【書籍化記念SS】ボーモント子爵令嬢と呼ぶ者は 1
本日、『余りもの令嬢と訳あり令息は意外と相性が良いようです』がツギクル様より発売になりました!
記念にSSをお届けします。
「……失礼ですが、ボーモント子爵令嬢でよろしいでしょうか」
と、声をかけられた。
男性の声だ。
振り向いて、声のするほうを見たが……誰?
記憶にない顔すぎて、ボーッと見つめてしまった。
するとその男性は何を勘違いしたのか、髪をわざとかきあげてポーズを決めた。
思わず顔をしかめそうになったが……我慢ガマン。
ぐっとこらえて淑女の笑みを浮かべる。
「申し訳ありません。私はボーモント子爵令嬢ではありませんが……どういったご用件で声をかけられたのでしょう?」
すると男性がキョトンとした。
「え、間違えましたか?」
「はい。私はボーモント子爵令嬢ではありません」
男性は慌てて頭を下げた。
「それは失礼いたしました。……実は違うと思ったのですが、知人から『貴女がそうだ』と教えられまして……」
「まぁ。その知人の方はよく知らないで申し上げたのでしょう。もっとよく知った方に確認されるとよろしいかと思われますわ」
「はい、失礼いたしました」
では、と挨拶し、去った。
今日は夜会に来ている。
気乗りはしなかったがルシアンに頼まれた。
ルシアンは婚約者と参加予定だったのだけれど、足を挫いて歩けなくなり私が代打となったのだ。
今回は相手がいないとダメな夜会ということで(なら断れと思ったけれど諸事情があって断れなかったらしい)、姉である私が頼み込まれた。
アシュトンも、ルシアンの頼みなら断れない。
……アシュトンとルシアンって仲が良いのよね。今回の件、直接じゃなくてアシュトン経由で頼まれたもん。
姉弟とわかるよう、ルシアンとお揃いのデザインと色のドレスで出かけた。ちなみに買ってくれたのは弟の分も含めてアシュトンね!
ルシアンが飲み物を片手に、
「姉さん! こっちだよ」
と、呼んだ。
飲み物を取りにルシアンが行ったところで、先ほどの男性に声をかけられたのだ。
やっぱり、低位貴族の夜会は怖いわあ。
紹介もなく声をかけてくるんですもの。しかもアヤツ、最後まで名乗らなかったし。
「ありがとう、ルシアン」
御礼を言って、ルシアンからグラスを受け取る。
ルシアンが私を、憧憬の混じった顔で見つめた。
「……やっぱり姉さん、すごく所作が美しいね。昔からキチンとしていたけど、最近はもう別格だよ」
「ありがとう。これでも頑張ったのよ? 今でも――」
「やっぱり、貴女がボーモント子爵令嬢じゃないか!」
と、会話に割り込んできた男性を、私はゆっくりと首を動かして見つめた。
先ほどの男性が、眉根を寄せて私とルシアンを見る。
ルシアンは驚いたようだ。
「あなたは……」
「ルシアン、知り合い?」
「え? え……と、まぁ。昔は」
ルシアンが濁している。昔は知り合いだったけど、関係を切ったということね。
ということは、あまり評判のよくない貴族、もしくは関係を整理したほうがいい個人。
「今は知り合いではないのなら挨拶はしなくていいわ。行きましょう」
ルシアンを促す。
「ちょっと待て!」
男性は慌てたように呼び止めるので、向き直って見据える。
「あなた、失礼よ。いくら低位貴族とはいえ、こちらが誰かを尋ねる前に、まずは名乗るべきでしょう。私は、失礼な者の話を聞くような耳は持っておりませんわ」
「姉さん、かっこいい……」
ルシアンが、キラキラした目で私を見てくるわ。いや私だってちょっとは鍛えられたわよ!
男性は慌てたように名乗る。
「し、失礼した。私はヒース・カーター。あなたと……ボーモント子爵令嬢とお見合いをした者です」
…………。
そういえば、したね。見合い。
「ずいぶん前の話を持ち出すこと。あいにくと、見合い相手のことはほとんど記憶にございませんわ」
覚えているのはアシュトンのことだけよ。
それに、一度たりともこちらを見なかった男が、急になんで声をかけてくんのよ。怪しすぎるわ。というか、まだアデラインを追っかけてんの?
「アデラインを紹介しろ、なんて言いだされても受け付けませんわよ。自分でどうすることもできないような男にあのアデラインが靡くと思って?」
言われる前にお断りすると、痛いところを突かれたように元見合い相手ヒース・カーターの顔が歪む。
「…………いえ。それはもういいんです。あの後、何十回も釣り書きを送ったのですが、相手にされず諦めました」
とか言ったけど。諦めたのならなんで顔も知らない『ボーモント子爵令嬢』に用があるのよ?
「ではなぜ、顔も知らない『ボーモント子爵令嬢』に用があるんです? ……先に釘を刺しておきますが、とぼけても無駄ですわよ。あなたは先ほど『違うと思ったが知人から教えられて声をかけた』と言ったのを聞きましたから」
見据えて詰問すると、居心地悪そうに目を逸らしつつ、とんでもないことを言い出した。
「……いえ、その。確かにあのときはアデライン嬢ばかりを見ていて貴女の記憶がなかったのですが、見合いをしたのは確かですし、正式に申し込もうかと思いまして」
「「は?」」
姉弟揃って疑問符を投げつけてしまった。
あまりの発言に呆気にとられている私とルシアン。
その隙に、見合い男は弁解するような口調でまくしたてた。
前書きにも書きましたが、本日、『余りもの令嬢と訳あり令息は意外と相性が良いようです』が無事ツギクル様より発売になりました。
いやあ、紆余曲折あったので刊行できて何よりです。
何があったかは、活動報告経由でツギクルさん公式のインタビューを参照してください。当たり障りなく書いてます。
https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3630726/
何はともあれ刊行できればヨシ!
こちらのSSは、書籍を読んだ方も未読の方も大丈夫なように書いています。
書籍にも特典があるようです。そちらも活動報告に書きました。
曖昧に書いているのは確定情報ではないためです。
お問い合わせはツギクルさん公式にお願いいたします!
こちらのSSは3話連続でお届けいたしますので、よろしくお願いします。




