2話・4
次回は今週末に更新予定です。ファミレス、行こうぜ。
しかし。
村までの道中。十三はすでに、困難にぶち当たっていた。
「……」
「……」
会話がない。
助手席に乗った”とら”との間には、重苦しい雰囲気が漂っていたのである。
会社を出発して、約30分。
東雲十三は、社用車を北西の方角へと走らせていた。
現在、社用車は八王子付近を走行中。まだ東京だというのに、都会の喧騒にはほど遠く、夜道は闇に包まれて薄暗くなってしまっている。ホラー好きの性で、こういう時、等間隔に配置された街灯の下に、なにかいるのではないかとつい妄想してしまう十三であった。
助手的には”とら”が座っていて、こちらは窓枠に肘をつき、外を眺めていた。
体格の良い”とら”が助手席に押し込められると、いかにも窮屈そうだ。シートベルトがたくましい胸筋に食い込んでいる。
ーー”とら”が何を考えているのか、今の十三には全く知れない。
”とら”は無駄口を利かないこともあって、社内の沈黙が一層、辛く感じた。
ーー気まずい沈黙、だっけ。こういう場面、なんかの映画で見たな。こういうとき、どうしたらいいんだっけ。
悩んだ十三だったが、元営業マンであるという誇りを胸に、どうにかこうにか話をしてみることにした。
「あの、とらさん」
「ん?」
「狭くないですか? その、助手席……」
「狭いよ……」
「どっかに車停めて、後部座席に乗り換えます?」
「そこまでしなくていい……。いつも運転席か助手席だから、後ろは落ち着かなくてな……」
「そうですか……」
ここでまた、会話が止まる。
ーー気まじぃ〜〜〜。
内心焦りまくっている十三が、次の話題を必死で探していたとき。
「なぁ、シノ……」
今後は、”とら”の方から声をかけてきた。
「はっ、はい!」
「運転疲れるだろ……。夜は、特に……」
「はっ、……はぁ……。まぁ……」
「お茶、飲め……緑茶は身体にいいらしい……」
重低音には似つかわしくない、気遣わしげな言葉をかけつつ、”とら”はお茶のペットボトルを差し出してきた。丁寧なことにキャップまで開けてくれている。
「ありがとうございます……っ」
十三は片手で受け取り、ハンドル操作しながら一口飲んだ。一般的な緑茶より味が濃くて後味が苦いヤツだ。
「ごちそうさまです。これ、いい値段するヤツですよね……?」
「あァ……特定保健がどうのこうの言うヤツだ……。いっつも社長用にハコで買い置きしてるんだが、ぜんぜん飲んでねぇから持ってきた……」
「社長に? とらさんが?」
「社長、あのとおりもやしっ子だろ……。季節の変わり目によく風邪引くから、予防に飲ませてる……」
「……。……前から思ってたんですけど、とらさんって、お世話好きですよね……?」
「そうかな……ずっと飼育係だったからな……小学校のとき……」
どうやら”とら”にとって棺は小動物と同じらしい。
社長なのにな、と思ったところで、ふと、十三には二人の関係性が未だに見えてこないことに気づいた。
棺はまだ二十歳そこそこだが社長で、”とら”は年上だが部下。そのわりに、”とら”とチカーー指のない、だーーは、ずいぶん棺に遠慮がないように思える。
この人たちの関係性って、一体なんなんだろう。
そう、ぼんやりと十三が思考を巡らせていると、意外にも、”とら”から口を開いた。
「……シノは、ずいぶん社長に気にかけてもらってるな……」
「そう……ですか?」
「あぁ……。ミケにもそうだけど……。やっぱり、カタギ相手だと安心するのかもな……」
そうですかね、といつものクセで相槌を打とうとした十三だったが、
話の節々で出てくる、カタギという”そっち”系のワードに、どうしても引っかかっていた。
この機会だ、と十三は覚悟を決めた。
”とら”に、常々思っていた疑問を聞いてみることにした。
「……社長、あんなに若いのに、”そっち”なんですよね。どうして……」
だが、
「知らなくていい」
そう、”とら”に一蹴される。
「あんまりキレイな世界じゃ、ねェからよ……。お前は……こっち側には、踏み込んでくるな……」
心なしか硬い口調で、追い打ちまでかけられる。
「……はい」
ーーと、十三は一旦、返事はしたものの。
正直、納得は出来ず、ふてくされたような言い方になってしまう。
「悪ぃな」
”とら”も十三の様子を察したのか、詫びをいれてくる。十三は素早く首を振った。
「いえ」
「何もお前を仲間外れにしようってんじゃあないんだ……」
「わかってます」
「お詫びに……そうだ。メシ、おごるよ……」
そう言って、”とら”が前方を指差した。
道路沿いに、煌々と光る七色の明かりが見えた。全国展開しているファミリーレストランのネオン看板だ。”とら”はそこを指さし、仏頂面に似合わない実にカジュアルなセリフを放った。
「ファミレス、いこうぜ……」




