第185話 グラーツ領
ディアナ達は、この時点で15階層を終えた所だったが、予定を前倒しして宿泊する事にした。5人部屋を2つ借り、一度ディアナ達の部屋に集まった。
「大変な事になりましたね」
ジンがディアナに声をかけた。
「えぇ、そうね。せめてこの地に、グラディウス商会の支部があれば、ここまでの状況にはならずに済んだのに…」
「そう、それ!どうして、グラーツ領内にグラディウス商会がないの?グラーツと言えば、木工家具の工房が多く、グラディウス商会でも取り扱いがあると思ったけど?」
「あぁ、それはね…」
ベアトリーチェの疑問にディアナは答える。
グラーツ領主、アルノルト・シュミットは貴族至上主義者として有名だった。そして、グラディウス商会主が侯爵位に在ることに異を唱える人達の筆頭でもあった。
過去に、グラーツ領内に商会の支部を置こうとしたが頑として許可を出さず、家具を買い付けにきた商会バイヤーをならず者を雇って脅してきたりと、頑なにグラディウス商会を拒絶してきた。
その結果、産業は次第に衰退し、領民はほぼ自給自足の生活を余儀なくされた。三方を山に囲まれた地理的状況も相まって、地理的にも経済的にも陸の孤島となった。
おそらく、かなりの領民がグラーツ領から脱出し、それと入れ替わるように盗賊が入り込んだものと見られる。
「馬鹿じゃないの?領民の生活を第一に考えられない領主だから、そんな事になるんじゃない。周りが盗賊だらけになったのだって、自業自得じゃない…」
そんなグラーツ領を見かねた隣のベオグラード領主が根気よく説得を続け、工房からベオグラード領主を経由して家具をグラディウス商会が買い付けるようになった。
また、リンドバーグ領主がグラーツ領主邸を何度か訪れ説得を重ね、ダンジョンにホテルへの入り口を繋げる事と領内へのバスの乗り入れを許可させる事に成功したと云う連絡をもらったばかりだった。
「時既に遅し…ですか…」
「そういえば、家督を誰かに譲る気だったって言ってましたよね?」
「誰に譲る気だったのかしら?」
「…ハインリヒ・ゲイル元騎士団長」
「!?」
「なるほどね。筋金入だわ」
「グラーツ領は、今後どうなりますかね?」
トーマスが尋ねた。
「政府直轄地になるか、新たな領主を置くか…そんな所じゃないの?」
ロイズが答えた。
「私は、ベオグラード領に編入させたいな」
「ディアナ、どうして?」
「グラーツ領はそのままだと、また陸の孤島になりかねない地理的状況下にある。三方を山に囲まれ、唯一の出入り口と言ってもいい北側は、数キロ歩けばベオグラード領。一緒にしたほうが復興事業も早く進められると思うのよ。いっそのこと、トンネルを掘って山向こうにあるストラトス・トルク地区とも往来出来る様にしたいところよ」
おそらく、ディアナのスキルを持ってすれば、今すぐにでもトンネルを掘り進める事が出来るだろう。トンネルの内側から結界を張れば、落盤事故からもトンネルを守る事も可能な筈だ。だが、勝手にする事は出来ない。政府が今後、グラーツをどう扱うか見守るしかない。
「トンネル…」
ふと見ると、沙織がガタガタと震えだしていた。
「沙織!」
ベアトリーチェが沙織を抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫よ、沙織」
「ごめん、沙織。私がトンネルの話なんかしたから」
「いえ、大丈夫です。ちょっと思い出しただけ…」
沙織の震えはしばらくの間続き、そしてそのまま眠りに落ちてしまった。




