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当たり前の転生 精霊と穴蔵  作者: 秋乃六倫
第一部 穴蔵に生きる

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第10話 触れた手

 変に身の上話を長々と話したのが、途端に恥ずかしくなったのか顔を赤面させている。白い肌に浮いた赤みがすごい分かりやすくて、アラトとリアンナは笑った。

 

 なんとなく変だと感じたアラトが、ラウラの飲み物の匂いを嗅いだ。中には酒の匂いがするのに気が付いた。

 ラウラは項垂れると、そのままの恰好で寝てしまう。


 五層にある食堂から四層の宿に戻るのはとんでもない重労働であった。

 ラウラはまだ若い見た目をしているが、身体はすでに成人した女性と変わらない。

 階段をのぼるアラトに密着する身体からも、耐えなければならなかった。

 変な想像をしないように身体を支えるながら耐えるのに苦労するアラトだった。

 

 

 

 朝起きて、なんとなくユニカの姿を探した。

 しかし部屋の中を見ても精霊がふわふわと寝ているだけで、ユニカの姿は見当たらなかった。

 同じベッドですやすやと寝ているリアンナを起こし、身支度の準備をしようと思いとなりを見ると、そこに寝ているのはリアンナではなかった。

 いつも着ている白衣はなく、赤く火照ったような顔を苦しそうに歪ませているユニカがいた。

 

 ユニカはこちらの世界の人間ではない。だからベッドで寝ている姿もたまたま彼女が横になっている姿が、部屋のベッドに重なって見えているだけだ。

 

 アラトがユニカの額に手を触れてみる。アラトは驚いた。

 もちろん触れることはできなかった。けれども、手のひらに感じるのはじんわりと人の熱が伝わってきたことだった。

 

 どうやら彼女は熱を出しているらしい。そういえば、昨日狩人の精霊と契約したあとに、何やら声を上げていた。しかしたまたま通りかかったリアンナがいたことで話を聞くことが出来なかった。

 その後も、十層に向かったりとなんやかんや忙しかったのだ。

 

 ユニカが熱を出してもこちらから看病することは出来ない。

 

「ユニカ。起きれるか?」


『大丈夫……少し熱があるだけ』


 起きてるとは思っていなかったが、声を掛けてみるとユニカから返事があった。

 

「どうしたんだ? 風邪でもひいたのか?」


『うーん。どうにも違うみたい。あなたが狩人の精霊と契約したあとから、こちらにも影響があった。どういうことか調べていたんだけど、途中からこんなことに』


 まさか、こちらで精霊を契約したことがユニカの方に影響が出てくるとは思っていなかった。

 宿の主人に水を貰い、コップに注ぐ。異次元ボックスの中に入れるとユニカに水を飲めと告げた。

 

『そんなこと言ったって、ちょっと遠いし、それにそっちの水なんか飲んでいいのか分からない』


 確かにそうなのだが、かといってユニカの部屋のどこに何があるのか、こちらからは見えないのだ。


 結局なんとか起き上がったユニカが自分の手で水を持ってきた。その途中、異次元ボックスを開きっぱなしだったのを思い出し、コップをこちらに戻す。

 

『あ!』


 熱が出ているというのにユニカが大きな声を上げた。

 

「どうした」


『今あなたの手が見えた』


 異次元ボックスからコップを取り出すときの手が、ユニカの方から見えたらしい。異次元ボックスを開けっ放しにしていると、ユニカが手を突っ込んできたのが分かった。

 

『す、すごい。これが大きくなったらそっちに行けないかな』


 そんなことをユニカが呟いたが、結局異次元ボックスのこちら側にユニカの手が通り抜けることはできなかった。

 ただ、ユニカの手とアラトの手が触れ合うことが出来るのは分かった。

 

『……』


 ぼうっとした顔をして、掴んでいる手を見るユニカ。

 心配になったアラトは早く寝とく方が良いと言って手を引っ込めようとした。しかし両手でつかまれた手はしっかりと握り締められ、放してくれない。

 

 どうしたものかとユニカの顔を見ると、アラトは驚いた。

 

「泣いてるのか?」


 ユニカも驚いたのか、手を放して顔に触れる。

 

