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ミニュイの祭日  作者: 月岡夜宵
前章 星降る夜(ニュイ・エトワレ)

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さよならバカンスの記憶4

 夏の間の回想を終えた、僕。どれも印象的な思い出で、もうこの島を離れないといけないのが寂しくなる。どうやらそれは、この島のふたりも同じなようで……。


 僕たちと別れるのが寂しいとカレンが突然泣き出した。派手な号泣っぷりに衆目を集めるが、彼女の方はそれどころではないようだ。


「せっかくおともだちになったのに……お別れなんて、寂しいわよ! なんでふたりとも行っちゃうの? 私のこときらいなの!?」


 そんなカレンをリュートが慰めた。


「ふたりは帰るだけだあ。寂しくとも、ひっぐ、おらだちのごとぎらいになっだわけじゃねえだ。だから、だがら……忘れないでくんろ〜〜」


 慰めていたはずのリュートすら号泣し始めた。

 夏の間雇われていたふたりも、普段は別のお店なんかで見習いの仕事をしているそうだ。ひと夏だけのアルバイトで知り合ったのは、なにも僕らと彼らだけではない。カレンとリュートも普段は交わったことのない組み合わせだったのだ。

 めそめそ泣くカレンはリュートに慰められるのが不快なのか、脇腹を肘で押し返している。それでもやってくる寂寥にはもはやなすすべはない。


 追いすがるふたりにつられて僕まで泣けてきた。


「嫌いにもならないし、忘れたりも、ぜったい、絶対しないから!!」


 僕はふたりと固く握手を交わした。そのタイミングで汽笛が鳴る。海上列車がホームに入ってきた。白塗りの車体が波間に揺れるサンゴの線路と映える。夏の思い出を飾る、最後にはぴったりだった。


「また会おうね、えっと、約束……っと」

「約束ね! そうだわ、手紙、返しなさいよ。私、送るから!」

「うん。また来るよ、絶対!」

「破ったら許さないからああああ!」

「うん!!」


 迎えの汽車に乗り込む。ステップに乗って、最後にもう一度振り返った。身を寄せ合うふたりを前に、「リュカ様はいいんですか?」と尋ねると「お前たちのせいで胸がいっぱいだ」と返された。そんなに大げさだったかなあ。


 いざ、ひと夏の宝物を抱えて帰る。手荷物がいっぱいだと顔をほころばせて座席に座り、窓を向くと、走り寄る彼女らの姿。開けた窓から声が聞こえる。汽笛が再び鳴らされた。


「さよーならああああ!」

「元気でー! また遊ぼぉぉぉーう!」

「ぐすっ。絶対、また来なさいよーーッ!!」


 入道雲と友達に見送られながら、僕はバカンスの間滞在したルルミア島とお別れをした。


「またねえええ!!」


 行きにかぶっていた帽子を胸に抱え、振り返ってももう、島の影しか見えなくなっていた。




 僕らは発展都市の一画にある屋敷へと帰ってきた。

 夏の短い物語はこうして終わった。

 旅の記憶はこれで全てだ。だが、その日の絵日記にはまだ続きがあった。


 ふるさとに帰ってきた懐かしさとともに、使用人のみんなが僕らを出迎えた。


「おかえりなさいませ、皆様方」


 出迎える従者たちの揃ったお辞儀に帰ってきた、というほっとする思いがあった。


「ルナもおかえり」

 柔らかく微笑む執事長に、僕も笑顔で返す。

「うん!」

「その返答はだめですね」

 ところがスマートに指摘が入ってしまう。

「へ? な、なんでですか……? どこか問題がありました、か?」

 僕はわなわなと震えた。

「帰ってそうそう厳しいわね〜」

 横からエマ様がからからと鈴を転がしたような笑い声をあげる。

「え、えっえええ、あっと、あ! は、はい! ただいま戻りました……?」

「いいでしょう。まだまだ旅行気分が抜けないでしょうがしっかり励みなさい」

 ビクビクしながら答えるとようやく丸をもらえた。僕はふぅーとため息を吐いた。

「はい、ゴーザ執事長!」

 改めて使用人の洗礼を浴び、僕は早くも落ち着きがなくなる。


 ゴーザさんはこほんと咳払いをしてから続けた。

「当主様方も例外なく。――お忘れではありませんか? お仕事がたまっておりますので、業務の方、お願いしますね。ぜひ消化を」

「げっ」

 涼しい顔で僕と執事長のやり取りを見ていたフレデリック様が冷や汗をかきながら連れていかれた。「まだ余韻を味わっていたいのに」という趣旨の未練がましい悲鳴が屋敷の廊下にこだましていた。




 僕は眠る前にベッドで絵日記を閉じる。厚みのある日記を本棚に戻した。

 この夏のお土産をマットレスの上に広げて満足していたが、それらもまとめて整理して、配置する。あとは執事服を机に置いて、入眠の準備をする。


(明日からがんばろう)

 

 ランプを吹き消すとあくびが出た。


「くわあ、もう寝よっと」


「おやすみなさ……」


 すうっと、自分の寝息を耳にした気がした。


 そういえば、リュカ様が隣にいないのは久しぶりのことだった。

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