3章3話・4
続きは明日の夜公開します。
そして、休み明け。
「おはようございます」
十三が出社して机にカバンを置くなり、隣のミケが挨拶もせずに、「シノー、アレ出来た?」と声をかけてきた。
十三はカバンから荷物を取り出しながら答える。
「あぁ、打ち合わせた資料でしょ? 昨日作った。社長にこの後プレゼンする予定だけど、先にミケさんチェックする?」
「もち。メールで送って」
「もう送ってる。今日の20時13分。メールフォルダのなか見てみて」
「おー」
早速、ミケは十三が送ったメールを検めている。
ミケはしばらくの間、真剣な眼差しで資料を眺めていたが、
「……んー。まぁまぁじゃね。あえていうならレイアウトが古臭くてダサい」
「言ってろ。じゃ、中身はOKってことね?」
「ん」
「よっしゃ。んじゃー社長ンとこに行きますか」
十三とミケは二人揃って席を立つ。
その様子を見ていた”とら”とチカは、唖然とした様子で話し合っている。
”とら”が鋭い目を丸くして「……いわゆるところの……猿も木から落ちる、ってヤツか……?」と呟いている。チカに「とらちゃん、それなんか意味違くない?」と突っ込まれると、「……じゃあ……二階から目薬……ですか?」と”とら”が絞り出すが、チカに「とらちゃん、わかんないなら無理して言わなくていいんだよ」と優しく諭されている。
二人の先輩に見守られながら、十三は社長室の扉をノックして告げる。
「……社長、失礼します。始業前ですが、いまお時間よろしいですか?」
中から「いいよ」と返事があったので、十三は「失礼します」と一声かけて、扉を開けた。
仕事前に趣味の油絵を描いていたらしい棺は、共に現れた十三とミケを一瞥し、目を大きくして二度見すると、宇宙人でも見つけたように飛びあがって驚いた。
「うわッ! めずらしっ! なに二人揃って!」
「あの〜〜実は、社長に見ていただきたい資料がございましてぇ。ミケさんと二人で作ったものなんですけど……。先ほど営業フォルダに格納したのですが、ぜひ見ていただけないかと思いまして」
「資料? なんの?」
「プレゼン。営業資料ってヤツっす」
ミケが言うと、棺は信じられない、という顔で十三とミケの顔を見比べた。
「……プレゼ……お前たち二人の共作で?」
「まぁ」「ッス」
呆然とした顔の棺は、目を瞬かせると、
「……空から槍が降ってきそうだ」
珍しく冗談を言いつつ、棺はデスクについて自身のPCを開いた。
「わかった。読んでみる。ちょっと待ってて」
まだ驚きを隠せない様子の棺だったが、営業資料を読む眼差しは、さすがに真剣だった。
十三とミケは社長室のソファーに腰を下ろし、社長の返答を待つ。
十分ほど経って、PC画面から目を離した棺は、いつもの調子に戻っていた。
「──意図は、わかった。お前らの目論見も伝わってきた。でも……」
棺は、何と言おうか迷っている、という様子で、渋い顔をしている。
察した十三は、棺に尋ねた。
「……やっぱり……社長的には、NGでしたか? 矢馬さんに内緒で、勝手に販路拡大するの……」
「いや……いい。会社的には少し、……難しいところだけど、おれ個人としてはやってみたい試みではある。……早速、動いてもらっていいか?」
十三はミケと顔を見合わせた。
まさかこの場でOKを貰えるとは思えなかったのだ。
「ただし、条件が一つ」
喜びかけたところで、棺が口を挟む。
「今回の件について、おれとチカ、とらは手伝えない。特にとらは、一切関わらせたくない。あいつの前で話題にするのも控えてほしい」
「……それは、どうして?」
「にーさんは矢馬の”兄弟”だからだよ」ミケがめんどくさそうに言った。「でしょ? 社長」
棺は首肯して言う。
「そう。矢馬ととらは、兄弟盃を交わしてる間柄だ。とらがヤードに在籍してるのも、矢馬の命令。だからとらのなかでは、おれより、矢馬の命令の方が優先度が高い」
「えええ、そうなんですか……」
すっかり”とら”と仲良くなった気でいた十三にとってはショックだったが、納得した部分もあった。
だから、前回の飲み会の時、チカは”とら”の同席を避けたワケだ。
「そうなんだ。もし、矢馬に何か問い正されたら、とらは報告しなきゃならない義務がある。嘘をついたり、誤魔化したりしたら、かえってとんでもない目に合わされるからな。今回はあくまで、会社が進めたプロジェクトじゃなく、お前たちが勝手に進めたっていうテイにしたい。矢馬にバレたら、なんやかんや難癖つけて高額な手数料要求されるからな。お前らだけでこのスキームをやり遂げて、着実に利益をあげてもらう」
「はいっ」「うぃーす」
十三とミケがそれぞれ返事をすると、棺は頷く。
「じゃあ、頼む。──くれぐれも、無理のない範囲で頼むぞ」