『熱が出て変になっているのかも』


 ユニカは横になった。アラトが見守るようにベッドに腰掛けていると、いつの間にか眠ってしまったのか、寝息が聞こえてくる。

 いつもなら、寝ている姿など見れないが、アラトがユニカの方へと意識を向けているせいか、いつまでたってもユニカの姿がすぐそばにある。

 ユニカもどことなく安心しているような顔で眠っていたのだった。

 

 

 

 七層の地下世界を攻略することにしたアラトたちは、ならず者ギルドで調べた情報をもとに話し合うことにした。

 

 七層の地下世界にはクレイゴーレムという泥の塊のような魔物がいるらしかった。防御力が高く、武器などの通常の攻撃が効きにくいのが特徴だった。

 一体ならともかく二体同時に現れると、中々手ごわい相手なのだそうだ。

 

 今のところ魔法のような攻撃を扱えるのはラウラだけだった。そのラウラも魔法攻撃はおまけ程度なもので、攻撃の基本はこん棒や身長くらいの長さのある杖《じょう》だけだ。

 

 攻略するには何かしら対策を考えなければならないが、いまいち良い案が浮ばない。

 

「いっそのこと七層は飛ばしてしまうのはどうでしょう」


 ラウラが言う。実際に攻略しなければならない階層というのは五層、十層などの五階層ごとだけだ。

 八階層が攻略できる難易度ならば、七層を飛ばすのもありだろう。

 

 結局、一度だけ七層の様子を見てみることになった。

 

 アラトはあれから狩人のスキルをいくつか覚えることに成功した。狩人に転向したばかりのアラトは慣れるために、五層六層の魔物と戦ったりもした。

 

 もっと自分の力が弱体化するかと思っていたが、そういうことにはならないらしい。

 ユニカに聞いてみると予想外の回答が返ってきた。

 

『どうやらあなたはまだ『探索者』のままみたい』


「どういことだ」


『一度目の転向は、スキルが使えなくなったり、能力が低下することはないという話だった』


 ユニカが言うには、精霊は一度に二つの契約をおこなうことが出来るらしい。一度目には『探索者』これがメインとなる精霊。そして二度目に契約したものは『狩人』これが二つ目の精霊。二つ目の精霊は補助のような扱いで、あくまで能力はメインとなった精霊を元に契約した人間に与えられる。

 

「もう一度別の精霊と契約したらどうなるんだ」


『多分、メインの精霊と交換になるのだと思う』


 そうすると、いきなり能力が低下することになる。アラトで言えば『探索者』のスキルは使えなくなり、一気に戦力が低下することになる。

 

『だからコロコロ精霊を変えてはならないと言われているのかも』


 ユニカが何を言いたいのかアラトにはいまいちピンとこなかった。

 

『つまり、能力のまったく関わりのない精霊との組み合わせは、どちらがメインの精霊かを分かっていないと、狩人の能力のまま、魔法使いのスキルを使うことになるかもしれない。そうなるとどれだけレベルを上げても地下世界を進んでいくと弱い魔法使いのまま』


 今度はようやくわかった。リアンナやならず者たち、あるいは探索者のベルトたちの話を聞いて、精霊との契約をころころ転向するのはよくないと言われていた。

 狩人になったときも、探索者の能力と似通っているものが狩人だと説明された。

 探索者の能力のままでも、狩人なら問題なく戦えるが、前衛を張る戦士はともかく、魔法使いなどの全く必要な能力が違う精霊とは、契約してはならないということだった。

 

「メインを狩人にするべきなのかな」


『もう少しレベルを上げてからでも良いと思う。サブの精霊でも能力の上昇する効果はあるみたいだから、サブを探索者にするならそれでもいいけど』


 メインにしている精霊を主精霊とサブを副精霊とする。

 狩人を主精霊、探索者を副精霊にしてしまうと、せっかくレベルを上げた探索者の精霊が能力を発揮しなくなる。狩人のレベルも低いままであれば、アラトの戦力が低下するのは間違いなかった。

 


「今回の七層のように魔法が必要な場所が出てくるなら、魔法も習得するべきなのかもしれないな」


『そうかも。リアンナちゃんが転向したいエレメンタルランサーは魔法系のような気がするからそれを待ってもいいけどね。ただ、やっぱり回り道にはなると思う』

 

