居家族はおらず一人暮らし。数年前まで自動車整備士をしていたが、配信業の収益が安定した現在は配信一本で暮らしている。


 ミケが洗った情報によれば、SNSで見るかぎり、”さっどまっくす”が何かに悩んでいた様子は見られなかったという。


 恋人は不在だが、十代の頃からハマっているオンラインゲームで出来た友人と長年の繋がりがあり、年に数回のオフ会を楽しみにしていたという。配信業で充分な蓄えがあり、カネや人間関係でも大きなトラブルはなかったようだ。


 自殺する原因がないのにも関わらず、”さっどまっくす”は配信中に投身自殺をした。

 まるで、自分の死を見てほしいと誇示するようなメッセージを残して。


 次に、第二の事件。


 飛び降りた配信者グループ、”炭酸ドーム”を名乗る五人グループのうち、四人が一斉に首を吊って死んだ事件だ。


 こちらの”炭酸ドーム”なるグループは、metubeで有名な男性四人組配信者”ジョーズ4”と、オカルト系ソロ配信者”牛タンスキー”が、アプリ参入に伴って新規に結成した5人グループだという。


 若者たちに知名度抜群でファンが多い”ジョーズ4”と、オカルトに詳しい”牛タンスキー”がチームを組むことで、アクセス数の増加と上位ランキングを狙ったものとみられる。


 しかし、不可解なことに”炭酸ドーム”のうち”ジョーズ4”は、揃って四人で北海道の某廃墟の中で、並んで首を吊って死んだ。その様子も、深夜に生配信されていたという──ハンガーに並んだような姿だった、と誰かのコメントが流れてきたのが印象的だった。


 ”ジョーズ4”の四人は、高校時代から同級生で、それぞれの生活の傍ら、配信業を行っていたらしい。いずれも親元で暮らす若者で、生活上の大きなトラブルは確認されていない。ちなみに、四人のうち誰も”さっどまっくす”と接点がないことも確認されている。


「……死ぬ理由のない人達が、アプリでランク入りした途端、自殺している。これって……」

 十三は顔をしかめ、呟いた。対するミケは表面上は、淡々と答える。


「アプリが原因。世間も運営側も、そう考えるだろうな。──運営は今のところ、平静さを取り繕ってる。でも内心じゃ、ウチに不良品売りつけられたと疑ってる。最低でも、契約は解除されて返金、場合によっちゃ、賠償請求される可能性もある」

「……運営会社の代表は、もともとミケさんの知り合いなんだよね?」

「あァ。会社に入る前からのな。そっからの流れで、ヤードに紹介したんだ。安定して取引実績も積んでたし、社長も信頼してる、優良な取引相手だった。だからバックれたくはない、んだけどよ……」


 ミケが重いため息を吐く。旗色は相当に悪いのだろう。隣を歩くミケの横顔からは、苛立ちと、無力感が伝わってきた。

 確かに、しくじった相手としては最悪だ。故にミケはプライドを捨てて、十三に助けを求めたのだろう、と理解した。


 十三は、ミケへの問いを重ねる。

「……今更になっちゃうけど、ミケさんがアプリを買い取った時は、ハングドマンに”査定”してもらったんだよね?」


 ヤードの商品は全て、仕入れ時にハングドマンがランク付けをしてから在庫入りをする決まりになっている。今回は社内の正規ルートではなく、ミケが独自に仕入れ、販売したルートではなかったが、それもミケはしっかり守っていた、と答える。


「あぁ。オレがアプリを買い付けた時は、ハングドマンは”件”としてのランクは圏外と評価したんだ。そりゃ、当然の話でさ、アプリってのは、あくまでプラットフォームだろ? 真新しい器みたいなモンだから、それ自体に呪いの力があるとは、全く考えなかった。それに、”うつっちゃうんです”のアプリを作ったSEのことも長年知ってるけど、ホラーブームに便乗しただけのミーハーなオタクで、”件”なんか扱おうとするヤツじゃねぇんだ。この騒動でビビってオレのことブロックして逃げ回りやがって、今すぐ確認出来ねぇけどな」

「……どこに原因があるのか、現状ではわからないのか……。難しい状況だね。ハングドマンの事前鑑定を先方に話したとして、果たして信じてもらえるか……。こっちに非がないことを、どう証明するかだね……」

「……あぁ。だから、オレがやってみるんだ」

「……え?」

「着いたぞ。このマンションの二階だ」

 意味深な口ぶりのミケが、ふいに立ち止まり、十三も合わせて足を止めた。


 中央線某駅前の、古マンション。

 その一室に、”うつっちゃうんです”アプリの運営会社、nowhere(ノーウェア)のオフィスがあるという。


 突然訪問してきた十三とミケを、小太りのギークっぽい社員が出迎え、案内してくれた。


 通された応接スペースでは、引っ詰め髪の男が、固い表情で二人を待ち受けていた。40代ぐらいの、いかにもベンチャー経営者らしいジャケットとトップスを合わせた服装の男。


