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当たり前の転生 精霊と穴蔵  作者: 秋乃六倫
第一部 穴蔵に生きる

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第6話 五層の主

 ベルトの爺さんがアラトの方を見て、真剣な顔つきだった。

 アラトはこんなに早く探索者の限界が来るとは思っていなかった。マスターした後もレベルは上がり能力自体は上昇するらしいが、新たなスキルは得られないという。

 

「探索者の上位の精霊とかあるんですか?」


「探索者単体で上位の精霊に契約できるようになったという話は聞いたことがない。狩人と探索者で『銃士』という精霊と契約できるが、契約した人間も、いまいち上手く扱えなかったという話は有名だ」


 アラトは銃がこの世界に存在することに驚いたが、当然ながらこの世界の歴史を全く知らない。文化水準としてはそれほど進んでいないことは想像できていたから、もしかしたら一部の国などではすでに扱われてるのかもしれないと納得した。

 

「銃士になるかどうかはともかく、狩人は似たようなスキルがそろっている。武器もボウガンやショートソードなどを扱うから、探索者から転向するのには悪くない。弓を扱うなら『弓使い』というのもあるが……」


 アラトは弓を触ったことはなかった。日本にいた頃も映像などで見たことはあっても、実際に扱ったことは一度もない。

 ボウガンに比べて、扱うのに熟練度が必要なイメージがあったし、その上完全な後衛で、リアンナと二人で連携していくには少し、守りが弱いような気もした。

 

「狩人とはどんなスキルがあるんですか?」

 


 探索者のマスターであるベルトは、丁寧にアラトに教えてくれた。

 自らは狩人の経験があるというベルトの情報は、貴重なものだ。

 聞いてみると、探索者の経験が生きるような装備やスキルがそろっている。組み合わせれば強力なものもあるが、しかし役割が被っている気もする。

 魔物を索敵する能力は探索者の方が良い。しかし狩人は攻撃するためのスキルも豊富で、これから先強力な魔物が現れたときに対処するのが楽になる可能性は高い。

 探索者は、便利な能力も多い。魔物を解体して素材を入手したり、地下世界に存在する素材を採集することも可能なことを考えると、悪くない組み合わせであることも確かだ。

 

 

 ベルトに感謝を述べ、探索者の小屋を出るとリアンナが退屈そうに待ちぼうけているのに気が付いた。

 

 遅くなったことを謝るが、リアンナはなんともないような顔をしてアラトの手をとり、大穴を降りていくための階段に向かうのだった。

 


 リアンナのスキルも増えたらしいが、いまいち詳細は分からない。

 地下世界で新たなスキルを見せてほしいと頼んだら、魔物相手にスキルを見せてくれることになった。

 どうやら魔物から攻撃されないと使用できないスキルだった。

 

 槍全体を使って攻撃を往なしながら、持ち手や石突を使って殴りつける反撃技であった。

 角ウサギやブロンズウルフのような近距離の攻撃を仕掛けてくる魔物にしか効果はなく、遠距離攻撃や魔法攻撃には反撃することは出来ないらしい。

 

 

 アラトたちは五層を本格的に攻略することに決めた。ブロンズウルフ相手をしていてもレベルが上がる速度はこれ以上早まることはない。

 五層を攻略したら装備を新調し、ある程度慣れたら次に進むことにしたのだ。

 その間に六層以降の情報を調査する必要もあった。

 

 

 五層のブロンズウルフの主は、一本道のマップの最奥にいた。身体が一回り大きく、こちらがその魔物を見つけたときには、すでにアラトたちの姿を認識しているようだった。

 不意を衝く予定だったが、結局正面からやり合うことになってしまった。

 

 投石のための石を確認する。探索鞄はそれまで小さなポーチくらいの大きさだった。今はもう少し大きい。鞄はそれほど高くなくよっぽど高いものでなければもっと大きなサイズも購入できた。しかしアラトの身体ではそこまで大きいものを背負うと戦うのに邪魔になる気がして、そこそこのを買うことにしたのだった。

 

 ボウガンは常に手に持っていた。

 大きなウルフの額に照準を合わせている。鈍く輝く毛並は硬そうに見えた。

 結局ボウガンを新しくするのはあきらめた。狩人になるならともかく、探索者をマスターしたあとに、どんな武器が必要になるかは分からない。

 今のところ武器が弱いと感じたことはあまりない。

 それも念動力が強力だからだとアラトは予想していた。

 

