第200話 勇者召喚1
宮殿の睡蓮宮に用意された召喚の魔法陣は、シャーメン中の寺院から集められた徳が高いとされる僧侶が、摺った香木や色砂などを使い曼荼羅を描くように、半年以上もの時間をかけ完成させた。
途中、法力を使いすぎて命を落とした僧侶も数人いた。そして、その穴埋めにすぐ別の僧侶を連れてきて作業をさせた。
「代わりの人間など、いくらでもいる」
進攻による領土拡大で、何億人とも言われる人口を抱える国の為政者らしい発言だった。
だが、なんとも出来ずに歯がゆい思いをしたのが、魔力持ちが少ないと云う事実だった。
その魔力不足を補う為に、僧侶達が持つ法力に目をつけた。だが、それも高い法力を持つ僧侶が少なく、頓挫しつつあった。
そんな時、ルーキウス王国のグラディウス侯爵令嬢がオークションにドラゴンを出品すると云うニュースが入った。
「また、ディアナ・グラディウスか…」
王芳は、最近頻繁にその名を聞くようになった、ルーキウス王国の侯爵令嬢に思いを馳せる。
ストラトスとトルクをルーキウス王国に併合させ、ビーツを開放し、ドラゴンの魔石を使った魔力蓄積機能で永遠に国境を結界で護る。10頭ものドラゴンをソロで倒せる。
「いったい、どんな女なんだ。取り込めるのなら、そうしたいところだが…」
「お兄様、ドラゴンを落札して下さい。魔力不足をドラゴンの魔石で補いましょう」
『勇者召喚の儀式』そう書かれた書簡を宮殿の奥にある書庫で見つけたのは、第一公主の王艶だった。
見つけた当初は、ただのおとぎ話だと割り切っていた。だが、ある出来事がきっかけで王艶はその『勇者召喚の儀式』に活路を見出そうとした。
「第一公主王艶をネイサン王国の第一王子イスラに嫁がせる事に決定した」
「嫌です!なぜあのような女にだらしない男の元に…しかも、我が国から見れば何の得にもならぬ小国では無いですか!」
王艶は猛反発した。だが、父親である国王は一蹴した。
「ネイサンには、これからの領土拡大の為の地の利があるのだ。おまけに、あの地で育った傭兵達を手に入れる事も出来るからな。異論は認めん!」
『地の利』と言われれば、確かにそうだった。
シャーメンとネイサンの間には、クザン王国とキルト王国と云う小国があるが、この2つはいつでも容易にとる事が出来る。
だが、国の北側をキリル魔国、リベラ共和国、ルーキウス王国に面したネイサン王国がそのいずれかの国に組みしてしまうと、シャーメンの進攻はそこで止まってしまう。
婚姻関係を結ぶ事で、ネイサン王国をシャーメン王国に取り込むのが、最も簡単な方法であった。
「く、悔しい…我慢するしかないのか?」
諦められない王艶は、兄である王芳の側近となり『勇者召喚の儀式』を敢行する事で武勲とし、イスラとの結婚を回避する計画を思い立った。
商業ギルドを通じてドラゴンオークションの参加を表明し、ネイサン王国で第一王子イスラと落ち合った。イスラからの舐め回す様な視線に耐えながら、ルーキウス王国王都でのオークションに参加し、見事4体のドラゴンを競り落とした。
「こ、これで勇者を召喚出来る」
王艶は、早くシャーメンに帰りたくて仕方無かった。
一方、王芳はディアナの姿を見て、かつて愛した女性を思い出していた。
「雨桐…」
雨に濡れたかの様な真っ黒なストレートの髪をひとまとめに括り、快活そうな笑顔を見せるその姿に、つい手を伸ばしかけた。
「突然触れようとして申し訳ない。見知った女性にとても似ていて、つい…」




