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当たり前の転生 精霊と穴蔵  作者: 秋乃六倫
第一部 穴蔵に生きる

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第5話 ブロンズウルフ

 まだ店先で見ていたが目ざとくこちらを見つけてきた。

 

「この武器はいくらなんです」


「……」


 鍛冶屋の主は黙ったままだ。どこかの店舗におろしているだけで、別に売り物ではないのかもしれないと、諦めそうになったところで「こっちにこい」と店内から怒鳴るような声が聞えた。

 

 アラトはリアンナの槍をそろそろ新調してはどうかと考えていた。

 今はともかく、五層の先を進んでいくつもりなら、いつかは必要になるものだ。

 それに防具も安物ばかりでなく、鎧くらいはもっとしっかりしたものを装備したい。

 

「今は何層だ」


 言葉少なめにこちらを睨むような視線。おもわずアラトはたじろぐ。リアンナはあまり気にならないのか「四層。もうすぐ五層に行く予定」と答えた。

 

「見せてみろ」


 そう言いながらリアンナの槍を奪うようにしてドワーフが手に取る。

 

「問題ない。手入れが行き届いてるとは言い難いが、この槍ならいけるはずだ」


「五層の先にいくならどう思いますか?」


 ここで初めてアラトが口に出す。

 ドワーフは少し考えたあと、アラトに向かって「お前さんは」と聞いてきた。最初は何のことかは分からなかった。リアンナが「アラトは探索者。ボウガンを使う」

 

「そいつか」


 アラトがボウガンを手渡すと「ベルトのところのか」とつぶやいた。どうやらあの探索者の爺さんはベルトという名前らしい。

 

「お前さんら二人だけだとちと心もとないな。攻撃力が足らない。エルフのお嬢さんがもっと大きな槍を持つか、小僧の攻撃力を上げるか」


「私はエレメンタルランサーになる予定」


「なるほど。だったら短槍のままが良いか。盾は持たないのか」


 リアンナは盾は使ったことが無いと答えた。槍士などでも盾は使えなくないそうだ。前衛をこのままリアンナが務めるつもりなら、盾を使った方が安心感があるという。

 

「リアンナでも短槍を持ちながら盾まで扱えるの?」


 アラトの疑問はリアンナをムッとさせた。しかしリアンナの身体は小さく体重も軽い。短槍でもよく扱えるなと思うこともあるのに、盾まで持ったら振り回すことは出来ないのではないかとアラトには思えたのだった。


「それほど大きなものでなくていい」


 そう言いながら取り出したのは、小さめの丸い盾だった。

 

「今のうちから色んな戦い方を学ぶと良い。それに精霊の恩恵は身体が小さい程度ではなんともない。盾なら身体が小さい分小さい盾でも防ぐことも出来るだろう」


 アラトからしてみれば、精霊とはそんなにも大きい恩恵があるのかという疑問でいっぱいだった。

 しかしこの気難しそうなドワーフに聞くのもはばかられる。

 

「じゃあこれはいくらですか」


「そいつはやる。使わないなら返しにこい。槍も新しいのに買い代えるつもりならまた来い」



 追い出されるように鍛冶屋を出た。金を貯めないといけない予定が出来てしまった。

 

 

 宿に戻ってから、リアンナに「エレメンタルランサー」のことを聞いた。

 

「槍士からランクアップすることでエレメンタルランサーになれる」


 簡潔な説明からは、アラトの疑問が増すことになった。

 どうにも精霊は、レベルや熟練度があがると、より上位の精霊へとランクアップをすることが出来るらしい。

 それらの精霊へとランクアップするには相応の精霊石が必要なのだそうだが、ランクアップするための詳細な条件はあまり分かっていないようだった。

 

「お母さんがこの精霊石残してくれた。だから私はこの精霊石を使ってエレメンタルランサーになるのが目標」


 リアンナの過去を少し知れた。あまり無駄口を開かない彼女は、どういう過去があってアラトと一緒に三層で暮らし始めたのか、今でも分からないままだ。アラトにしてみれば、気になることは気になるが、聞くのが少し怖い気もちもあった。

 

 エレメンタルランサーとは、エルフがランクアップしやすい精霊らしい。

 リアンナから軽く聞いただけなので、どうしてエルフに多いのかはいまいち分からない。

 エレメンタルとは精霊のことらしい。

 精霊と一口に言うが、精霊とは様々な種類があるという。いろんなものに宿り、さまざまな物質などに宿るという。その一部の精霊から力を引き出すのがエレメンタルランサーだとリアンナは語る。