 ゆっくりとリアンナが距離をつめていくと、突然大きな身体が矢のように飛び跳ねた。

 リアンナは槍で跳ね返す。新しいスキルを早速使ったのか、短槍の柄の部分で押し返されたブロンズウルフは、宙に浮いたあと着地する。

 そこをアラトがボウガンの矢を放った。念動力をいっぱいに使って一撃を与える。しかし、当たる直前、ふいとウルフの身体が横にぶれた。

 確かに当たったが、皮膚から血が出た程度で傷は浅い。ブロンズウルフの硬い毛を突き抜けて皮膚を削ったものの、それだけだ。急所には入らなかった。

 

 ブロンズウルフが痛みに怒りを感じさせる表情を見せた。意識はアラトに向いているのが分かる。

 ボウガンは矢を放ってしまうと、装填するまで時間がかかる。その間は当然無防備だ。

 アラトは腰に下げた短剣を抜き取り構える。こんなのでもないよりはましだ。

 

「やあ!」


 ブロンズウルフがアラトに対して飛びかかろうと身体をぐっと低くした。

 その隙を感じたのか、リアンナが槍を構えて突き出す。

 飛び跳ねる直前だったにも関わらず、槍を回避しようとブロンズウルフは身体を捻る。

 リアンナの短槍は当たったものの、身体を掠っただけで中々致命傷とはならなそうだった。

 

 アラトは間髪入れずに、右手に握りしめた石を投げつけた。回避行動をとったばかりのウルフは、槍に気を取らていたのか、死角から投げつけらた石に気付かず、頭部にまともにあたったのだった。

 

 ギャンとブロンズウルフがひと鳴きする。

 リアンナは短槍を再び構え直したあと、ぐっと槍を振り下ろした。

 槍先がブロンズウルフの身体に吸い込まれる。痛みから逃げ出そうとしたウルフは大きく暴れだし、飛び跳ねた。

 

 ガオウと、鳴き声を上げるブロンズウルフ。大きな身体から発する鳴き声は、野太い。

 

 するとリアンナの方へ土の塊が二つ飛んだ。

 一つは短槍で叩き落し、もう一つは小盾で防いだ。

 アラトはボウガンに矢を装填する。ブロンズウルフはリアンナを警戒しているのか、魔法を放ったあと動かない。

 その後リアンナが牽制し、ブロンズウルフが大げさに避けたところをアラトが放った矢が襲った。念動力で威力を増した矢はブロンズウルフの目に向かって飛んでいくのだった。

 

 

 大きな身体のブロンズウルフだったが、倒したあとの解体はうまくいかなかった。どうにも解体できる魔物ではないらしく、魔石を回収すると魔物の身体は消えてしまった。後に残されたのは白っぽい石だった。

 

「精霊石」


 リアンナが呟く通り残された石は精霊石だった。白い石がうっすらと虹色に輝くのは、ベルトの爺さんが持っていた精霊石と同程度の大きさで、リアンナが持つものよりも小さい。

 

 精霊石は全部で二つその場に残されていた。

 精霊石は異次元ボックスの中にしまい、ユニカに調べてもらうことに。

 調べてなにか分かるかもしれないし、何も分からないかもしれない。

 ユニカはさっそく精霊石に触れて色々な角度から眺めていたから、もしかしたら楽しみにしていたのかもしれない。

 

 

 アラトたちはそれから一日経つと再びドワーフの鍛冶屋に来ていた。

 

「ふん、遅かったな。もう来ないかと思ったぞ」


 棚から短槍を取り出すとこちらに見せてきた。リアンナはその短槍を受け取ると軽く握った。

 

「素材はそこらへんにある物を使った。今のうちから良い物を使いすぎると苦労する」


 ドワーフが言うことはもっともで、そもそも貴重な鉱石などを使用した武器など金額的に購入することは出来ない。

 値段を聞くと、アラトが調べた武器の値段からすると大分安い。そのことを言うと「俺が適当に勝手に作っただけだ」と詰まらなそうに言う。

 最近は五層を攻略し、お金も余っている。アラトが反論するように言うとその金は防具などに使えと返ってきた。

 

