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バッドランズ・グレイアウト  作者: 梅屋凹州
二章

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19/26

2話・4

次回は今週末に更新予定です。ファミレス、行こうぜ。

 しかし。


 村までの道中。十三はすでに、困難にぶち当たっていた。


「……」

「……」


 会話がない。


 助手席に乗った”とら”との間には、重苦しい雰囲気が漂っていたのである。


 会社を出発して、約30分。

 東雲十三は、社用車を北西の方角へと走らせていた。


 現在、社用車は八王子付近を走行中。まだ東京だというのに、都会の喧騒にはほど遠く、夜道は闇に包まれて薄暗くなってしまっている。ホラー好きの(サガ)で、こういう時、等間隔に配置された街灯の下に、()()()いるのではないかとつい妄想してしまう十三であった。


 助手的には”とら”が座っていて、こちらは窓枠に肘をつき、外を眺めていた。

 体格の良い”とら”が助手席に押し込められると、いかにも窮屈そうだ。シートベルトがたくましい胸筋に食い込んでいる。


 ーー”とら”が何を考えているのか、今の十三には全く知れない。

 ”とら”は無駄口を利かないこともあって、社内の沈黙が一層、辛く感じた。


 ーー気まずい沈黙、だっけ。こういう場面、なんかの映画で見たな。こういうとき、どうしたらいいんだっけ。

 悩んだ十三だったが、元営業マンであるという誇りを胸に、どうにかこうにか話をしてみることにした。


「あの、とらさん」

「ん?」

「狭くないですか? その、助手席……」

「狭いよ……」

「どっかに車停めて、後部座席に乗り換えます?」

「そこまでしなくていい……。いつも運転席か助手席だから、後ろは落ち着かなくてな……」

「そうですか……」


 ここでまた、会話が止まる。

 ーー気まじぃ〜〜〜。

 内心焦りまくっている十三が、次の話題を必死で探していたとき。


「なぁ、シノ……」

 今後は、”とら”の方から声をかけてきた。

「はっ、はい!」

「運転疲れるだろ……。夜は、特に……」

「はっ、……はぁ……。まぁ……」

「お茶、飲め……緑茶は身体にいいらしい……」


 重低音には似つかわしくない、気遣わしげな言葉をかけつつ、”とら”はお茶のペットボトルを差し出してきた。丁寧なことにキャップまで開けてくれている。


「ありがとうございます……っ」

 十三は片手で受け取り、ハンドル操作しながら一口飲んだ。一般的な緑茶より味が濃くて後味が苦いヤツだ。


「ごちそうさまです。これ、いい値段するヤツですよね……?」

「あァ……特定保健がどうのこうの言うヤツだ……。いっつも社長用にハコで買い置きしてるんだが、ぜんぜん飲んでねぇから持ってきた……」

「社長に? とらさんが?」

「社長、あのとおりもやしっ子だろ……。季節の変わり目によく風邪引くから、予防に飲ませてる……」

「……。……前から思ってたんですけど、とらさんって、お世話好きですよね……?」

「そうかな……ずっと飼育係だったからな……小学校のとき……」

 どうやら”とら”にとって棺は小動物と同じらしい。

 社長なのにな、と思ったところで、ふと、十三には二人の関係性が未だに見えてこないことに気づいた。


 棺はまだ二十歳そこそこだが社長で、”とら”は年上だが部下。そのわりに、”とら”とチカーー指のない、だーーは、ずいぶん棺に遠慮がないように思える。


 この人たちの関係性って、一体なんなんだろう。

 そう、ぼんやりと十三が思考を巡らせていると、意外にも、”とら”から口を開いた。


「……シノは、ずいぶん社長に気にかけてもらってるな……」

「そう……ですか?」

「あぁ……。ミケにもそうだけど……。やっぱり、カタギ相手だと安心するのかもな……」


 そうですかね、といつものクセで相槌を打とうとした十三だったが、

 話の節々で出てくる、カタギという”そっち”系のワードに、どうしても引っかかっていた。


 この機会だ、と十三は覚悟を決めた。

 ”とら”に、常々思っていた疑問を聞いてみることにした。


「……社長、あんなに若いのに、”そっち”なんですよね。どうして……」


 だが、

「知らなくていい」

 そう、”とら”に一蹴される。


「あんまりキレイな世界じゃ、ねェからよ……。お前は……こっち側には、踏み込んでくるな……」

 心なしか硬い口調で、追い打ちまでかけられる。

「……はい」

 ーーと、十三は一旦、返事はしたものの。

 正直、納得は出来ず、ふてくされたような言い方になってしまう。


「悪ぃな」

 ”とら”も十三の様子を察したのか、詫びをいれてくる。十三は素早く首を振った。

「いえ」

「何もお前を仲間外れにしようってんじゃあないんだ……」

「わかってます」

「お詫びに……そうだ。メシ、おごるよ……」

 そう言って、”とら”が前方を指差した。


 道路沿いに、煌々と光る七色の明かりが見えた。全国展開しているファミリーレストランのネオン看板だ。”とら”はそこを指さし、仏頂面に似合わない実にカジュアルなセリフを放った。


「ファミレス、いこうぜ……」

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