第192話 密書
『ルクス正教会』
ルーキウス王国に宗教の類はないが、他国にはその土地ごとに神話があり、神話を主体とした宗教が存在する。
だがその中に、『教会』と言いながらも固定の場所を持たず、広域に渡って旅をしながら医療活動のみを行っている団体が存在する。それが『ルクス正教会』である。
『ルクス正教会』は、その始祖がどうやらリベラ共和国出身の『聖女』だったらしく、聖属性魔法で人々の病や怪我を治し、空からやってきた厄災を退けたことで、神格化され信仰の対象となった。
現在、ルーキウス王国にある教会(治癒院)と、ほぼ同じ歴史を辿っている。
そのルクス正教の総本山は、ルーキウス王国がある大陸を南下した絶海の孤島にあると言う。島全体が『ルクス正教会』であり、ひとつの国家となっているらしい。だが、その行き方は誰も知らず、限られた者しか往来を許されない伝説の島となっている。
「ルクスとルーキウス。似た名前ですね?」
「語源は一緒よ。関西弁と標準語位の差しかないわ」
「え、そうなんですか?」
ベアトリーチェは、沙織に説明した。
マブロスオルキスのリーダーらしき聖騎士の男が手を差し出し、ディアナに握手を求めてきた。
「ルクス正教会のクレメンス・アルノーです」
「ディアナ・グラディウスです。何やら、お話があるとか?」
「えぇ、我らが教皇様からの密書をルーキウス国王様にお届けした所、ディアナ殿にも伝えたいと仰せでしたので、やって参りました」
「え!?わざわざ、グラーツ領のダンジョン迄!?」
「スタンピードを起こしているとも伺いましたので、何かお力になれればと思いまして、訓練場の通路を使わせていただきました」
王城内の騎士団訓練場の通路を、外部の者に使わせる位の何かが起こっていると言う事だ。
「いったい、何が起こっているの!?」
ベアトリーチェが小さく叫んだ。
「では、ご報告申し上げます。シャーメン王国にて、結界内に膨大な魔力を検知。教皇様がスキル千里眼で覗いたところ、どうやら『勇者召喚の儀式』を敢行した模様だと」
「!?」
皆が一斉に立ち上がった。
暫く、言葉が出なかった。
そんな中、アンジェリークのリーダーであるリタが口を開いた。
「そんな大事な話、私達が聞いて良かったのかね?」
ミハイルがそれに答えた。
「近く、ルーキウスに拠点を移すつもりだったんだろ?」
「ああ、そのつもりだが…」
「じゃ、聞いていけ。そして、力を貸せ」
リタはふっと笑いながら、椅子に座り直した。
「わかったよ」
それを見て、クレメンスは話を続けた。
「召喚された勇者は、ディアナ殿の前世に縁がある者だと言う事です」
「…は?」
「名前は…」
「え、そんな事迄判るの!?」
「はい」
教皇のスキル千里眼は、トーマスが持つスキルの千里眼と同じく鑑定スキルの中にあるもので間違いないだろう。熟練度の違いで視える範囲や項目が違いがあるかも知れないが、神の目も発動させているだろうと思われる。「私も、いつかそうなるのだろうか?」ディアナは、考えていた。1つだけ判った事は、ディアナの鑑定スキルはまだ完遂していないと云う事だ。
「勇者、青葉ヤマト。聖騎士、赤城タケル。賢者、白石ミコトの以上3名です」
「…ディアナ、知ってる?」
「…いや?全く覚えがない。だけど…ぶふっ…ヤマトタケルノミコトだ…」
「苗字に至っては、トリコロールカラーだし…」
「「あはは!ラノベみたいな安直さだな、おい!」」
ディアナとベアトリーチェは大爆笑した。
だが、いつもなら一緒に笑っている筈の沙織は首を傾げた。
「…デジャヴュ?」




