3章4話・2
「映っちゃうんです……?」
十三はミケから、売買契約に成功したというアプリの説明を聞いた。
その名も、「映っちゃうんです」。いかにもインチキ臭い名前のアプリだが、オカルト界隈ではすでに話題になっているようで、アプリストアの急上昇ランキングにも入っている。
”映っちゃうんです”は、オカルト系の巨大ポータルサイトで、怪談を投稿したり、心霊スポット動画探検をアップロードをするとポイントが貰える仕組みのようだ。溜まったポイントを電子マネーに交換できるということで注目を集め、若者を中心に評判を呼んでいる。
ミケは自慢げに説明した。
「リリースして5日で、もうすでに一万ダウンロード突破。インフルエンサーが拡散してくれたから、来週にはもっと売れる予定」
「え、これミケさんが作ったの?」
「オレが作るワケねーだろ。知り合いにオカルト好きのSEがいて、前にそいつが買ってくれって営業かけてきてたの、思い出したんだわ。んで、社長から承認もらって、ヤードで買い取って、運営してくれる会社に転売したってワケ。で、中間で入るうちの利益がこんぐらい」
「ほへ〜〜。そりゃすごい」
十三は素直に称賛した。
ミケは嬉しそうに己の成果を誇る。
「開発と配信の間に入って、仲介手数料でこの金額。さらにアプリのダウンロードが増えれば、さらに手数料で数%貰える計算。ボロくね? 矢馬お得意のマージン商売、大成功」
「やるねえ〜〜。……ねぇミケさん、これさ、おんなじようなこと続けられないかな?」
「もちろん、色々考えてる。今回だけで終わらせるつもりはねぇ。オレの武器は情報だろ? ”件”だけチマチマ売ってたって、たいした利益は得られないんだから、こういう仲介商売にシフトしてくのもアリかなって」
「うんうん。いいんじゃない?」
「よしっ手応え!」
そう言って、ミケはガッツポーズをした。こういうとき、この男は無邪気で良い顔をする。
──かつて棺が、ミケを悪いヤツじゃないと庇っていた理由を、十三はようやく理解できた。
ミケはゲームに夢中になる子供のように、集中力と熱意を持って仕事にあたれる男だ。
ただ、冷笑気質でひねくれているし、火が点くまで時間がかかる。だから上席がキチンと管理しなければならない。
ミケの能力はヤードに必要だ。
そう、改めて評価した十三は、手のかかる同僚をたまには労おうと思った。
「じゃあ、頑張ったミケさんのために、今日はオレのおごりで呑もうか」
「おっ! マジ!? さっすがー」
「何がいい?」
「恵比寿のステーキハウス。三つ星取ったとこ」
「調子乗んな。焼き鳥でいいよね」
「ういーやったー」
十三とミケは、今後の営業方針を詰めるべく、会社近くの焼き鳥屋に二人で飲みにいった。
その日、二人は正午間際まで飲み明かした。
自らの力で、大きな利益を掴んだミケは、終始ご機嫌だった。
当然だろう。氷河期ならマンモスを倒したようなもの、戦国時代なら大将首を獲ったようなものなのだ。隙あらばミケはマウントを取り武勇伝を語ろうとするが、今日ばかりは許してやろうと思った。
十三は、酩酊した頭でぼんやりと、オレも頑張らないとな、と気を引き締めた。
同僚が成果をあげたのならば、自分もそれに続きたい。給料や、功績のためではなく、ただ自分がそうしたいからそうしたいと思った。まさか半グレの会社で、ここまでやりがいを感じるとは、予想していなかったが。
サラリーマンの功名心ってヤツなのかな、と十三は思いながら、何杯目になるかわからないビールを胃に流した。
翌日から、あらためて気合を入れて仕事に励む十三とミケのもとに。
そのニュースは、飛び込んできた。
「映っちゃうんです」アプリのランキングで一位を取った人物が──配信中に飛び降り自殺をしたという。
おまたせしました。ここからがホラーの始まりです。続きは明日更新します。