 エルフと言えば精霊というくらい、親和性が高い種族なのだそうだ。

 

 今までアラトにとって精霊といえば、頭上に浮かぶ精霊のことしか知らなかった。エルフにはもっと精霊は身近なようで、普段から契約した精霊以外にも存在を感じられるのだそうだ。

 

 

 

 それから数日が経つと、二人は五層の地下世界に挑むことにした。

 リアンナは小盾の扱いに慣れるために、数日間三層や四層で練習を行った。

 

 リアンナ自身の攻撃力は少し下がったとようだが、確かに盾を持つと攻撃を防ぎやすいと感じたようだ。

 

 五層の魔物は『ブロンズウルフ』という。五層ではブロンズウルフの毛皮が有名で、それらを加工し販売している露店がいくつかあるのだ。

 店で販売している商人に聞き周ったアラトは、ブロンズウルフに対しても少し詳しくなった。

 

 ブロンズウルフとは、見た目がブロンズの色をした毛並が特徴で、素早い上に魔法も使ってくるのだそうだ。

 魔法はそれほど危険はなく、ドムグリが使う土系統の魔法と同じらしい。

 

 五層の地下世界をゲートから進むと、森林の近くに街道のような場所に出た。

 街道は荒れ放題で、草むらがすぐそばまで侵食しているのが分かる。ある程度進むと、草むらからさっと魔物が現れた。

 

 太陽の光が、ブロンズウルフにあたると、反射するようにきらりと輝くのが分かる。たしかに毛並が美しく輝いて見えた。

 

 リアンナがけん制するように槍を片手で操る。ブロンズウルフは槍の尖端に驚いたのか少し大げさに後ろに下がった。

 

 そこにボウガンで狙いを定めたアラトが、矢を放つトリガーを引いた。

 小さいボウガンでは威力はあまり出ないが、念動力で勢いを増すとブロンズウルフに刺さった。

 矢が刺さる直前になって急所を回避しようと身体をねじる。

 胴体にあたったが、小さい矢の割りに威力が高かったためか、硬い毛皮を通り抜け、ブロンズウルフは血を出した。

 

 やはり今までの魔物と違って体力も防御力も高いようだ。

 キャンキャンと犬のように吠えたウルフは、アラトに向かって飛び出してくる。

 リアンナの隣を素早く通り抜けようとしたところを、ウルフに向かって小盾がぶつかった。

 リアンナが盾を使って殴りつけたのだ。ブロンズウルフの身体は跳ね飛ばされ、追い打ちをかけるリアンナに槍で突きさされるのだった。

 

 魔物であるブロンズウルフは、目から光を失い力尽きた。

 かなり手ごわい魔物だと感じた。正確に攻撃を当てることが出来れば、精霊の恩恵のおかげで攻撃力は足りているように思えた。

 いざとなれば、リアンナは盾を離して短槍を両手で持つことも出来る。

 念動力はボウガンの威力をかなり増幅させているように思う。それが無かったら、ブロンズウルフの硬い毛皮を貫くことはできなかっただろう。

 

 それにしてもこの階層からは、しっかりとした連携が必要になってくる。

 リアンナが前衛でアラトが後衛だ。アラトが先手で投石を放ったり、リアンナが先制攻撃をやってみたりと、いろんなことを試しながら進んでいく。

 

 今までの階層からは感じられなかった、攻略しながら進んでいく感覚に、アラトは夢中になった。

 リアンナも魔物と戦うのに真剣になっている。

 

 草むらから足音がかすかに聞こえてくる。音や空気、あるいは匂いから、アラトには手に取るように魔物の姿を感じることが出来た。

 草むらからこちらを狙ってくるブロンズウルフ。がさりと大きな音をたてて飛び出してきた。そこを待ち構えていたボウガンで矢を放った。

 大きな口を開けていたせいか矢は、喉の奥に突き刺さり抜けていった。

 痛みで驚いたウルフが、なんとか地面に着地するが、そこにはリアンナが槍を振りかぶっていた。

 

 

 アラトはブロンズウルフを解体する。探索者のスキルで魔物の理解が深まっているのが分かる。ブロンズウルフは解体すると美しい毛皮を残した。

 アラトの持つ小さな鞄には当然入りきらない。

 もうすでに何枚もの毛皮を持っているが、これ以上持ち運ぶことはできなさそうだった。

 

