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ミニュイの祭日  作者: 月岡夜宵
後章 魔法の時間(マジックアワー)

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【学園編SS】鼻をかむほど寒い日の話

 開きかけのページ、鉛筆をもったまま動かない手。

 鉛筆の先はそのまま、問いかけにぶつかって固まっている。

 百面相しても解けない眼の前の図形問題。

 静かな室内に僕のつぶやきだけが波紋のように広がっていく。

ルナ「うう〜〜、これ、わかんないよお……」

 机に向かったまま、僕は天井を見上げるように嘆いた。

 学園の寮で過ごす夜のこと、突然、扉がノックされた。

 

 宿題に手を付けていた僕は首をかしげながら、夜分の訪問者を迎えた。

 戸口でコートの雪を払ったのはリュカ様だった。

ルナ「(こんな寒い中わざわざ他寮にまで押しかけるなんて、何のようだろう?)」

 外はいまだ雪が積もっており、冷たい北風だって吹雪いていたはずだ。

 特別な用事でもなければ来られないだろう。

リュカ「顔見に来ちゃわるいか」

ルナ「また僕顔に出てましたか!?」

 なんだか恋人みたいな返しに、そういえば交際中だと思い出して、たちまち僕は浮かれた。

 ロマンチックな台詞に感動していると、リュカ様は冗談だと言ってなにかを差し出してくる。

 僕はちょっと残念だった。

リュカ「ん。やる」

 リュカ様が差し出したのは直筆のノートだった。

 その中身を開くと試験対策がばっちりなされていた。

 今回のテスト範囲はもちろんのこと、過去問も記載されており応用問題には必ず解き方のポイントが書かれている。

ルナ「(――すす、すごい)」

リュカ「本命はこっち。試験まで日がないが、大丈夫そうか?」

ルナ「これがあればなんとかなるかと」

リュカ「せっかく書き直したんだ、十分に励んでくれよ?」

ルナ「がんばります……」

 なるほど。

 リュカ様が二年生の時に使っていたノートを加工して、よりわかりやすく要点を書き記したのがこのノート、というわけか。

ルナ「(大事に使おうっ、と!)」


 ページをぱらぱらとめくるとちょうど今悩んでいた図形問題と似た問いの解法があった。

 すでに僕のつまずきやすいポイントは把握されているようだ、さすがである。

ルナ「僕の苦手、よく分かりましたね」

リュカ「まあ手広くおさえたからな」

 まさか学期末のテストが怪しいと告げてすぐにこれだけのものを仕上げてくれるとは。

ルナ「リュカ様ってば過保護が過ぎますね……えへへ」

リュカ「ばかいえ。未来の伴侶が試験ごときでつまずいて落第なんてことになったら我が家の恥だからな」

ルナ「なんかかわいくない言い方!」

リュカ「(ニヤ)そういうわけで応援の言葉とプレッシャーをかけにきてやったんだ。俺は過保護だからなあ?」

 ひしひしと責任感を感じて僕は苦笑いを浮かべる。

 自分で言った手前、立つ瀬がない。


 粉のココアをケトルで用意するとソファでくつろぐリュカ様がさっそく手を付けた。

 沸かしたてのお湯で注いだ市販品のココアは、甘さ控えめで飲みやすく、僕も愛飲しているものだ。

リュカ「温かいな」

 彼の気遣いが嬉しかったので、僕も彼になにか返そうと菓子類の箱を漁っていると、背後から抱きつかれた。

 うなじに軽いキスが落とされる。

 ドキっとして振り返った僕だが彼は何事もないように僕のベッドに潜り込んだ。

リュカ「眠い。寝る」

 それだけいうと寝息を立て始めてしまった。

 僕のベッドで過眠をとっている姿をみるに、徹夜までしてこのノートを仕上げてくれたらしい。

 自分のための勉強もあるのに偉いなあと感心してしまう。

 こういうところがリュカ様のかっこいいところだ!

ルナ「(起きたら最高の一杯をお出してあげよう)」

 うんとあったかい気持ちを込めて。

ルナ「よーし、あと少しやってみよう!!」


 ――あ、ここ。リュカ様もノートの隅にらくがきなんてするんだな。

 ……意外。

 ぱらぱらとめくるとペンギンみたいな動物の絵が動いた。

 翼を動かして羽ばたいているようだ。

 問題を問いた今、彼が起きるまで書き足してみようかな?

 えへへ、もう一匹描いてくっつけちゃえ。

 ふふ、ラブラブだあ〜〜。


リュカ「ふあ……よく寝た」

ルナ「リュカ様あの……」

 目覚めた彼におずおずとマグカップを差し出すと、足りない、といつかの浴室のように唇を奪われてしまった。

 ぬくい体のリュカ様に引き込まれて布団の中で体温を分け合うような、ささやかなふれあいをした。

 そんな雪の日であった。

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