 確かにそうだ。リアンナがなりたいと思ってるようなエレメンタルランサーなどなら、どんな能力も無駄にならないだろうが、最終的にどんな精霊と契約するかはよく考えなければならない。 

 

 アラトは精霊についてもあまり詳しくはなかった。改めてどんな精霊がいて、地下世界を攻略するのにおいて、どんな精霊が必要なのか考えてみるべきだと思うのだった。

 

『それと、あなたの能力はどうやら、私が与えたものも少し加算されているみたい』


 ユニカが与えてくれた能力とは、念動力もそうだし、いつでも重宝している異次元ボックスもそうだ。

 

「あれから体調はなんともないのか」


『大丈夫。どうやら私がベースになっていて、そこに追加されてるように精霊たちが付随しているみたい。詳しいことは私にも分からないけど、精霊の力が追加されたことによって、私にも影響が出たってことなんだと思う』


 一つ目の精霊はともかく、二つ目の精霊は準備ができていなかったとかなんとか。結局アラトにも分からないことばかりだが、本人が大丈夫と言っているならその言葉を信じるしかなかった。

 

「なにかあれば言ってくれ。精霊の転向も負担になるなら、気を付けたほうが良いだろうし」


『ん。大丈夫』



 七層を本格的に攻略するかはともかく、一度挑戦はしてみることにした。

 装備などを更新したりするのも考えたのだが、アラトもリアンナも武器は変えたばかりだった。

 これでどうにかならないなら、スキルや人の問題だという結論になった。

 

 クレイゴーレムというだけあって、土のような地面にその魔物は生息していた。周囲は瓦礫が散乱しており、打ち捨てられた遺跡のような場所だった。

 ゲートから少し歩くと二体のクレイゴーレムの気配が分かる。

 

 狩人になって、察知できる距離が広がったような気もする。クレイゴーレムなどの魔物は、獣のような魔物とは性質が違うのか、察知するための気配も独特だった。

 

 二人に合図をだし、狩人であるアラトが先制攻撃を放つことにした。

 クレイゴーレムはまだこちらに気が付いていない。じっくりと観察をすると、大抵相手の弱点である場所がなんとなくわかるものだが、初めて討伐する魔物の所為かいまいち弱点が分かりにくい。

 

 仕方がないので、矢を放つ。ベルトに貰ったボウガンは、それまでのと違って力の伝わり方が綺麗に矢に集中されているのが分かった。放った後に伝わる手の振動が少し違うのだ。

 放たれた矢に念動力をぐんと追加する。勢いよく放たれた矢は更にスピードを増しクレイゴーレム抉るようにあたった。

 

 それを合図にリアンナとラウラが追撃に入る。

 クレイゴーレム自体は動きが緩慢だ。初弾をあてたアラトに意識が向いているのが分かるが、距離が離れているアラトに攻撃が届くとは思えない。

 しかし、と思う間もなく、アラトに危険だと予感が訴えた。

 

 足元に土の塊が飛び出てくる。さっと回避するが、アラトがいた場所には円錐状の塊が通り過ぎていくのがわかった。

 クレイゴーレムの魔法だった。クレイゴーレムの緩慢な様子に対し、魔法は素早い。ゆっくりな動きに釣られて、魔法を回避できないとダメージを負うことになる。

 

 アラトはボウガンの矢を再びつがえると、二度目の矢を放つ。

 

 確かにクレイゴーレムは体力も多く、攻撃も効きにくい。油断している魔法攻撃が飛んでくる。今までの魔物と比べると、違いに戸惑うこともあるが、何とか一体目のクレイゴーレムを倒すことに成功した。

 二体目のクレイゴーレムはリアンナが前衛を張って足元から突き出てくる魔法を回避しながら耐えてくれていた。

 そのクレイゴーレムも、アラトやラウラが攻撃に参加したことで耐え切れず自らの形を維持できなくなった。残されたのは崩れた泥の中に魔石が残されている。

 一体目のクレイゴーレムは魔石が一つだけだったものの、二体目のクレイゴーレムにはなんと見たことのない石板が残されていた。

 

「これは、装備に使う石板」


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