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バッドランズ・グレイアウト  作者: 梅屋凹州
二章

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18/29

2話・3

次は今週中に更新予定です。

「とら、シノ。明日から、出張に行ってもらう」

 昼休憩のあと、十三は”とら”と共に、オフィスの隅にある、衝立で区切られた応接室に呼び出されていた。


 呼びつけた棺は、手持ちのノートPCと繋げたモニターに、地図を映していた。

 そこに示されていたのは、会社から北西方面、関東地方の山間にある、小さな集落だった。


「場所はここ。こっから車で三時間ぐらい行ったところにある、重徳寺(じゅうとくじ)って寺だ」

「! そこ……聞いたことあります! 人形寺って呼ばれてるあの寺ですよね!」

 十三も、その寺の名には聞き覚えがあった。


 関東某県の山間部にあるという、重徳寺。そこの住職は、オカルト界隈では有名な人物だった。


 六王子(ろくおうじ)禅宿(ぜんしゅく)。重徳寺の住職にして、有名なオカルト系動画配信者だ。


 仕事柄、オカルトに造詣が深いことを活かして、数年前から自身のチャンネルを持ち、定期的に心霊系動画を配信している。チャンネル登録者数、再生数とも、オカルト界隈ではかなり上位に位置していたはずと十三は記憶している。

 人脈も広いようで、様々な動画配信者のチャンネルにも多数ゲスト出演していたはずだ。


 棺は頷いた。

「そう、その寺。坊さんの六王子ンとこには、霊障に悩んでいる全国各地のリスナーから、供養してほしいと”件”が集まってくる。特に人形やぬいぐるみが大量に送られてくることから、オカルトマニアたちから人形寺と呼ばれるようになった。ーーこの坊さんから、ヤードは定期的に”件”を買い取ってた」

「……坊さんが、供養のためって人から預かった”件”の人形を、ウチに横流しにしてたんですか? それはまた……」

「商売上手な坊さんだよなぁ……」

 ”とら”があまりにもズレたコメントをしたが、十三は無理やり笑顔をつくってスルーを決め込んだ。ツッコんでいたらキリがない。


 同じく、苦虫を噛み潰したエキスが喉に流れ込んできて吐き気を催しているとでも言いたげな表情の棺が、説明を続ける。

「……それが、ここ二ヶ月ぐらい、”件”の納品が滞っててな。ミケが坊さんと定期的に連絡を取ってたんだが、それも一週間前からスルーされるようになった。()()()()()()()()()()()()、話を聞いてみたくなってな。おれたち三人で、直接現地に行こうと思ったってワケだ」

「三人……ミケさんは行かないんですか?」

「ミケは忙しいからな。それに、こういう時はとらを連れてった方が話が早ェ」

 十三は”とら”の横顔をチラリと見あげた。


 身がすくんでしまうほどの威圧的な風貌。据わった目つき。世紀末覇者のような体格。

 圧力をかけるのに”とら”以上の適任はいないだろう。口を開かなければ、の話だが。


「ーーなるほど。納得しました、社長」

「うん。とらも、それでいいな」

「勿論……。俺の得意分野ですから……」

 ”とら”の同意が得られたところで、十三は疑問に思っていたことを棺に問うた。


「とらさんが行くのはわかりましたが……社長も、ご同行されるんですか? 忙しいんじゃ……」

「あぁ。お前ら初めて組むだろ。心配だし、これはシノの研修も兼ねてるから」

「社長〜〜」

 棺は十三を心配してくれてるのだ。なんと嬉しい話だろうか。社会人になって、いや生まれてから今まで、こんなにヒトに心配されたのは初めてだった。


 十三がえびす顔になって感激していたとき、

「よっ」

 突然、衝立の向こうから、チカがひょっこりと顔を出した。


「チカさん」

「お邪魔するよー」

 何をするかと思えば。


 チカはいきなり手を伸ばすと、ソファに腰かけていた棺の肘あたりを、軽く指で押した。すると、

「イッッデ!!!」

 途端、叫んだ棺が顔を歪めて悶絶している。

「だっ、だっ、大丈夫ですか社長!」


 突如として凶行に走ったチカはニヤニヤと笑っている。

「やっぱりー。なァんか変だと思ったのよね。社長、怪我してるじゃなーい」

「怪我!?」「怪我……?」

 十三と”とら”が同時に驚いた。


「一週間ぐらい前からね。なーんか庇ってるカンジだったもんね。どっかで痛めたんでしょ?」

「一週間前!? ……まさか、あの時ですかァ?!」

 十三の疑問に、渋面をつくったままの棺が答える。


「……オークション会場で、でっかい銃、打っただろ……。あん時に痛めたんだよ……」

「じゃ、じゃあ、ずっと怪我したまま仕事してたんですか!?」

「細っこいクセにカッコつけるから……」

「うるっせーな……! すぐ治ると思ってたんだよ!」

 ”とら”に反論する棺だったが、それ以上言葉を重ねる気力もないようだった。チカに負傷している箇所を突かれたのがよほど痛かったようで、「〜〜〜……っぅ……」と腕をかかえてうずくまっている。チカがその様子を見て言う。

「あ〜スジでも痛めてんのかな。この調子じゃ現場はやめといた方がいいねー。社長はあたしたちと留守番しましょ」

 チカに言われるが、棺は「勝手に決めんな……」と唸って頷こうとはしない。


 その姿に、十三は保護欲がムクムクと湧き上がった。

「社長……! オレ、だいじょうぶです! とらさんと二人で行ってきますよ!」

「シノ……ホントか? 大丈夫なのか? こいつだぞ? ”とら”と二人なんだぞ?」

「なんでそんなに念押しするんですか……」

 眉をひそめている”とら”に、十三は熱く語った。

「大丈夫です! 自分たちやれます! ねっ”とら”さん!」

「ん……? うん……」

「大丈夫か? 本当に……」

 心配する棺とは対象的に、東雲十三はやる気に満ちあふれていた。

「大丈夫ですッ! お任せくださいッ!」


 社長のためならはりきれる。どんな困難でも乗り越えられると思った。いや、乗り越えなければならなかった。例え、指先ひとつでノックダウンされてしまいそうな強面の先輩と二人きりでも。


「うん……そこまで言うならわかった。頼むぞシノ」

「ハイッ!」

 こうして、十三は初めての出張を、宗谷寅と二人きりで向かうことになったのだった。

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