 引っ詰め髪の男は立ち上がり、十三に視線を向けると、慇懃に一礼した。

「お待ちしてました。ヤマザキと申します。nowhereの代表やってます」

「あぁ──”ザキさん”。はじめまして、東雲十三と申します。こっちは……」

「えぇ。三池のことはよく知ってます。……まず、おかけください」

 言って、”ザキさん”は十三とミケにソファーに座るよう示した。


   向かい合って座った”ザキさん”は、単刀直入に言った。

「早速ですが、手短に話しましょう。……今回の二つの事故。ランキングが発表された直後に、ランクインした二組が飛び降り自殺している。偶然とは思えません。でも、私らはこれが”ホンモノ”だなんて聞いていなかった。まだ我々は、御社から買い上げた費用を売上として回収出来ていません。もしアプリに過失があったのなら、それなりの対応を取らなければならないと思っています」

「……はい。そちらについて、意義はありません」


 十三は言葉を選びながら、慎重に返答した。


 社長のいないこの場で、会社の不利益になることを勝手に口にしてはいけない。

 だが、もし商品に元から欠陥があったとしたら──会社の信用にかけて、欠陥商品を売りつけて知らん顔で逃げ切ることも出来ない。


 nowhereはミケの知り合いで、グレイブヤードのステークホルダーだ。粗末な扱いは出来ない。──いま十三は、ヤードにとって大きな、ギリギリの綱渡りをしていることを自覚していた。


「私らも、ヤードさんの素性については、よく承知しているつもりです。そのうえで、誠意をもって事態に対処してくれると信じてます」

 だが、幸いなことに”ザキさん”の口ぶりから、どうやら穏便に済ませたいことが窺えてきた。

 十三が「ありがとうございます」と頭を下げると、”ザキさん”はかぶりを振った。


「先に断っておきますが、そちらのバックにビビって弱腰になってるワケじゃありませんよ。こっちは、何よりも真相を知りたいと思ってます。なぜこんな事態になったのか、ヤードの商品には、今後もこういったリスクを孕んでいるのか、それを知らなければならない。再発防止策を取れなければ、今後の付き合いを考えさせてもらうことになりますんで。そこはご了承くださいね」

「──わかってる。だから、オレが来たんだ」

 それまで黙っていたミケが、突然口を開いた。


 ミケはいつもの不遜な態度のまま、”ザキさん”に告げた。

「見せてくれる? ザキさん。オレに、非公開にした二つの動画」

「……なるほどね。出不精のお前が、わざわざウチまで来たのは、そういうことか。頭下げるためだけに来たワケじゃないと思ってたけど……」

「そーゆーコト」

 二人の間で、意味深なやり取りが交わされる。


「???」

 話についていけない十三が訝しがると、ミケが、ごく軽い口調で言った。


「あ、シノにはまだ言ってなかったよな。オレ、視えるヒト」

「──へっ?」

「……あれ? 東雲さん存じ上げなかったんですか。てっきり会社(ヤード)の全員が知っていると……」

 ”ザキさん”に驚かれ、十三はますます意味がわからず混乱していると、ミケがあっけらかんとした様子で補足した。


「だーかーら、オレ、少し視えんの。幽霊。だから、動画にヘンなものが映ってないか、これから直接視てチェックするってハナシ」

「えっ! えっええっ!? うそでしょ!?」

 十三は心底驚いて声をあげた。


「東雲さん、三池はホラー界隈では結構有名なんですよ。ホンモノとされる霊能者何人ともコネクションを持ち、そのいずれからも認められた”視える系配信者”。心霊写真特集の鑑定では、ゲストの霊能者が指摘した内容と見事に一致してて、”伝説回”として有名になったんです」

 ”ザキさん”が説明する横で、当の本人のミケは照れくさいらしく黙っている。


「うそでしょ意外……! ただの口と態度の悪いチンピラだと思ってたのに……!」

「……。……ま、別にいいけどよ。じゃ、ザキさん、編集室借りますわ。こいつ(シノ)と二人にしてもらっていいスか?」

「あぁ。すぐ再生できるよう、スガに準備だけ手伝わせるよ」

「あざすー。じゃ、なんかわかったら、抜かりなく報告するんで」


 ミケに引きずられて、十三は機材が揃った別室に連れ込まれた。

続きは明日の夜更新します。

P-サイレンアニメ化しましたね。あれも序盤はなかなかのホラー展開でした。視えるヒトを知ってるヒトはどれぐらいいるんでしょう。

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