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バッドランズ・グレイアウト/モブ社畜、呪物を売る裏社会企業に転職し社長(♂)に恋をした結果、屍人転生する  作者: 梅屋凹州
三章

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3章1話・1 若手のやる気を応援します

第三章が始まりました。ここから連日、夜に投下していきます。

三章完結まで楽しんで読んでくださると幸いです。よろしくお願いします。

 6月、中旬。


 6月ですでに気温は30℃超え。猛暑ならぬ酷暑は9月まで続く予想だという。


 どうあがいても絶望の夏が迫って来ているが、さりとて社会人が仕事から逃れる術はない。

 サラリーマンとは国家の家畜であり、社会の奴隷であり、企業の使用人だからである。


 グレイブヤードとて、社会の末端にある営利企業である以上は、仕事と通勤から逃れられぬ宿命にあるのだ。


 すでに深夜の外界は、反吐を吐きそうなほど暑いが、エアコンをガンガンかけて冷やしているはずのヤードのオフィスも、色んな意味で熱気に満ちていた。


「だから甘ェんだって。お前マジ黙って」「うッせーんだわ文句言うより手動かせ」「黙れ。これ以上グダグダ喋ったら今後取引ナシね。以上」

 三池(みいけ)柘榴(ざくろ)は単価アップを要求してくる情報元にとがなり立て、


「はい、こちら……。はぁ、ですから社長は留守にしておりましてぇ」「あのう、お名前を頂戴してよろしいですかあ?」「以前もお電話頂いたと思うんですけど、うちはそういった商品は扱っておりませんので……はい、はい、失礼しまーす」

 清水(しみず)千華(ちか)は湿気にイライラしながら数分置きにかかってくる営業電話と戦い、


「暑い」「無理。汗かきたくない。ベタつく。気持ち悪い」「おれ部屋から出ねぇから、用あるとき社長室きて。じゃ」

 社長の黒澤(くろさわ)棺(ひつぎ)は十八℃ぐらいに設定したエアコンの効いた社長室に引きこもり、


「……あのよう……シノ……あのな……」

 宗谷(そうや)寅(とら)は買ったばかりの六ヶ月分の通勤定期券を失くした。


 一方、カタギで平和主義で常識人の東雲(しののめ)十三(じゅうぞう)は、5月末の月次処理が終わった瞬間、”上”から共有された販売目標のシートを鬼の形相で睨みつけていた。


 曰く──本格的な夏を前に、世間はホラーブームを迎える。”件”の需要の高まりが予想されることから、増益が見込めそうなので積極的に売り上げろ云々。一方、”件”の仕入れが減ったから新しい仕入れ先を見つけるよう云々。単価の安い客よりも良客に高値で売りつけることを優先とし云々。


「クソくらえだ!」


 無理難題を押し付けられた十三は、猿のように叫び暴れまわり書類を投げつけ、ぐしゃぐしゃに潰して便所にでも流して、

 ──やりたい気持ちはあったが、先輩たちに見られている手前、そんなお下品なことは出来ない。


 涼しい顔で「承知しました努力します今後ともよろしくお願いいたします」などと心にも思っていないことを並べたてメールを返信し、仕事が終わった途端に「クソがよ!」と喚き散らかしては、チカに「そこ、うるさいよー」と叱られていた。


 最近の十三の愚痴の聞き役はすっかり仲良くなった”とら”で、誰よりもカタギから遠い見かけの男は、「まぁまぁ、これでも握って落ち着け……。心が平穏になるから……。マインドフルネスってヤツだ……」とノラのスクイーズをプレゼントしてきた。


 そんなマスコット教の宣教師のような”とら”が、ある日の”夜朝礼”で、こう言った。


「ヤマさんから呼び出しがあったのでぇ……今から……行って……ハァ……きます……」

 ため息まじりのその言葉は、途中からしおしおと力がなくなっていく。


 一瞬、しん、とヤードが沈黙に包まれた。


 ヤマさん──社外顧問。ヤードでは、社長とは別枠の権力者の名前である。

 ヤードの社内が、重苦しい沈黙に包まれている。


 誰も口を開こうとしないうちに、続けて”とら”はボソボソと言った。

「シノも連れてこいと言われましたんでぇ……連れて行きます……ハァ」

「エッ」

 急にご指名を受けて飛び上がる十三。


 それとは対照的に、チカの眉間にはシワが寄り、ミケは硬直し、棺が重いため息をついた。

 そんな上司と先輩たちの様子を眺めた十三は、バックレたい気持ちでいっぱいになった。


「ついにか……まぁ、いつかは挨拶させなきゃとは思ってたけど……」

 眉間をシワに寄せた棺は、頑張ってゲテモノを呑みくだしました、という顔で、やがて十三に向き直って言った。


「シノ、悪いが今回は誰もかばえない。正念場だと思ってなんとかうまくやりすごしてくれ」

「はい、社長。ご心配には及びません。なんだか胃が痛くなってきましたが行ってきます」

「うん、頼むな。辛いだろうけど、精一杯頑張るんだぞ」

 まるで戦地にでも行くような激励を棺から受ける十三。


 ──どうやら、今回はマジの案件らしい。


 最近仕事にも慣れ、たるんでいた気持ちを十三が頑張って切り替えていると、社用車のキーを持った”とら”が声をかけた。


「シノ、先に車庫に行ってるから、準備が出来たら下に降りてきてくれ……。俺がヤマさんのとこまで運転するからよ……。はぁ……」

「わかりました、兄さん」


 鬱々とした様子でオフィスを出ていく”とら”を見送って、十三はビジネスバッグに荷物をまとめた。


 貴重品と、タブレットPC。名刺は不要だろうが、念のため持っていく。それに忘れちゃいけない一服用のタバコとライター。

 バッグに荷物をまとめ終わったとき、チカが囁いた。


「シノくん、気ィ抜いちゃあダメよ」

 いつになく真剣なチカの声が聞こえて、思わず顔を上げる十三。


 いつも飄々としているチカは、十三に視線を送ってもなかった。


 感情の色が消えた顔で、淡々とPCに向かっている。


 愛嬌を差し引いたチカは、形容しがたい威圧感を放っていた。

 圧をかける時の”とら”とはまた異なる、威圧の色。たとえば、肉食獣が、こちらへ飛びかかるスキを窺っているような不気味さ。


 不穏さを感じながら、チカの警告を胸にしまい、十三は車庫で待っている”とら”の元へ向かった。


 オフィスを出る途中、棺が心配そうに見つめていたのが、十三は妙に気がかりだった。


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