第194話 黒い睾丸 VS 鉄の處女
「こ、これは!既に、手に入れていたのですね!」
クレメンスは、驚きながらディアナを見た。
「このメンバーの中で唯一あなただけが、全てを装備できる筈よ」
うっすらと発光する剣にミハイルが手を伸ばす。が、結界に弾かれ手を火傷した。
「な、何なんだこれは?」
火傷したミハイルの手にハイヒールをかけながら、ディアナは答えた。
「聖剣、聖なる盾、聖なるローブ。いわゆる、勇者三点セットよ」
扱える者が限られており、資格が無いものは触れることすら出来ない代物。実は、勇者でも三点全てを装備する事は出来ない。三点全てを装備出来るのは、聖騎士の称号を持つ聖職者か、この世にたった一人だけの『剣聖』の称号持ちだけである。
「こ、このような大切な物をお借りする事など、私にはできません!」
「ミハイル兄さん、スタンピードを抑えるには何回位の踏破が必要?」
「3〜4回だな。だが、安全を期して5回踏破すれば、放置していても十年は抑えられる」
「私達混合チームで一回、クリエ・グラディウス家の2チームで三回、アンジェリークで四回、マブロスオルキスで五回。ぴったりじゃない!」
ベアトリーチェはクレメンスにせっついた。
「やんなさいよ!」
「や、ですが…」
ベアトリーチェから逃れる為にジリジリと後退りしていたクレメンスが、ついに壁際に追い詰められてしまった。
ドン!と云う音と共に、クレメンスの上半身はベアトリーチェの壁ドンで封じられ、股間近くに膝を突っ込まれて逃げる事も出来なくなった。
「黒い睾丸とか言う割に、肝の小さい男ね〜」
「て、鉄の處女とか云うふざけたパーティ名の者に言われる筋合いは…あぁっ!」
ベアトリーチェの膝がグリグリとした動きを見せた。
「なんかのスイッチが入りましたかね〜?」
沙織のセリフにディアナは苦笑いした。
ベアトリーチェとクレメンスの押し問答は、2〜3分続いた。
「や、やりますから、やめてください!」
「行ってよしっ!」
ベアトリーチェの拷問から開放されたクレメンスは、股間を押さえながらトイレに走った。
その姿を見ていた男性陣は、顔を真っ青にして言葉を失った。
反してアンジェリークの女性陣は大爆笑だった。
「王女様は、女王様だったの?あはは!」
「こっちの世界でも女王様って言うの?」
「言う言う!なんだ、筋金入だったのか」
ベアトリーチェは、またしてもアンジェリークの面々と盛り上がっていた。
「私達はさ、親の借金のカタに売られた娼婦だったのさ」
「十代前半から変態オヤジの相手をさせられて、生きてるのが不思議な位だったよ」
「その時に、ローザリアのエリザベート商会に買われて、助けられたんだよね」
エリザベート商会でそれぞれの特技を伸ばす教育を受け冒険者となった事、「同じ様な子供達を救ってほしい」と冒険者活動の報酬の半分をエリザベート商会に仕送りしているのだと言う。
「まだ、子供対象ってあるの?」
「法律で禁じられてはいるけど、無いとは言い難い。一般家庭で親に強制されてたら、口も出せないしね」
「悔しいわね…」
「でも、最近大分マシになったよね〜」
「あぁ、ローザリアの第二王子の働きかけで、借金のカタによる女性や子供の人身売買を禁止する法律が数年前に出来てね。摘発のために、王子自らお忍びで歓楽街を廻っているらしい」
ディアナとベアトリーチェは、「あぁ、なるほど。あのシンデレラは、その時に見初められたのか…」と納得した。
顔を真っ赤にして戻ったクレメンスが、「勇者様、剣聖様、しばしお借り致します」と言って装備品を手にした。ローブを羽織り、右手に聖剣を持ち、左手に盾を持つと、全身を包み込む光がパァーと広がりを見せた。
「あ、頭の中に使い方が声になって聞こえます」
どうやら、説明は不要な様である。
「ホテルへの通路を繋げなきゃならないから、先行するね。各階ごとにギルドに報告を入れるから、必ず尋ねて。攻略はそれぞれにまかせる」
「じゃ、行こうか!」




