【書籍化記念SS】ボーモント子爵令嬢と呼ぶ者は 3
『余りもの令嬢と訳あり令息は意外と相性が良いようです』絶賛発売中です!
もうあとはアシュトンに処分を任せようと帰ろうとしたとき。
「夫人。申し訳なかった。……そうか。ご結婚なさっていたんですね」
と、驚くほど寂しげな声を出したので驚いて振り返ってしまった。
見合い男は、自嘲的に笑う。
「……そうか。私は手の届かない美しい薔薇を手に入れようとあがき、手に入るはずだった白百合に気づきもしなかったのか」
と、詩人のようなことを言いだしたわよ。
思わず、ルシアンと顔を見合わせてしまった。
「この期に及んで、姉さんのことを白百合とか言いだしたよ」
「自分に酔ってるだけよ。白百合なもんですか。その辺に咲いている小さな花レベルよ。踏みつぶしたって気づきやしない程度のね。『愛でられる花ならなんでもいい』って男が大切に育ててくれたから今こうやって見栄えよく咲いているだけ」
ルシアンが苦笑する。
だが、見合い男は首を横に振った。
「今の貴女は、とうてい子爵令嬢とは思えないほどに美しいですよ。優美と表現したらいいのか。今の貴女と結婚したかった」
つまり、前の私じゃ自分の相手にはふさわしくないって言ってるのか。
フッと冷笑する。
「本当に私を見下してくださるわね。……所作を褒めていただきありがとうございます。今の私があなたにふさわしいとでも? ご冗談を! 今の私は、侯爵家でも通用するマナーや所作ですわ。無作法な低位貴族の子息の横に並んだら、より無作法さが際だってしまってかわいそうでしょう? ルシアンほどに学んでから話しかけてくださいな」
ルシアンも、アシュトンにマナーを習っている。高位貴族と接する機会が多くなるため、いろいろ学んでいるのよ。
ルシアンの婚約者も若干必死に学んでいる。あまりにマナーが悪い場合は私の母と同じ目に遭うかもと思っているようだ。ある意味そうかもしれないけどね。
私の嫌みに、ようやく気がつき始めたらしい。
「え? あっ、いや、そういうことではなく!」
真顔で見据えると、うなだれた。
「……言葉の綾で、見下しているわけでは……」
「無意識で見下しているから、言葉の綾が出るんですわ」
食い気味に返したら、ますますうなだれた。
「……申し訳ありません。そう言われたら、確かに『ボーモント子爵令嬢なら、まだあぶれているだろうな』って思いましたし、私が顔も覚えていないような令嬢が、結婚出来るはずがないと決めつけていました」
最低。
でももう二度と会わないからどうでもいいわ。
「さようなら。もう二度と会うことはないでしょうね」
「いえ、私はまた会いたいです。次は、婚約者を紹介できるよう祈っていてください」
ルシアンと私はため息をついた。
すごいわー。まるで通じてないわー。
*
もちろんアシュトンに言いつけたわよ。
自分で処理しようかと思ったけど、私がやるとルシアンやお父様に泣きついてくる可能性があったので、泣きついてもどうにもできないアシュトンにお願いした。
で。
「……アシュトン? なんでコイツ、生きてるの?」
って聞いちゃったわよ。
見合い男と二度目の邂逅を果たしたわ。
「すぐにお会いできて何よりです、ボーモント子爵令嬢……ではなく、ブラックウッド侯爵夫人」
こちらは全く会いたくなかったんですけど。
しかもまた子爵令嬢って呼びやがった。
アシュトンが睨んだので慌てて言い直したわよ。
アシュトンが明るく笑う。
「アハハ……。だって、ローズマリーのことを褒めるからさー。狙ってるって聞いたときは殺そうと思ったよ? でも諦めたらしいし、君をこれほど美しく咲かせた僕を尊敬するとか言われちゃって」
私のダンナサマがチョロすぎる件について。
まぁね……。低位貴族の私の評価はいまだに最低値。表だっては言われなくなったけど(というか、低位貴族と絡まないからね!)、内心ではこの間のコイツの発言よりも酷いことを考えている令息令嬢ばかりでしょう。
私はため息をついてしまう。
アシュトンが慌てて、
「あ、じゃあ、今から殺しとく?」
って気軽に尋ねてきたよ。
「えっ」
見合い男も慌てている。
「なら、私が始末しておくわ。……コイツ、いまだに私のことを見下しているじゃないの。聞いたでしょ? ボーモント子爵令嬢って呼びやがったわよ。つまり、『お前なんかが侯爵夫人になれるわけがない』って内心は考えているのよ」
「えぇ!? 違いますよ! 私はなかなか覚えられないだけです! 体で覚えるタイプなので!」
とか言ってますわよ。
「そうそう。そうとうの脳筋みたい。コイツにローズマリーが俺と結婚しているって覚え込ませるの苦労したし」
あ、調教したんだ?
なのにまだ私を『ボーモント子爵令嬢』って呼んだんだ?
「ふーん……」
私は思いついてニヤリとした。
「なるほど、それならしかたありませんわ」
ホッとした見合い男に続きを宣告した。
「体で覚えてもらいましょう。『ブラックウッド侯爵夫人』という書き取りを毎日千回やってもらいましょうか。言えなかったら追加で千回。……当然アシュトンも付き合ってくれるわよね?」
男衆が啞然とする。
「え、俺は別に何万文字でも書くけど……」
「わ、私は嫌ですよ! 文字なんて書くの! 父にも『勉強のできる令嬢と婚姻を結べ』って言われているくらいに苦手ですし!」
コイツ、ムカつくことに嫡男らしいわよ。
「嫌? 生きているんだからいいじゃないですか。それとも死にます?」
私が笑顔で選択を迫ると、見合い男は肩を落とした。
と、いうわけで、何万文字かの書き取り後、見合い男は見事『ブラックウッド侯爵夫人』と言えるようになったのでした。
ついでに、見合い男の父親から『息子が嫌がらずに文字を書くようになった。ブラックウッド侯爵夫人に多大なる感謝を。さらに以前の非礼を深くお詫びする。さすが侯爵令息を射止めるだけある御方だ』というのが大げさに書かれた手紙を受け取った。
「いまさら遅い」
……とは思わない。だって、どうでもいいもの。
ちなみに見合い男ヒース・カーターは、無事調教された。
「ごきげんよう、ヒース・カーター子爵令息」
声をかけると、
「ヒッ! ブラックウッド侯爵夫人、ご苦労さまです!」
と、立ち上がって90度の礼をするようになったわ。ホホホ!
これにて終わりです。
近況にも書きましたが、書籍のほうには外伝の他にSSを書きました。
SSは恐らく紙書籍のみの特典で、しかも期間限定になるかと思いますので、読みたい方はお早めにお求めください。