 異次元ボックスの大きさも、コップ一つ分だったのが、小鍋一つ分くらいになった程度だ。毛皮を入れるには心もとない。

 それにそんなものを入れるとユニカに文句を言われるだろう。ユニカの住む部屋の隅に繋がっているせいか、以前魔物から取ったばかりの魔石を異次元ボックスに入れたら、臭いと怒られてしまったことがあった。

 

 

 結局こまめに地下世界から出ては、毛皮商人に買い取ってもらうことにした。五層のゲート付近には、毛皮の買い取りを狙う商人の露店であふれているのだ。

 

 魔石の金額もそれなりで、一日の狩りを終えてギルドに向かう。

 五層にはならず者ギルドの酒場が存在する。依頼などを受けることは出来ないが、魔石の買い取りは請け負っている。

 強面のマスターに魔石の買い取りを頼む。ほらよ、とぶっきらぼうに硬貨を受け取る。

 大抵どんぶり勘定だが、それほど間違ってもいない。よっぽど減らされていなければアラトは気にしないことにしている。

 

 四層までで得られる魔石は一つで銅貨五枚ほど。五層では一気に価格があがり、大銅貨五枚ほどで交換されることが多いらしい。

 手間賃などの計算をすると銀貨五枚の交換となるはずだが、四枚しかなかった。

 見た目のこともあって、アラトたちは舐められることが多い。いちいちこの程度で怒っていたらきりがないのだ。しかし、しっかりと親切にしてくれた人間のことは覚えておくことにしていた。

 

 

 

 その後何度か五層の攻略を進めた。毛皮を換金するため、何度も行ったり来たりしているせいで中々奥まで進むことが出来ていない。 

 だがかなりの稼ぎになる。それまでは子どもの小銭稼ぎだったが、今はもう大人よりも稼いでいる可能性すらあった。

 特に二人だけで進めているからか、出費も少ないことも影響していた。

 

 五層の最奥には、ブロンズウルフだが強力な個体が現れるらしい。アラトたちは戦ったことはない。その魔物を倒し五層を攻略して『地下世界』に認められなければ、五層より下の階層の地下世界には進むことが出来ないと言われている。

 なぜかこのことはリアンナが知っていた。それを語るリアンナはどこか遠くの記憶を思い出すかのような表情を浮かべていた。恐らくリアンナの親が生きていたころのことを思い浮かべているのだろうと、アラトは思った。



 探索者の爺さんの小屋にアラトは来ていた。リアンナも槍士の新たなスキルを見に行くというので、アラトもボウガンを新たに買い直すつもりで来たのだった。

 

『探索者のスキルはいまいち分からないけど、レベルは上がっているみたい』


 ユニカも最近は精霊の情報を教えてくれるようになった。詳しいことは分からないが、ユニカの世界からでも精霊のことが少しわかるらしい。

 レベルという存在があったとして、今の精霊のレベルは『13』だという。

 それがどれだけのことなのかは分からないが、強くなっているのは間違いないことだ。

 

 

 小屋に入ると、変わらずベルトという名の爺さんが、静かに商品の作成に勤しんでいた。

 

「スキルとボウガンを見に来ました」


 ちらりとこちらを見た爺さんに挨拶を返してから、いつものように探索者の精霊石に手を触れさせた。

 

「魔物からの攻撃を食らってしまったとき、一時的な回復を行うことが出来る。実際には休息や地下世界からの脱出が必要ではあるが、素早く応急手当を行うことで、脱出するまでの体力を保つことが出来る」


「地下世界には罠があることもある。それらをいち早く発見し、解除するのは探索者の役目だ。採取する場所が存在するエリアもある。錬金術や薬師などが必要な薬草などを発見し、探索鞄に確保することで、貴重な素材を収集できる」


 爺さんが語る喋り口はなめらかで、低い声はすっと頭に入ってきた。

 不思議と説明を聞いているだけで、スキルや能力の扱い方が理解できるようになる。しかし、聞きたいこともたくさんあった。

 

「罠って何層からあるんですか?」


「六層からだ。マップの構造が変わり探索できる場所が増える。より探索者の役割が重要になるだろう」

 

 魔物も手ごわくなるようだし、もっと地下世界についても調べる必要がある。もう少しならず者ギルドなどで、情報を収集する必要があるかもしれないと、気持ちが重くなる。

 

「探索者の精霊はもう少しでマスターだ。新たな精霊と契約するか考えているか」


読んでくれてありがとうございます。

評価をしてくれると助かります。

毎日20話更新です。


https://x.com/home?lang=ja

のくたーんの百合ものもよろしく。

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