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バッドランズ・グレイアウト/モブ社畜、呪物を売る裏社会企業に転職し社長(♂)に恋をした結果、屍人転生する  作者: 梅屋凹州
一章

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13/67

1章3話・3

 ──ついに、”本物”が現れた。


 男は、身の丈180は雄に超える、大男だった。黒スーツと開襟シャツに身を包んだ、今日びハリウッドでも見かけない、筋骨隆々の厚みのある身体。まるでインドのアクションスターだ。


 黒髪を後ろに撫でつけた、”いかにもその筋”の風貌。全身が黒社会の人間ですと自己紹介しているような男の年齢は、おそらく三十代前半といったところだろうか。


 彫りが深くてやや面長、眉間に刻まれたシワから、強面な印象を与えるが、涙袋と大きな黒目のせいで、剣呑なだけでないどこか愛嬌を感じさせる。まるで昭和の二枚目役者が演じる、裏社会の人間のようだと十三は思った。


 任侠映画から飛び出してきたような出で立ちの偉丈夫が、十三を珍獣でも見るかのように、胡乱げに見下ろしている。


「あっ、あっ、あのっ」


 ──でかいでかいでかい! 怖い怖い怖い!


 十三の全身に警戒と緊張が走っていた。初対面の人と話すのは営業で慣れっこなはずなのに、目の前の男を前に、今の十三は、冷や汗をかくばかりで何も言葉が出てこなかった。


 十三の混乱を察してか、”社長”が口を開いた。


「シノ、こっちは”とら”。おれの部下で、オマエからすれば先輩ってことになるかな」

「せ、せ、せんぱいっ!?」


 ”アニキ”とか、若頭の間違いではないのか。


 極めて通俗的な呼称で”社長”に紹介された”とら”は、すっと無言で十三に手を出してきた。恐ろしく厚い手のひら。この手でビンタ一発でもされたら、十三の身体はきりもみ回転しながら吹き飛んでしまうだろう。


「ヒッ」


 反射的に十三の肩が縮こまれる。見かねた”社長”が口を挟んだ。


「いちいち怯えるな。とらはこんなナリだが、別にオマエを食ったりしねぇよ」

「人肉……食べたこと、ないですねェ……。まだ……」


 ”とら”が口を挟む。肉食獣の唸り声のような重低音。


「まままま、まだ!? これからも、ご予定はない、ですよね……?」

「……」


 無言。


「フフ……」

 と思いきや、”とら”は肩を震わせて笑っている。「おもしれェおニイちゃんだな……」その笑う様すら猛獣が飛びかかる前の慈悲の眼差しに見えた。

 怖い。超こわい。十三は震えあがっていた。


「まァ、飲みものでも頼めや……」


 そう言って”とら”が差し出してきたのは、ドリンクのメニュー表だった。ウイスキーやワイン、ブランデーなどの銘柄が書かれている。すべて酒だった。


「あの、これ、酒なんですけど……」

「……」


 ”とら”は無言ですっとメニュー表を引っ込めた。自身でもメニューを見た”とら”は、眉をひそめる。


「ん……そうだな、酒しかねェ……。よく、気付いたな……」

「ど、どうも……」恐縮する十三。”とら”は”社長”にメニュー表をトントンと指で示した。


「社長、見てください、コレ……。酒しかないですよ……」

「知ってる。わかってる。クラブなんだから当たり前だろう、とら。喫茶店じゃねェんだぞ」

「それにしたって、仕事中に酒は、ダメでしょう……。常識的に……なァ?」


 ヤクザに常識を問われた十三はコクコクと頷いて同意を示す。”とら”は眉間にシワを寄せて、親の仇のようにメニュー表を睨んでいる。


「やっぱりお茶だよなァ……こういうときは……。社長、なんかお茶系ないんですかねェ……」

「いちいちうるせェやつだな……。そこの冷蔵庫にミネラルウォーターがあるから、それで我慢しろ」

「もう、しょうがねェなァ……ガサツなんだから……」


 ”とら”はのっそりと動いて、大きな身体を屈ませて隅に置かれた小さな冷蔵庫を開けた。なかから海外製のミネラルウォーターのボトルを取り出した”とら”は、十三に差しだしてくる。


「ほらァ……やっぱり全然冷えてねェし……。シノ、水飲め……」

「いえっ! むしろ気を使わせてすみませんでしたっ!」


 十三は最大限の感謝と敬意を伝えるべく”とら”にへこへこと頭を下げた。そうこうしている間に、ソファーに座っていた”社長”が隣の空きスペースを叩いた。


「シノ、オマエはここ。座れ」

「はいっ」


 十三は言われたとおり、”社長”の隣に腰を下ろす。”とら”は十三たちと対角線上にある一人掛けのソファーに、悠然と座った。


 ”社長”はノートPCをバッグから取り出し、立ち上げている。起動するまでの間に、”社長”は「さて」と改まった。


「──いいか、シノ。もうすぐ、ここバイト・ア・ダストで、オークションが開催される。そこで、オレたちの”商品”も出品される予定だ。オマエは今から、オークションを見て一連の流れを覚えろ。それが、今日の研修内容」


「オークション……って、商品の価格を競って落とすっていうアレですか?」


「ソレだ。オレたちは、商品を出品する側。オレたちの商品は毎回オークションの目玉だから、競りにかけられるのは今日も一番最後だろう。今からしばらくは、他の業者の品が流れる。客の購買力を煽るための、まァいわば前座だ。……下、見てみろ」


 ”社長”に言われ、十三は身を乗り出して窓ガラスの向こうに目を凝らした。


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