3章4話・3 ”生配信”
『えー。みなさんこんばんは。いつもご視聴してくださってありがとうございます。さっどまっくすです。配信見えてますかね?
えーボクは今、都内の某ビルにいます。えー、心スポじゃありません。十階建てぐらいの、普通のビルです。あっ、投げ銭ありがとうございますー。
ボクがいるのは普通の雑居ビル? 昭和に建てられた……なんか、ちゃんと施錠とかもされてないビルです。テナントとか、看板は残ってますが、今はどのお店さんも入ってない様子ですね。見えてますか?
正確に言うと、これから心スポになるビルらしいです。はい。はは……意味わからない? そのうちわかりますよ。
目的地、ですか。えーと、ボクはビルの屋上に向かってます。
眺めがいいもんでね。みなさんも見たいでしょう? 都会の夜景。
あ、はい、着きました。これ屋上の扉です。開けますねー。
いい風だ。まだ暑いけど、心地よい風です。見えますか? 見えますよね?
ええと、今日はここから配信します。よぉく見ててくださいね。
はい、屋上の柵です。赤く錆びてボロボロですねー。触ると……うわっ、汚い。なんかベタベタしたのくっついちゃった。はは。まぁもういいか。
今からここを乗り越えますよ、と。あ、大丈夫です大丈夫です。
風は強いですけど、見えてます? 縁にちゃんと足つけてますからね。
やー、なかなか。……怖いですね。ええ。でも、大丈夫です。
ええ、じゃあ。ここから飛び降りてみたいと思います。
はは。いい反応ですねー。「オイやめろ」、「シャレになってない」、「通報しました」……と。いや、でもいいですね。同接数どんどん増えていってますねー。みなさん、もっと見てください。
あ。パトカーの音。……本当に誰か呼んだんですか? 特定できた? はは、すごいねインターネット。
うん。でもいいです。みんなちゃんと見てくれたから。
ボクは──。ええと、なんか理由があって、飛び降ります。
えーと、言葉が出てこないな。あれ、なんでだっけ。なんか泣いてるし。なんだろう。あはは。
とにかく、ぼくは見てほしかったんですよね。父親とか、母親とか、学校の同級生、振られちゃったけど初恋の人、嫌いだった部活の顧問とか、色んな人に。
みんな見てくれてるかな。思い出してくれるといいな。──ぼくが、この世にいたこと。
じゃ、そういうことで──さようなら」
ふっ、と視点が動いた。それは空を一瞬、見上げ、次の瞬間、ビルの壁面を走っていた。
あまりに早く視界がスライドした。ごおっ、と聞こえたのは風を切る音。
数秒あって、ばちゃん、ごっ、と音がした。たっぷり水が入ったバケツをひっくり返したような音。そしてカメラが落ちた音だった。
地面に落ちたカメラが映したのは、仰向けに転がる、四肢がねじれ、臓物と脳漿をぶちまけた男の姿。
──アプリ・映っちゃうんですランク一位の配信者、”さっどまっくす”は、自らが飛び降りる様子をそうしてリアル配信した。
動画のコメントは荒れ、運営が非公開にするまで、再生数はアプリ内で一位を記録した。
同、朝。ニュースサイトに、飛び降り事件の記事がアップされていた。
いわく、東京都文京区の某ビルから転落した30代男性の死亡が確認された。警察では、事件と自殺両面で捜査を進めているとのこと。
「……どう思う」
出社したミケは、すぐさま十三を屋上に呼び寄せ、いの一番に尋ねた。
出社前から事態の連絡を受けていた十三は、神妙な顔になって尋ねる。
「……偶然? アプリとは、無関係でしょ」
「……そう、だよな」
さすがのミケの表情も固い。どうしたものか、判断しかねているという顔。
動画はすぐ非公開になってしまったため、詳細は確認できない。自分の意思で飛んだのか、誰かに飛べと言われたのか──十三は動画を一回しか見ていないが、同行者はいないように思った。他殺の線は薄い。事故にも見えなかった。ならば、やはり自殺か。
ただ、飛び降りる際の不可解な言動が、十三にはどうしても気になっていた。
見てほしい、注目してほしいと強調するかのような言動。まるで自分の死を、焼き付けてほしいかのように──。
十三はスマホを取り出しSNSを検めた。有名な配信者の飛び降り動画はネット上で話題になっており、一部有名サイトでは、ずっとトレンドにあがっている。
「……SNSでも荒れてるね。有名なオカルト系配信者の不審死、飛び降り……。”映っちゃうんです”が原因、って論調もなくはないけど」
「……現段階では、なんとも言えねぇよな。アプリはオレたちが管理してるワケじゃねぇ。運営会社がアプリをストアから消せば、広告収入も止まっちまう。やめろなんて……簡単には言えるワケねぇし」
「……まぁ、そうだね」
スッキリしない思いを抱えたまま、十三はタバコに火を点けた。
行き過ぎた自己顕示欲が招いた、不幸な事故。警察もそう片付けるだろう。事態が収まるまで、様子を見る、ということでミケと意見を合わせた。まだ、棺にも報告する必要はない。不可解な自殺、ということで済めばいいと、十三もミケも思っていた。
3日後に、次のランキングが発表されるまでは。
次のランキング。
ランキング上位に入ったグループの配信者四人が、廃墟での首吊り動画をアップロードした。
出勤前、SNSのトレンドでその事態を知った十三のもとに、ミケから連絡が入った。
『至急:出社前にここ来れる? 社長には話しつけといたから』
端的なメッセージには、中央線の駅前が指定されていた。
一日おやすみしまして、次は土曜日に掲載します。




