【書籍化記念SS】ボーモント子爵令嬢と呼ぶ者は 2
『余りもの令嬢と訳あり令息は意外と相性が良いようです』、絶賛発売中です!
見合い男の話を要約すると。
――あのときはアデラインの美しさや話術の巧みさ(いや別にアデラインは相づちを打っていただけでアンタと父親が話してただけじゃん)に魅了されたが、よくよく考えれば結婚相手はもっと地味でおとなしい女性がいいだろう、華やかな女性は金がかかるし、と思い直したそうだ。
あと、切実に適齢期の女性がいなくなっているのもあったという。まぁ、そうよね。今って私に釣り書きが一枚も来なかったのがおかしいって思うくらい、あぶれている男性が多いもの。
慌ててアデライン以外にもお相手を探し始めたが、めぼしい令嬢は全員婚約が決まっている。
決まっていないのは、あまり評判のよくない……金遣いが荒かったり気が強すぎたり失態を犯して高位貴族に目をつけられていたりする令嬢ばかりだった。
そこで思い出したのが、かつて見合いをした『ボーモント子爵令嬢』。
アデラインと楽しく会話をしている間、一切割り込んでこなかったおとなしさと影の薄さ。
アレならいいだろう、愛しのアデラインとも縁続きになれるし、って考え、釣り書きを送ってくれと父親に頼んだが、父親は首を横に振る。ボーモント子爵が見合いの件を怒っていて、絶賛不仲中らしい。
どうせまだ相手はいないだろうからお前が直接声をかけろ、と言われ、だけどルシアンは剣術の習い事を辞めてしまったので頼むことができない。
剣術の習い事仲間に相談したら、夜会が開かれそこにルシアンが来るらしいから絶対に参加するように主催者に頼んでやると言われたそうだ。
その相談者は確かにやり遂げた。ルシアンは半ば強制参加させられ、婚約者が足を挫いて欠席を申し出たのに『なら代理を立てろ』とまで言われ、私が参加させられたのよ。
姉が参加すると聞いて、ますます都合がいいと、ルシアンのパートナーの『ボーモント子爵令嬢』のドレスを聞いて、私に声をかけてきたということだ。
……途中で殴ろうかなって思ったね!
ルシアンも、あまりの腹立たしさにかえって笑顔になってるわよ。額に青筋が立ってるけど!
「あらあら……。ずいぶんと都合が良くておもしろい話ですこと。そう思わない? ルシアン」
「本当ですね。侯爵家と縁続きのわがボーモント子爵家をバカにしすぎてますよね、姉上」
ねぇ?
と二人で微笑み合う。
こういうとき、私とルシアンの血の繋がりを感じるわ。たぶん同じ顔をして微笑んでいると思うのよ。
私たちの言葉は聞き流し、表面的な笑顔のみを都合良く解釈したらしい見合い男は、ホッとした顔で私たちの会話に入ってきた。
「そういうことで、私と婚約していただけるでしょうか。ボーモント子爵令嬢」
差し出してきた手を扇で叩いた。
見合い男が笑顔で呆けている。
「ですから、私は『ボーモント子爵令嬢』ではないと言っているでしょう? 何度も言わせないでくださる? ヒース・カーター子爵令息」
真顔になって指摘した。
「え? は? だって〝姉上〟って」
なんでそこだけ聞き取るのよ。
「ルシアンは確かに私を姉上と言いましたわね。でも、もっと肝心な言葉を言ったでしょう?『侯爵家と縁続き』って。子爵家がどうやって侯爵家と縁続きになったか、お分かりにならないの?」
キョトーンとしている。お分かりにならないらしい。
「姉上は『ボーモント子爵令嬢』ではありません。『ブラックウッド侯爵夫人』です」
ルシアンも真顔で訂正した。
それに対する返答が。
「結婚してるのか!?」
だよ。
「えぇ、おかげさまで。あなたとあなたのお父様が私を見合いの席で一顧だにせず空気のような扱いをしていただいたので、別の席にいた男性と知り合い、その方と結婚しましたの。まさしく運命の出逢いでしたわ。私を無視していただいて本当に感謝しております。そのおかげで、ろくでもない見合い相手と婚約するような羽目にならず、素敵な侯爵令息と知り合え、嫁げましたから」
嫌みを言ってやった。
ただ、嫌みとして受け取れるのかは謎。
この人、短時間しか会話してないけど、そうとうの天然だ。
空気が読めないって表現するのかわからないけれど、嫌みが通じないし自分の理解できる単語しか拾わない。
というか……。
「いや、見栄を張らなくていいんだ。私だって独身だからね。君も努力して見違えるようになったよ。私も今の君なら婚約してもいいって思えたし」
私はため息をつく。
「そりゃあ、あなたは独身でしょうね。アデラインじゃなくてもお断りされるでしょう。実際、恋人なんていなかったでしょう? いたとしてもすぐフラれたか」
見合い男は顔を強張らせた。
「見ず知らずの他人を見下すのも大概にしてくださる?」
そうハッキリ言ったけど、ピンときていないようだ。
「見下す? つまり、私が貴女を見下しているってことですか?」
「えぇ。そう言ってます」
怪訝な顔で否定した。
「いえいえ。見下していたら婚約者になってくれなんて申し込まないでしょう?」
「あなた、私が独身だからもらってやるって考えているでしょう? だから、私が『侯爵夫人だ』と自己紹介しているのに、その言葉を頑なに聞き取らない。だって、見合いで自分が空気のように扱っていたみじめな女性が格上の男性と結婚して次期侯爵夫人になるなんて、絶対に認められないから」
私がそう問うと、見合い男はようやく気づいたようだ。
「……えっ? 格上?」
ルシアンがこれでもかというくらい冷たい声で説明する。
「ですから、姉上はアシュトン・ブラックウッド侯爵令息と結婚して、今はブラックウッド侯爵夫人になったって言っているでしょう? わがボーモント子爵家は、侯爵家と縁づいています」
またもやポカーンとしている。
この見合い男、ちょっと頭のネジがゆるいのかしら?
困ったわね……。
「もういいわ。行きましょう、ルシアン」
「うん。夜会の強制参加も含めて、いろいろ抗議しようかなと思ったよ」
ルシアンにエスコートを促し、立ち去ろうとしたら復活した見合い男が止めてきた。
「ちょ、ちょっと待った!」
私とルシアンは、同じ表情で振り返る。
「本当に、結婚している?」
「えぇ」
「見栄じゃなくて」
「いいかげんにしてくださる? 第一、ほとんど初対面のあなたに見栄を張ってどうするんです。断りの常套句だと考えたにせよ、あなたと結婚したくないという意思表示だってことになるとまで考えないんですか?」
見合い男、ようやくそこにたどり着いたようだ。
ハッとした後、うつむいた。
「二度と声をかけないでください。あと、このことは私の夫に伝えますから。私の夫は酷い悋気持ちなので、無事ではすみませんよ」
冷たく言い放った。