 ならばとリアンナの防具を揃えてもらうことにした。ちぐはぐな革製の防具を使っているが、もう少し強力なものに変えてもいいはずだ。

 特に前衛で身体を張るリアンナにとって防具は大事な装備だ。

 

 色々とドワーフの爺さんと相談しながらリアンナの装備を決めていく。

 全身を揃えるとなると結構な金額になるが必要な出費である。

 

 

 鍛冶屋を出るとリアンナがアラトの後ろを歩いてくる。並ぶとリアンナがこちらを少し見上げる形になった。

 アラトの視線がリアンナよりも高いところにあるのを、今更実感する。

 

 リアンナはこれからもアラトの行く先についてくることになるのだろうか。

 今のところユニカの頼みの通り、彼女が探している人物を見つけ出すために動いている。こんな場所に生まれ変わったのだから、穴を降りていく先にいるのではないかと予想しているからだが、どちらにせよしばらくはお金を稼いだり、アラト自身が強くなることを目標にしている。

 

 リアンナがその目的の先にもついてくるならば彼女をも守らなければならない。どんな危険な旅になるかは分からないが、ここまで守ってきてくれた彼女をないがしろにすることは出来ないと考えるのだった。

 

 今のアラトでは守るどころか、守られている。

 アラトの前を行くリアンナは頼もしく、魔物の攻撃を防いでくれる姿はアラトをやきもきとさせた。

 今更アラトが戦士などの前衛を張る精霊と契約したとして、それが足手まといになるのではないかと疑問に思う。

 

 探索者のマスターであるベルトによれば、狩人ならば安定だそうだ。

 精霊について深く知らないアラトにしてみれば、あまり賭けに出る気持ちにはなれないのだった。

 

 

 



 アラトはリアンナの装備が完成するまでの間、しばらくは地下世界の攻略を短めにすることにした。

 六層以降の地下世界の情報を知るためにアラトは、ならず者ギルドに顔を出すことにした。

 出来れば資料などないかと期待したが、そんなものは存在しないらしい。出入りする男たちの姿を見れば、こんな人間が大人しく文字を読むとは思えなかった。アラト自身もリアンナに文字を軽く教えてもらったが、それほど自信があるわけではない。

 ギルドの酒場にいるマスターにどうしたら六層以降の話を聞くことが出来るかと、質問するとマスターは面倒くさそうにしながらも、酒でも奢れば教えてくれるだろう、と答えた。

 

 

 それからアラトは酒を注文し、自分は水を飲みながら一人で退屈そうにしている男を狙って話を聞くのを日課にしていた。

 聞きたくもない世間話や自慢話を聞く羽目にもなったが、それらすらもアラトには目新しい話の宝庫だった。

 

 それに、目の前で話す男たちの風貌はそれぞれ特徴があった。

 例えば耳が頭の上に、獣のような毛が生えたものが付いていたり、頭のてっぺんからつま先まで爬虫類のような見た目をした男までいるのだった。

 もちろん普通の男もいる。ひげがぼうぼうに生えていたり、身だしなみなど考えたことの無いような恰好のむさ苦しい男が多いが、思っていたよりも綺麗にしている者も案外いることに気が付いた。

 

 それに、女性もいないこともない。あまり目立たないようにしているが、フードを被っていたりしながら、一緒に酒を飲んでいることもあった。

 大抵は一人でいることはなく、複数人で机を囲っている姿を見かけるだけだった。

 

 だからか、ならず者ギルドで小さな女の子の手を引いた女が困った顔をしながら座っているのが、明らかに目立っていた。

 周りもこれは厄介ごとの種だと気が付いていたのか、遠巻きに見ているだけだ。

 女もため息を付きながら、女の子の手をしっかりと握っていた。

 

 女はどことなく仏教徒のような恰好をしている。帽子をかぶり、輪袈裟とローブの合いの子のような衣服を羽織っていた。暗い色の衣服の割りに、肌が白く浮き出ているのが、どことなく洗練された格好に思えたのだった。

 

 アラトが声を掛けたのは、手を引いた少女がつまらなそうにしているのが目についたからだ。何か訳があるのかもしれないが、どうしてか放っておけなかったのだった。

 

 マスターに果実を絞ったジュースを頼む。

 それを少女の目の前に差し出した。

 

「飲むか?」


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