第199話 召喚勇者の正体
「おはよう、ルイス」
ルイスが大あくびをしながら、2階からの階段を降りて来た。
「ディアナ、おはよ…」
「どうしたの?寝不足?疲れ?次のダンジョン攻略、1日伸ばそうか?」
「いや、昨夜親父が隠し持ってた酒を出して、アンジェリークの連中と酒盛り始めちゃってさ」
「あはは!で、皆まだ寝てんの?」
「いや、今叩き起こして来たから」
パラパラと身支度を整えたメンバーが食堂に集まり始めた。
「おはようございます」
「沙織、おはよう!」
「ディアナ様、勇者の事なんですけど」
沙織がディアナの真向かいの席に座った。
「ヤマトタケルノミコト?」
「トリコロール?」
やって来たベアトリーチェが、ディアナの隣に座った。
「そう、それですそれ!」
「…?」
「二人の反応に既視感があったので気になって、ずっと記憶を辿ってたんですよ。で、先程思い出しまして…」
関東地方のある都市でその事件は起きた。
住宅街から駅前の繁華街へと向かう道を、背中にナイフが刺さったままの血だらけの女性が、子供を抱え走っていた。後方から刃物を持った男が女性を追いかけていて、女性がその男から逃げていることは誰の目から見ても明らかだった。
通りすがりの目撃者が相次ぎ警察に通報した。
「おい、足止めするぞ!」
そんな中、たまたま通りかかった塾帰りの男子高校生3人が、自転車をぶつけたりしながら男の行く手を阻んだ。
周辺にいた目撃者の話により、男と男子高校生達が揉み合いになり、3人の高校生が首筋を切られ即死したことが判った。
子供を抱えた女性は派出所に駆け込み、子供を警察官に預けた所で絶命。男は警察官数名に取り押さえられ、現行犯逮捕された。
捜査が始まり、事件の全貌が明らかになると共に、殺害された人数6名・重傷者1名の元警察官が引き起こした凶悪事件として、マスコミに報道された。
マスコミが女性を助けようとした3人の高校生の名前を公表する。
『青葉ヤマト、赤城タケル、白石ミコト』
ネット上で『ヤマトタケルノミコト』『トリコロール』と話題になったが、彼らを揶揄するような書き込みは、ほとんど見当たらなかった。
「そして、彼らを英雄と称賛する声が高まり…」
ディアナが身を震わせ、ボロボロと涙を流し始めた。
「私が、あの時…あの子達を巻き込んだのね?」
ディアナは当時の映像をスキルで呼び出した。
「おわっ、凄えスキルだな…」
映像は最初、前田祥子視点だったが、少しいじると全体を映し出した。
映像の中で、祥子は3人の男子高校生とぶつかった。
『おい、足止めするぞ!』
『よっしゃ!』
そこには、姉の元夫ともみ合う3人の姿がはっきりと映っていた。
「この子供を抱えて走っているのがディアナか?」
ミハイルが尋ねた。
「うん。そして、この子供が姉の子で名前は紬。姉の別れた夫が紬を奪いにやって来たの…」
「刃物を持ってか!?」
「そう。このとき、父と姉は既に殺された後で…」
「なんてことを!」
「紬を護るのに必死で…あの子達を巻き込んでたなんて、気づかなかった…」
「ディアナ様のせいではありません!」
「そうですよ!」
アンジェリークやマブロスオルキスのメンバーも、いつの間にか話に加わっていた。
「3人に早く会いたい。会って、謝りたい。そしてお礼を言いたい。貴方達のおかげで紬を護る事が出来たと伝えたい」
映像が切り替わり、20歳になった紬の姿を映し出した。
紬が仏壇に手を合わせる。
「おじいちゃん、お母さん、おばさん、青葉さん、赤城さん、白石さん。皆のおかげで、紬は今日も元気です」
ディアナが気を失い、映像はそこで途切れた。




